東京高等裁判所 昭和32年(う)132号 判決
被告人 若杉弘之
〔抄 録〕
弁護人の論旨第一点について。
記録を調査するに、昭和三十一年十二月十二日付追起訴状記載の公訴事実によると、被告人は昭和二十九年七月三十一日頃大林忠志外四名から洋服代金支払方の依頼を受け、現金合計六万一千円を受け取り保管中、内五万一千円をその頃東京都内において自己の借財等に充てるため擅に着服横領したというのであるが、これに対し原審は訴因変更の手続を経ることなく、被告人は前掲日時頃大林忠志外四名から前示趣旨のもとに現金合計六万一千円を受け取り保管中、その頃東京都内において前記用途に充てるため擅に着服横領した旨認定したことは所論のとおりである。しかしながら右公訴事実と原審認定事実とは、横領金額の点において訴因を異にするに止まり、基本たる事実関係においては両者同一であると認められるのであつて、原審が右の如く公訴事実に示された訴因と異なる事実を認定したからといつて、所論のように審判の請求を受けない事件について判決をしたものとはいえない。論旨は理由がない。
(谷中 坂間 荒川)