大判例

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東京高等裁判所 昭和32年(う)136号 判決

被告人 山田昭康

〔抄 録〕

論旨第一点について。

論旨は原判決の事実誤認を主張するものである。よつて先ず主たる訴因である傷害致死の点について記録を精査し原審及び当審で取り調べた証拠を調査検討して見ると被告人が原判示日時場所において田川岩吉と酔余些細のことから口論し、同人に対し原判示の如き暴行を加えた事実及び田川が脳硬膜下出血により昭和三十一年五月六日午前六時頃死亡するに至つたことは明らかであるが、右死亡が被告人の前記暴行に基因するものであるということは全証拠によるもこれを確認することができない。即ち被告人は田川の頭部、顏面を手拳で殴打し胸部を足蹴りにし或は同人を路上に捻じ倒す等の暴行を加えたけれども、一方田川はその直後自宅に通ずる路地を歩行中突如仰向けに顛倒し、その際頭部を路地の整石に打ちつけたことも記録によつて窺われるのであつて、右顛倒が被告人の暴行に因るものであとかどうかについてはこれを確認し得る証拠がなく、従つて田川の死因となつている脳硬膜下出血が被告人の所為に基因するものとは断定し難い。故に被告人に傷害致死の罪責を負わせることはできない。次に予備的訴因について按ずるに、被告人は冒頭に説明したとおり田川と酔余些細のことから口論し同人の頭部、顔面等を手拳で殴打した外その胸部を足蹴りにしていることが明らかであり、上野正吉外一名作成の鑑定書及び当審証人木村吉平の証言によると、田川の胸部には乳頭の高さに超鶏卵大の淡紫紅色部があり、皮下に強い出血があり、この部において胸骨は完全に骨折していること及び右のような皮下出血及び胸骨骨折は手拳による殴打又は足蹴りその他強い打撃によつて生ずるものであることが認められる。尤も右証人木村吉平の証言によると右皮下出血及び胸骨々折は自ら顛倒した場合でも右のような固い物体に打ち当れば生ずる場合もあるというのであるが、田川が顛倒したのは前記の如く仰向けであつたのであるから右皮下出血及び胸骨々折は田川が顛倒した際生じたものとは認められない。然らば田川の胸部に生じた右傷害は被告人が同人を足蹴りにした際生じたものと認めるのが相当であつて被告人の所為は傷害罪を構成すること勿論である。然るに被告人の所為を単に暴行罪と認定した原判決は事実の認定を誤つたもので、その誤が判決に影響を及ぼすことが明らかであるから、論旨は結局理由があり、原判決は破棄を免れない。

(大塚 本田 渡辺辰)

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