大判例

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東京高等裁判所 昭和32年(う)1470号 判決

被告人 下村つぎ

〔抄 録〕

所論は、要するに、被告人の判示所為は業務乃至営業としてなされたものではないから、罪とならないもので、これを相互銀行法違反に問擬した原判決は事実誤認ひいては法令適用の誤を犯したものであるということに帰する。よつて審按するに、原判決挙示の証拠によれば、昭和二十八年九月及び昭和三十年六月の二回に亘り、被告人及びその近隣者、雇人たる原判決別表記載の者相はかり、被告人も会員となつて、一口日掛五十円月掛千五百円一組十口期間十カ月毎月抽せんを行い期間の中途又は満了のときに当り金一口一万五千円を取得する定めで、無尽講或いは頼母子講を設立し、被告人は他の会員の抽せん依頼によりその世話人となり、夫々満会に至るまで、掛金の集金保管、抽せん、当り金の交付等の事務に従事し、原判決別表記載のとおり掛金の受入れ及び当り金の交付をなし、その間抽せんの都度当せん者より茶菓代世話料等の趣旨で一口につき五百円宛の供与を受けたことを認めることができる。しかしながら右被告人の所為をもつて相互銀行業を営んだものと認めるためには、被告人が営利の目的でこの種行為を自ら主宰しこれを反覆継続することを必要とするものと解すべきところ、本件の場合被告人が本講の設立を発起したとか、その会員を勧誘したとか或いは自己の利益と危険負担において本講の運営を企図したとか、要するに被告人が営利の目的で本講を主宰したと認めるに足る証拠は十分でない。前記の如く、被告人が毎月抽せんの際当せん者より茶菓代世話料等の趣旨で一口につき五百円宛の供与を受け又預り金について若干の預金利子を収得したことは明らかであるが、前掲証拠によれば、右は被告人が要求したものでないことはもとより、本講設立に際しての約定によるものでもなく、会員の一人が自発的にこれをきよ出したことから自然発生的に慣例化したものであつて、本講運営のための実費乃至労力に対する対価に過ぎず、之を以て被告人に帰すべき利益とは認め難い。もつとも被告人の検察官に対する供述調書中にはかようなことをしたのは手数料として金も入るし預つた金を信用組合に預金して利子も入り儲けになるからである旨の記載があるが、右は原審及び当審における被告人の供述と対比し措信しがたい。その他記録を精査しても、被告人が営利の目的で本講を主宰したと認むるに足る証拠は発見できない。してみれば被告人の所為をもつて相互銀行業を営んだものとは認められず被告人が大蔵大臣の免許を受けないで前記の如き所為に出たからといつて、これを相互銀行法違反に間擬した原判決は事実誤認ひいては法令適用の誤を犯したものというべく、その誤が判決に影響を及ぼすことは明白であるから、論旨はこの点において理由があり、原判決は破棄を免れない。

よつて刑事訴訟法第三百九十七条第四百条但書により原判決を破棄し、更に当裁判所において判決することとする。

本件公訴事実の要旨は、

被告人は大蔵大臣の免許を受けないで市川市伊勢宿十三番地の自宅で営業として

第一、昭和二十八年九月八日から昭和二十九年七月七日まで十月間前記被告人自宅外数カ所で石井ふじ外原判決別表一記載の二十名を会員としてその中途又は満了のときに一口当り金一万五千円を給付することを約して合計金五十二万五千円の掛金の受入れをなし

第二、昭和三十年六月十六日から昭和三十一年三月十五日まで九月間前記被告人自宅外数カ所で大野たつ外原判決別表二記載の十九名を会員としてその中途又は満了のときに一口当り金一万五千円を給付することを約して合計金四十九万九千五百円の掛金の受入れをなし

もつて相互銀行業を営んだものである。

というのであるが、右事実については、前示のように、その証明が十分でないと認めるので、刑事訴訟法第三百三十六条後段により被告人に無罪の言い渡しをすることとし、主文のとおり判決する。

(谷中 坂間 司波)

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