東京高等裁判所 昭和32年(う)1600号 判決 1958年12月09日
控訴人 原審検察官
被告人 横田熊二 弁護人 真田康平
検察官 沢田隆義
主文
原判決を破棄する。
被告人を懲役壱年及び罰金六拾万円に処する。右罰金を完納することができないときは金参千円を壱日に換算した期間被告人を労役場に留置する。
この裁判確定の日から参年間右懲役刑の執行を猶予する。
東京地方検察庁の領置にかかる別紙目録第一記載の腕時計百弐拾七個(同庁昭和二十八年領第五三三九号の一の内)はこれを没収する。
被告人から金参百弐拾九万七千五百弐拾八円を追徴する。
訴訟費用は全部被告人の負担とする。
理由
本件控訴の趣意は東京地方検察庁検事正柳川真文及び弁護人真田康平提出の各控訴趣意書に記載されたとおりであるから、ここにこれを引用し、これに対し次のように判断する。
検察官の論旨第一点について
(一) まず原審が刑法第十九条第一項第四号第二項により東京地方検察庁の領置にかかる現金七十七万一千五百円(同庁昭和二十八年領第五三三九号の二の内)の没収を言い渡した点について考按するに、原判決援用の証拠によると、被告人は昭和二十七年六月一日頃小森孝から関税逋脱の密輸入品である原判示腕時計合計千九十五個を故買したうえ、翌六月二日頃その内の二百六十八個と、それ以外の三十一個とを含めた合計二百九十九個の時計を実弟横田茂をして中村賢三に売り込ましめたところ、右中村は内百七十一個を代金七十七万一千五百円で買い受けたのであるが、右百七十一個の中には原判示千九十五個以外の三十個が含まれているので、原審が被告人の本件故買に係る時計の一部を売却した代金中その領置にかかる分を没収の対象としたとしても、その金額は本件以外の三十個を除外した百四十一個分の代金六十五万一千五百円でなければならないことが明らかであるから、原審は既にその金額の算定において誤をおかしていること所論のとおりである。しかし、その点を除外しても右金員が原判決の如く刑法第十九条第一項第四号によつて没収され得るためには、該金員が対価となる前のその関税賍物自体が同法条項第三号によつて没収し得る場合でなければならない。しかるに関税賍物の没収については関税法に特別の規定が存するので、刑法第十九条第一項第三号の適用は排除される結果、関税賍物の対価についても同法条項第四号の規定を適用してこれを没収することは許されないのである。そして本件貨物の如き昭和二十九年法律第六十一号による改正前の関税法(以下「旧関税法」という)当時における関税賍物を没収することができない場合においては、同法律第六十一号附則第十三項により旧関税法第八十三条第三項に従い該賍物の原価に相当する金額を追徴すべきであつて、その賍物の対価が押収されているからといつて、これを没収し得べき限りでない。されば原判決が前示金員の没収を言い渡したのは法令の適用を誤つたもので、この誤が判決に影響を及ぼすことは明らかである。
(二) 次に東京地方検察庁の領置にかかる別紙目録第一記載の腕時計百二十七個が、原判示の如く被告人において小森孝より故買した関税逋脱の密輸入品の一部であつて被告人の所有に属するものであることは、原判決援用に係る被告人の司法警察員及び検察官に対する各供述調書、証人中村賢三、同横田茂の各供述等によつてこれを明認し得られるので、旧関税法第八十三条第一項の規定によりこれを没収すべきであるにかかわらず、原審が原判示のような独自の見解のもとに前示百二十七個の腕時計の没収を言い渡さなかつたのは、これ亦所論の如く判決に影響を及ぼすこと明らかな法令の解釈適用の誤をおかしたものといわなければならない。
(三) 更に原判決挙示の証拠によると、関税逋脱の密輸入品である原判示腕時計千九十五個のうち別紙目録第一記載の腕時計百二十七個を除く同目録第二記載の腕時計九百六十八個については、既に被告人から他に売却せられて没収不能であると認められるから、前説示の理由により旧関税法第八十三条第三項を適用して、その原価相当額の追徴を言い渡すべきであるのに、原審はその言渡をしていないので、この点についても原判決は所論のとおり、法令の解釈適用において判決に影響を及ぼすこと明らかな誤をしているものというべきである。以上(一)ないし(三)の各論旨はすべて理由があり、原判決は右いずれの点においても、到底破棄を免れない。
弁護人の論旨第二点について
本論旨の理由のあることは、検察官の論旨第一点に対し(一)の項において説示したとおりである。
(その他の判決理由は省略する。)
(裁判長判事 谷中董 判事 坂間孝司 判事 司波実)
東京地方検察庁検事正柳川真文の控訴趣意
第一点原判決には法令の適用の誤がありその誤は判決に影響を及ぼすこと明かであるから、原判決は破棄を免れない。
原審裁判所は被告人が関税逋脱の貨物たる外国製腕時計一、〇九五個を小森孝から故買した事実を認定しながら、その判決主文において附加刑としては現金七七一、五〇〇円の没収の言渡をした。しかし右は法令の適用を誤つて、没収すべきでないものを没収しているばかりでなく、旧関税法第八三条の規定を適用して一二七個の時計の没収及び三、二九七、五二八円の追徴の言渡をなすべきであるのにこれが没収並びに追徴をしない違法がある。以下その理由を述べる。
一、本件一、〇九五個の関税逋脱物たる時計中一二七個は被告人の所有並びに占有に係るものであるから旧関税法第八三条第一項により没収すべきであるのに原判決はこれをなさない。
(1) 先ず右一二七個の時計が本件一、〇九五個の時計中の一部であり、かつ被告人の所有並びに占有に係るものであることについて述べる。適法に証拠調を経た被告人の捜査官に対する各供述調書、証人中村賢三、同横田茂の各証言を綜合すれば次の事実が認定できる。即ち、被告人は昭和二十八年六月一日頃本件一、〇九五個の時計を故買した上翌六月二日頃そのうちの二六八個と、それ以外の三一個との合計二九九個の時計を自己の実弟横田茂をして名古屋市在住の中村賢三に売込ませた。ところが、中村は右の二九九個の時計中一七一個を買受けたので残余の一二八個は売れ残りとなつた。この外に中村はその時曽て被告人から買受けた時計(従つてそれは本件一、〇九五個以外の時計)中ボマー八個を返品するとて横田茂に渡した。したがつて横田茂は売れ残り一二八個と返品分八個との合計一三六個を持ち帰つたが、その途中上野警察署員に右一三六個を所持したまま逮捕された。そして本件被告人横田熊二の関税逋脱物たる時計の故買の嫌疑事実が発覚し、右一三六個の時計は同署において税関職員によりその証拠品として押収され原審公判廷にも展示された。そして中村が買受けた前記一七一個の中には本件一、〇九五個以外の時計が三〇個含まれており、売り残りの一二八個中にも本件一、〇九五個以外の時計一個が含まれていることが認められ、前掲各証拠によればその一個はレコルターと呼ばれる時計であることも明らかである。このようにみてくると、押収中の一三六個の時計中前記ボマー八個及びレコルター一個を除く一二七個は被告人が小森孝から故買した本件一、〇九五個の時計中の一部であること並びに被告人がこれを横田茂を介して所持していたものであることが明らかである。
(2) 以上のように右一二七個の時計こそは被告人が故買した関税逋脱の貨物であつて被告人の所有並びに占有に係るものであるから、旧関税法第八三条第一項の規定により没収すべきものであるのに原審はこれが没収をしない。この点に関して原審は、「本件は本犯たる別件被告人小森孝と共に検挙され孰れも起訴されたるものとする斯る場合旧関税法第八三条は本犯たる別件被告人小森孝のみに適用ありと解するを相当とする」(原文のまま)旨判示し、その理由として、「元来旧関税法第八三条の没収及び追徴は懲役刑を補足する刑で該当物件の国内に於ける存在を忌避するものであるので同一物件に付重ねて没収追徴の刑を課することとなり云々」と述べている。即ち、さきに関税逋脱の本犯たる小森孝に対して旧関税法第八三条により没収追徴の判決を言渡してあるので、故買犯たる被告人について更に同一の没収追徴の判決を言渡せばそれは同一物件について二重に没収追徴の刑を課することになつて不合理であるから、このような場合は故買犯たる被告人には旧関税法第八三条の規定の適用はないと解すべきであるという趣旨と解せられる。しかし共犯者の一人についてさきに没収の判決が確定している場合でも、それは他の共犯者に対し同一物件について没収の言渡をするに妨げとなるものではない(大正十二年十一月二十六日大審院刑事第二部判決。大判刑集二巻八三三頁、昭和二十四年五月二十八日最高裁第二小法廷判決、最高刑集三巻六号八七三頁)のであるから、同一物件につき重ねて没収追徴の刑を課することとなつて不当である旨の原判決はその前提において誤つている。もつとも共犯関係に立つ者の間において一方に対する没収判決は他方に対する同一物件没収の判決をなす妨げとなるものでないと解するのが大審院以来一貫して変らない判例の態度であることは明瞭であるが、関税逋脱の本犯と当該逋脱物の故買犯との間における二重没収の問題についても共犯関係の場合と同様に解することができるかの点に関する最高裁の判例は未だ現われていないようである。この点に関し原審は消極の見解を示している。即ち「形式上刑法第六〇条乃至第六二条の共犯者連帯責任の観念で説明し得ざる結果となるので本件の如き場合は被告人に旧関税法第八三条を適用せざるを可とする」と判示した。その趣旨は必ずしも明らかでないが、そのいわんとするところは、刑法第六〇条乃至第六二条の規定するいわゆる共犯関係に立つ者の間においては、共犯者連帯責任という考え方からいつて同一物件につき没収追徴の判決を各自に(即ち二重に)言渡すことも肯定されるのであろうが、本件のような関税逋脱の本犯と逋脱物の故買犯との関係はそのような共犯者連帯責任の観念を容れる余地がないのであるから、本犯に対し没収追徴の判決ある以上故買犯に対し同一物件について更に没収追徴の判決をなすことは許されないのであるというものの如くである。しかし共犯者各自にそれぞれ同一物件の没収又はそれに代る追徴の判決言渡をするのは、それら各人が共同意思の下に一つの犯行に加功したことの故に共犯者各自に対してそれぞれ没収又はそれに代る追徴の刑罰を課するのであつて、共犯者連帯責任の故にではないのである。ただこれら共犯者各自に対する同一物件の没収又は追徴の判決を執行する場合において、その共犯者の一人が全部又は一部の履行をすれば当該履行部分については他の共犯者に更に履行を求めることはできない(昭和三十一年八月三十日最高裁第一小法廷判決、最高刑集十巻八号一二八三頁、同三十年十二月八日最高裁第一小法廷判決、最高刑集九巻一三号二六〇八頁)のであるが、これは共犯者各人が民法第四三〇条の不可分債務を負担した場合に準ずるものとみるか又は民法第七一九条の共同不法行為による不真正連帯債務を負担した場合にあたるとみるために外ならないのであつて、原審のいう共犯者連帯責任の観念とはまさにこのような執行の面においてはじめて考慮されるべき考え方なのである。即ち共犯者連帯責任の観念は没収、追徴の判決の言渡には関係なく、その判決の執行の面で問題になるにすぎないのである。判決の言渡と執行とは明確に区別されなければならない。かようにみると、共犯関係においてすらその判決の言渡の際には前記のように共犯者各自に対してそれぞれ同一物件の没収追徴の刑を課するのであるから、まして関税逋脱の本犯と逋脱物故買犯との間において、各別にそれぞれ同一物件について没収追徴の刑を課し得ることは当然のことといわなければならない。何となれば本犯と故買犯との関係は、前記共犯関係と違つて、各人の犯行において共同の意思なく各人が独立別箇の意思の下に独立別箇の犯行をなしているのであるから、関税逋脱の本犯に対してはそのような逋脱の犯行をなしたが故に、また故買犯に対してはそのような関税賍物を故買したが故にそれぞれ没収追徴の刑を課せられるべきだからである。そして現に高等裁判所の判決には、本犯に対する没収の判決確定後においても故買犯に対し同一物件の没収の言渡をなすことを妨げないとした判例がある(昭和二十八年十二月七日高松高裁第三刑事部判決、高裁刑集六巻十三号一八五八頁)。この判例の場合に比べて本件においては、本犯たる小森孝に対する没収の判決が同人において控訴申立中であるため未だ確定していない(このことは原審裁判所に顕著な事実である)のである。従つて故買犯たる被告人横田熊二に対し同一物件の没収をすることについては右判例の場合以上により強い実質的理由があるといわなければならない。以上述べてきた理由により、本件一、〇九五個の時計中の前記一二七個の時計については、被告人横田熊二に対して旧関税法第八三条第一項の規定を適用してこれが没収を言渡すべきであつたのに、ことここに出なかつた原判決には法令の適用の誤があり、その誤が判決に影響を及ぼすこと明らかであるから、原判決はこの点においてすでに破棄を免れない。
二、本件一、〇九五個の時計中前記一二七個を除く爾余の九六八個の時計は既に売却処分せられ没収することができないから、関税法第八三条第三項によりその原価に相当する金額三、二九七、五二八円を追徴すべきであるのに原判決はこれをなさない。
(一) 前記一、記載のとおり被告人は故買した関税賍物たる本件一、〇九五個の時計中一二七個を除く九六八個は、既に数人の者に売却し、その買主は更に善意の第三者に転売するなどしていずれも没収することができない状況にある。そこで被告人に対しては関税法第八三条第三項の規定により没収不能の前記九六八個の時計の原価相当額の追徴の言渡をすべきであるのに、原審は前記一、に掲げたように本犯たる小森孝に対しすでに追徴の言渡をしているから被告人に対しては追徴の刑を課さない旨判示している。被告人に対して追徴の言渡をしない理由として原判決が挙げる点がいずれも理由のないことについては前記一、に詳細に述べたとおりであるからここにこれを引用することとし、なお被告人に対し関税賍物の故買犯として本犯の刑とは別個独立に追徴を課すべき実質上の理由を若干附加すれば次のとおりである。即ち、関税法による没収及び追徴は、国家が同法規に違背して輸入した貨物又はこれに代るべき価格が犯則者の手に存在することを禁止し以て密輸入の取締を厳に励行しようとする趣旨に出たものである。しかして前記九六八個の関税逋脱の時計についてみるに、被告人がこれを故買し他に売却している以上、その犯則貨物に代るべき価格が被告人の手中に存在すること明らかであるから、同人に対しその価格即ち右九六八個の原価相当額の追徴を命ずべきは当然である。そして小森孝に対し同額の追徴を課したことは被告人に対する右追徴の言渡にとつて何らの妨げにもならない。同様の理はいわゆる偽造たばこが順次数人間に譲渡された場合についてもいえるところであつて、たとえ最後の者が没収または追徴された(本件は最初の者たる小森が追徴されたにすぎないからなおさらのことである)からとて、その前者等はいずれも追徴を免れるべきものではなく、対価を得て譲渡している場合には同人らもまた、その対価相当額の追徴を免れないのである(昭和二十九年四月二十七日高松高裁第三刑事部、高裁刑集七巻八号一一七五頁)。前記一、に述べたところと彼此綜合するとき、本件の場合においては鑑定表によつて明らかとなつている前記九六八個の時計の原価相当額三、二九七、五二八円の追徴の言渡をすべきが当然の筋合といわなければならないのに、これをしなかつた原判決には法令の適用の誤があり、その誤が判決に影響を及ぼすこと明らかであるから、原判決はこの点でも破棄を免れない。
(二) 原審が刑法第十九条第一項第四号により七七一、五〇〇円の没収を言渡したのは法令の適用に誤があり没収すべからざるものを没収した違法がある。前記一、掲記の各証拠によると、被告人は昭和二十八年六月二日頃実弟横田茂を介して中村賢三に一七一個の時計を売却しその際横田茂において中村賢三から八七四、〇〇〇円を受領したが、そのうち七二、〇〇〇円はその前に被告人が中村に売つていた売掛金であり、三〇、五〇〇円は被告人の中村に対する貸金の返済分であり、それらを控除した七七一、五〇〇円が当日の一七一個の時計売買代金であることが認められる。ところが前記のようにこの一七一個の中には本件一、〇九五個以外の三十個の時計が含まれているのであるから、本件故買に係る時計の売買代金としてはその分を控訴した六五一、五〇〇円であつて(記録二六九丁、三一四丁、三五一丁)、この金額の点ですでに原判決は誤をおかしているが、そのことを論外にしても、原判決が刑法第十九条第一項第四号を適用して右金員の没収を言渡したことは法令の適用に誤があるといわなければならない。即ち、刑法第十九条第一項第四号の規定により没収し得るものとするためには、本来その貨物(その対価に変型される前の貨物)自体が同条第一項第三号の規定により没収し得る場合であることを要する。ところが旧関税法第八三条第一項は故買した関税逋脱貨物即ちいわゆる関税賍物についてこれを没収すべき旨規定しているから、一般法と特別法との関係からしてこの場合刑法第十九条第一項第三号の適用が排除されることとなり、従つて該貨物(本件でいえば前記一四一個の時計)の対価について刑法第十九条第一項第四号の規定を適用して没収することは許されないと解しなければならない。そして、関税賍物の場合には特別法に戻つて、旧関税法第八三条第一項の規定によつて没収することができないものとして同条第三項の規定を適用してその貨物に相当する金額を追徴すべきものであつて、前示対価が偶々押収されているからとてこれを没収すべき筋合のものではないのである(昭和二十九年二月六日福岡高裁第三刑事部判決-高裁刑事判例集第七巻第二号九五頁)。従つて原判決が刑法第十九条第一項第四号の規定を適用して七七一、五〇〇円の金員を没収したのは法令の適用を誤つたものといわなければならない。この点でも原判決は破棄を免れない。
なお、本件一、〇九五個の時計中の前記一四一個の時計の原価相当額は当然追徴されるべきものではあるが、右一四一個は前記二、の九六八個の中に含まれているのであるから、その原価相当額も九六八個の原価相当額たる三、二九七、五二八円の中に含まれていることとなり、三、二九七、五二八円を追徴する。以上あらためて一四一個分の追徴の言渡を要しないと解される。
弁護人真田康平の控訴趣意
第二点原判決は判決に影響を及ぼすこと明らかな法令の適用に誤がある。
一、原判決は主文において被告人より金七十七万千五百円を没収しているが、右金額は法律上没収し得ないものである。
二、領置にかかる現金八十七万四千円の内金七十七万千五百円が、被告人の本件買受け時計類を転売して得たものであることは明らかであり原判決は「主文掲記の没収物件は本件故買行為を手段として得たものの対価で被告人のものに外ならざるを以て刑法第十九条第一項第四号第二項により之を没収すべく」と判示しているが、旧関税法第七十六条の犯罪にかかる貨物については、同法第八十三条第一項にこれを没収する旨、及び同条第三項に、その物を没収することができないときは、その原価に相当する金額を追徴すべき旨の規定があり、右関税法の没収、追徴の規定は刑法と特別法との関係にあるから関税法違反の犯罪にかかる物件については関税法の規定を適用して没収、追徴をなすべきであつて、刑法第十九条を適用又は準用する余地はないのである。すなわち原判決のように、刑法第十九条第一項第四号により没収し得るものとするためにはその時計類自体が同条第一項第三号を適用し本来没収し得るものでなければならない。而して本件密輸入の時計類の没収は関税法第八十三条第一項により没収すべきで、刑法第十九条第一項第三号を適用すべきでないことは疑う余地がない、従つてこれら時計類を転売して得た対価には同条第一項第四号を適用するに由なくこれを没収し得ないものである。
三、原判決は領置にかかる現金八十七万四千円の内七十七万千五百円は故買行為を手段として得たものの対価なりとして没収したのであるが、仮りに右売得金が対価として没収し得るものとしても右現金八十七万四千円は被告人が右小森より買受けた時計類を転売して得た金七十七万千五百円と他の時計類を販売した代金十万二千五百円とが混交したものにして総金額の内本件時計類の対価である右七十七万千五百円を判別することができないので没収の性質上原判決のように対価として没収することはできぬのである。
四、以上のようにして原判決は法令の適用を誤つたものにして、その誤は判決に影響を及ぼすこと明らかなので破毀せらるべきである。
(その他の控訴趣意は省略する。)