東京高等裁判所 昭和32年(う)1960号 判決
被告人 蒲悦次
〔抄 録〕
弁護人の控訴趣意第一点について。
刑第二百四十六条第二項の詐欺罪において財産上不法の利益が債務の支払を一時免れたことであるとするには相手方たる債権者を欺罔してその旨の意思表示をさせることを要するものと解すべきであるから(所論引用の最高裁所判決参照)原判決が判示のように事実を認定しこれを以て直ちに代金の支払を一時免れ財産上不法の利益を得たものとしたことは失当であるが、原判決の認めた事実は被告人が代金支払の意思並びに能力がないのにこれがあるように装い相手方をしてその旨誤信させて判示各飲食物を提供させたと云うのであるから、このこと自体により刑法第二百四十六条第一項の詐欺罪の成立を認めたものと解することができ、「右代金の支払を一時免れて財産上不法の利益を得た」旨の判示は結局無用の判示と認めるのが相当である。(右飲食物は全部被告人が自らこれを飲食したものでないことは記録上明らかであるが、被告人がその提供を容認しこれを受けていたものと認められるからすべて被告人の占有に帰したものと認めることができる。)しかして右事実については刑法第二百四十六条第一項を適用すべきであり、原判決がこれに対し同条第二項を適用したのは法令の適用を誤つたものであるが、右法令の適用の誤は判決に影響を及ぼすことが明らかなものとは解せられない。又各判示後段のような無用な判示があるからと云つて、これをいわゆる「理由のくいちがい」には当らないものと解するのが相当である。故に論旨はすべて理由がない。
(谷中 坂間 荒川)
註 原判決の認定したる事実は
第一、昭和三二年七月二一日夜浜松市元魚町四〇七番地バーパラダイスこと谷口さよ子方に於て同人に対し代金支払の意思並びに能力がないのにあるように装いかつその事実がないのに「今日は浜名湖の競艇で六万八千円儲けた、金はある」等と申向けながら酒肴を注文しよつて同人をして飲食後即時代金の支払があるものと誤信させ即時同所に於てビール四本外二十二点(代金合計三、八四〇円)を提供させて、右代金の支払を一時免れ財産上不法の利益を得た。
第二、同月三一日午前零時半頃同市千歳町六〇番地バーベラミこと細谷信一方に於て同店店員小椋恵美子に対し前記同様装い酒肴を注文しよつて同人をして飲食後即時代金の支払があるものと誤信させ即時同所に於て清酒三本外十四点(代金合計二千百円)を提供させて、右代金の支払を一時免れ、財産上不法の利益を得た。