東京高等裁判所 昭和32年(う)1989号 判決
被告人 鈴木健蔵
〔抄 録〕
所論は「原判決には認定事実と証拠との間にくいちがいがあり、また虚無の証拠を引用した違法もしくは事実の誤認がある。」と主張する。そこで記録を調査すると、原判決は
(イ) 原判示一の(2)事実認定の補強証拠として西川正平作成の被害届を挙げているが、記録を精査しても同人名義の被害届はなく、西川八重名義のものがあるだけである。
(ロ) 原判示二の(1)事実認定の補強証拠として宇野正規作成の被害届を挙げているが、同人名義の被害届(記録第三六丁)によればその被害額は現金三百円に過ぎないから、右は到底同判示認定事実の補強証拠とはなりえない。(もつとも記録中には同人名義の盗難被害追加届(第三九丁)があり、それまで併せれば原判示事実を認定できるが他の場合のようにとくに「二通」とも判示していない点からみて、右追加届まで引用したものとは認められない。)
(ハ) 原判示三の(1)事実認定の補強証拠として高田勉作成の被害届二通を挙げているが、記録に徴すれば、同人名義の盗難被害届は一通であつて、しかもそれは司法警察員作成の謄本であり、他には盗難被害追加届謄本の存在は認められるが、これをも証拠に引用したものであるか判文上明らかでない。
(ニ) 原判示三の(2)事実認定の補強証拠として大橋正作成の被害届を挙げているが、これも前同様司法警察員作成の謄本であるのにその旨を判示していない。
(ホ) 原判示三の(3)事実認定の補強証拠として武田元春作成の被害届二通を挙げているが、内一通は前同様司法警察員作成の謄本であり、他の一通は盗難被害追加届である。
(ヘ) 原判示三の(4)事実認定の補強証拠として福田常作成の被害届を挙げているが、これも前同様司法警察員作成の謄本であるのにその旨を判示していないばかりでなく、同人作成の「盗難被害届追加」(第八九丁)及び「盗難被害追加届並びに被害一部取下願」(第九二丁)を併せ引用しなければ原判示事実を認定できないのにそれをしていない。
(ト) 原判示二の(1)乃至(3)における犯罪事実の日時として、「同月」もしくは「同日」と判示してあるのは、その前後の関係からみて昭和三十二年四月を指すものであると認めざるをえないが、原判決の引用する証拠と対照すると、それは明らかに昭和三十二年五月であるから各犯罪日時がそれぞれ一ケ月相違している。(もつともこの点は起訴状の記載自体が誤つているのであるから原裁判所は釈明権を行使してこれを訂正さすべきであるのにこれを怠つている。)
ことが認められるが、なおそのほかにも原判示一の(1)事実について、原判決は広島喜一作成の被害届による被害額が一万一千円とあるのを超えて、金一万一千百円と認定していることも認められる。叙上のような原判決の瑕疵は到底単なる明白な誤記であるとはいい難く、理由を附しないか、または理由にくいちがいがあるものと断定せざるをえないから論旨は結局理由があり、原判決は破棄を免れない。
(三宅 河原 下関)