東京高等裁判所 昭和32年(う)2035号 判決
被告人 古田満夫
〔抄 録〕
論旨は被告人は中西と些細なことから喧嘩となつたが、その最中に安部重孝が出てきて相手が二人となつて被告人に殴りかかつてきたので、被告人は自己の生命、身体に対する侵害に対しこれを防衛するため巳むを得ず飛出しナイフで応戦したもので正当防衛であり、仮りに然らずとするも過剰防衛であると主張するが、挙示の証拠によると被告人と中西は些細なことから喧嘩を始め中西が被告人を突きとばしたところ、被告人は直ちに飛出しナイフを以て中西の顏面を切りつけ、逃げる中西を追いかけて更に同人の腹部を刺し、尚この時仲裁に駈けつけた安部重孝の顏面を切りつけたことが明らかであつて、中西と安部が一緒になつて被告人を殴つたものでないのは勿論、同人等は何等刃物等を持つていた訳ではなく、中西が被告人を突きとばしたのは二人が喧嘩中のことであるから、本件に対しては正当防衛又は過剰防衛の観念を容れる余地はない。記録を精査し当審における事実取調の結果に徴しても原判決の事実認定に所論のような事実誤認の過誤ある廉を発見し得ない。また記録によつて窺われる本件犯罪の動機、態様、特に被告人の前科及び被害の程度その他諸般の情状を各綜合すると、原判決の量刑は相当であつて、重すぎるものとは認められないから論旨はいずれも理由がない。
(大塚 本田 渡辺辰)