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東京高等裁判所 昭和32年(う)208号 判決

被告人 野村重夫こと金重助

〔抄 録〕

弁護人の論旨第二点について。

昭和三十一年法律第九十六号をもつて改正された外国人登録法(以下新法という)第十一条第一項は、改正前の外国人登録法(以下旧法という)第十一条第二項と比較すると、その間字句や形式に於て著しい差異が認められる。即ち旧法ではその第一項が「登録証明書の有効期間は交付の日から二年とする」とあるのを受けて、第二項に「前項の期間満了前三十日以内に、登録証明書を居住地の市町村の長に返納し………新たに登録証明書の交付を申請しなければならない」と規定されていたのに対し、新法では登録証明書の有効期間に関する規定は設けないで、単に「外国人は第四条第一項の登録を受けた日から三年を経過する前三十日以内に、その居住の市町村の長に対し………登録原票の記載が事実に合つているかどうかの確認を申請しなければならない。確認を受けた日から三年を経過する日前三十日以内においても同様とする」と規定しているのである。しかしこの両者の表現形式上の差異はともかくとして、その趣旨はいずれも外国人の居住関係や身分関係を明確ならしめ、在留外国人の公正な管理に資することを目的とするもので、外国人が登録証明書の交付を受けた後の身分上や居住に関する変動を放置するのを防ぐため旧法は登録証明書の有効期間を定めているのであり、このように一旦交付した登録証明書を絶えず一定期間満了前に切り替えさせることとしたのは、その機会に新たにこれを交付すべき市町村の長をして登録原票の記載が事実に合つているかどうか確認できるようにしたものであり、旧法の登録証明書交付申請というのは、その本質に於て、新法の確認申請と少しも違つた点はないといわねばならない。又右旧法第十一条第二項又は新法第十一条第一項に違反すれば、その場合いずれも一年以下の懲役若しくは禁錮又は三万円以下の罰金に処すべきもので、ただ新法第十八条第一項第一号は旧法第十一条第二項の改正に伴う当然の修正をしたに過ぎないのであるから、結局これら刑罰法規はその本質上改正の前後を通じ変更はないと解するのが相当である。所論は叙上の解釈の正当であることを一応肯定しながら、新法附則に「新法施行前になした行為に対する罰則の適用についてはなお従前の例による」との経過規定を存しないこと及び同附則第二項を根拠とし、被告人の確認申請の義務は昭和二十九年十月二十七日から更に二年間猶予されたこととなり、旧法による登録証明書申請義務も可罰性、違法性を失つたものと主張する。しかし新法附則第二項は、新法施行の時に登録証明書の交付を受けている外国人が新法の施行により何時までにその確認の申請を為すべきか、即ち旧法による登録証明書の有効期間たる交付の日より二年以内にこれを為すべきか、或いは新法による三年の期間内にこれを為せば足るか解釈上疑問を生ずるのを防ぐための規定で、新法施行前新たに登録証明書の交付を申請すべきであつたに拘らずその期間を徒過していた者に対し、確認申請義務を更に二年間猶予するものとした趣旨ではない。又新法附則に所論のような経過規定を設けなかつたのは、外国人登録法の改正が罰則の適用上改正の前後を通じ本質的に同一であることに鑑み、「なお従前の例による」旨の規定を特に定める必要はなく、旧法時に成立した違反行為に対し、新旧いずれの法律を適用すべきかは一般の法理に委ねたからであるというべく、この種経過規定がないからといつて旧法による行為の可罰性が新法の施行の同時に失われたものと解すべきではない。所論は独自の見解であり、採用できない。

ところで原判決をみると、「被告人は日本に国籍を有しない朝鮮人であるが、その登録証明書の有効期間の満了する昭和二十九年十月二十七日前三十日以内に、所定の手続により、これを居住地である東京都豊島区西巣鴨所轄の豊島区長に返納の上新たに登録証明書の交付申請をすることなく、右期間をこえ昭和三十一年八月十五日迄本邦に在留した」事実を認定し、旧法第十一条第二項に違反したものとして新法第十八条第一項第一号に従い処断している。所論は右の如き法律適用が不当と主張する。本件のような不作為犯にあつては、登録証明書の交付を申請することによりその違法状態が終了しない限り、その行為は継続し、一個の犯罪が成立するものでその行為の継続中に法律の改正があつても、刑法第六条による新旧両法を比照する問題は生ずる余地なく、常に新法を適用すれば足りる。しかし、その法律改正が実質的に新旧同一のことを規定していても旧法第十一条第二項と新法第十一条第一項のように、規定の文言形式において著しい差が生じておれば罪となる事実として犯罪が成立した時の法律即ち旧法による犯罪の事実を判示し、それが旧法施行当時に於ては旧法第十一条第二項の違反であり、新法施行後は新法第十一条第一項の違反としてこの両者を合する一個の犯罪が成立するものとして、これに新法第十八条第一項を適用処断すべきものである。原判決もこの趣旨で旧法による罪となる事実を判示し、それが新法施行後の昭和三十一年八月一日以降も旧法によつて成立した前記違法の状態が継続したものとして、昭和三十一年八月十五日迄、被告人が本邦に在留した事実を判示していると認められるから、原判決が旧法第十一条第二項に違反するとしたのは不当ではない。ただ新法施行後にあつては旧法第十一条第二項と実質的に同一である新法第十一条第一項に違反するものであり、一個の行為が継続中に叙上二個の法律に違反するものとして、両者相合して新法第十八条第一項により処断すべきものであつたに拘らず、原判決の法律適用はこの趣旨を明らかにせず新法第十八条第一項を適用したのみで、この点稍妥当を欠く嫌がないではない。しかし原判示所為について新法第十一条第一項の適用あることを明示したと否とに拘らず、被告人の所為について新法第十八条第一項を適用しているのであるから、原判決には判決に影響を及ぼすこと明らかな法律適用上の誤があるとはいえない。論旨はいずれもその理由がない。

(加納 吉田作 山岸)

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