大判例

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東京高等裁判所 昭和32年(う)309号 判決

被告人 高太旭

〔抄 録〕

よつて考察をするのに原審は、その判決で、罪となるべき事実として、

被告人高太旭は、昭和三十一年七月五日頃東京都新宿区西大久保一丁目四百四十六番地ローズホテルにおいて同日米兵から売却の依頼を受けて受け取り所持していた米軍票百八十弗(原判示に百八十票とあるは百八十弗の明らかな誤記と認める)を被告人李元亨に合計金六万四千八百円で売却して交付した。

旨認定しているが、これが事実は、同判決の挙示する証拠によつて優にこれを認めることができ、記録を精査するも、同判決にはこの点につき判決に影響を及ぼすことの明らかな事実の誤認はない。果して然らば、事実にして右の如くである以上、被告人高太旭が、昭和二十七年四月二十八日政令第百二十七号(日本国とアメリカ合衆国との間の安全保障条約第三条に基く行政協定の実施に伴う外国為替等の臨時特例に関する政令)第四条第二項にいわゆる「前項の者」とあるに該当することの明らかに窺がえる本件においては、とりもなおさず、同被告人は同条同項にいわゆる「その所持する軍票を、大蔵省令で定める手続により、遅滞なく、日本銀行に寄託しなければならない」のにかかわらず、敢てこれをしなかつたものといわざるを得ないことは事理の当然とするところである。原審が、被告人高太旭の右の如き、米軍票売却交付の事実を認定した上、同被告人は、その所持する米軍票を「所定の手続により、遅滞なく、日本銀行に寄託しなかつたものである」旨認定判示して、同被告人のこれが所為につき、外国為替及び外国貿易管理法第二十一条、第七十条第二十二号、昭和二十七年政令第百二十七号第四条を適用処断したことは正当であり、被告人のこれら法令に対する認識の有無によりその犯意の成立自体に消長のあるべきかぎりではないと共に、右法令(殊に政令)制定の趣旨に照らし、右政令第四条第二項にいわゆる「所持する軍票」については、その所持するに至つた法律上の原因如何を問わないものと解すべきをもつて、被告人の本件軍票の所持が、たとえ、被告人本来の所有に基かない単なる他人の保管委託に基くものにすぎなかつたとするも、本件所為につき右法令による処断を免かれない。

而して所論にいわゆる「所定の手続」の具体的な内容は、右政令第四条第二項の規定に基く昭和二十九年大蔵省令第四十六号(軍票の寄託手続に関する省令)が明定しているところであり、而も被告人高太旭に対する本件起訴状には、

被告人高太旭は、法令により除外されたものでないのに、昭和三十一年七月五日頃、東京都新宿区西大久保一丁目四百四十六番地ローズホテルにおいて、米軍票百八十弗を所持しながら、これを川村勇こと、李元亨に、合計金六万四千八百円で売却交付し、以て所定の手続によりこれを遅滞なく大蔵大臣の指定する日本銀行に寄託しなかつたものである。

旨の公訴事実と共に、罰条として外国為替及び外国貿易管理法第二十一条、第七十条第二十二号のほか、昭和二十七年政令第百二十七号第四条(これによつて前示昭和二十九年大蔵省令第四十六号軍票の寄託手続に関する省令による所論にいわゆる所定の手続の内容も自づから明白である)の規定をも掲げているところであつて、検察官が、刑罰権の確定を求めようとする犯罪内容も自づから明らかであるから、原審において、これが罰条に該当する右公訴事実を中心として検察官の起訴状朗読、被告人のこれに対する陳述等適式に訴訟手続を進め、被告人の米軍票の所持ないしはその売却交付についての原判示の如き事実顛末につき審理を尽したことの記録上明らかな本件においては、事案の性質上敢て所論にいわゆる所定の手続の内容を公判審理の上に顕出する特段の手続を履践するを必要としなかつたのみならず、前示政令にいわゆる「遅滞なく」の意義は、必ずしも即時という意味ではないが、事柄の処理としての一般通念に照らし、苟くも愚図愚図せずに相当と認められる期間内との意味に解すべきは、経験条理の上の法理観念に照らし自明のことに属し、政令が「遅滞なく」なる言葉を掲げている以上、以上の意味を内含する政令(昭和二十七年政令第百二十七号)の全趣旨とするところに従つて事実の実体を評価するをもつて足り、公判審理の手続として、敢てこれが意味内容を明らかにするを要しない。而して、被告人の米軍票の本件所持は、もともと米兵からの日本円に替えるための売却依頼に基く売却のための所持であつて、被告人において当初からこれが米軍票を大蔵省令所定の手続に従つて日本銀行に寄託する意思の全く無かつたことは、記録ないし証拠上まことに明白なところであるから、斯かる場合右米兵の依頼による当初からの予定意思どおり李元亨に売却交付した事実ある以上、政令本来の規範的精神を蹂躙するものであつて、その所為は、とりもなおさず右政令第四条第二項にいわゆる「その所持する軍票を大蔵省令で定める手続により、遅滞なく、日本銀行に寄託し」なかつたものというを相当とし、外国為替及び外国貿易管理法第二十一条、右政令第四条第二項の規定に違反するものとして同法第七十条第二十二号所定の処罰を免かれない。

(三宅 河原 遠藤)

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