東京高等裁判所 昭和32年(う)329号 判決
被告人 太田二男
〔抄 録〕
論旨第一点及び第二点について。
しかしながら、原判示事実は、原判決挙示の証拠によつて優にこれを認めることができ記録を精査するも、原判決には判決に影響を及ぼすことの明らかな事実の誤認はなく、所論事実誤認の主張は採用しない。而して、刑法第二百十一条にいわゆる業務とは各人が社会生活上の地位に基き継続して行う事務を意味することは、まことに所論のとおりであるが、かねて自動車運転の免許を受けて雇主のため常時自動車運転者としてその運転に従事していた者が、雇主の営業不振による自動車廃車の結果、軈て営業好転の折は再び自動車の運転業務に従事すべき約束の下に同じ雇主のため人夫供給業の臨時人夫として引き続き稼働中たまたま就労現場まで他の人夫と共に運搬すべく迎えに来た他人の運転する自動車に乗車したるに乗じ、その運転者に代り自らこれを運転する行為は、人が社会生活上の地位に基き継続して行う事務に属するものということができ、刑法第二百十一条にいわゆる業務に属する行為たるを失わない。されば、記録ないしは証拠により右に該当することの認められる被告人の本件自動車運転中原判示過失によつて他人に原判示傷害を加えた所為についてはとりもなおさず業務上過失傷害の罪の成立あるを免れない。原審が、右と同一趣旨の下に、証拠により原判示事実を認定の上被告人を業務上過失傷害の罪に問う趣旨をもつて刑法第二百十一条を適用処断したことは正当である。被告人の本件所為は、単なる過失により傷害を加えたものというべきにかかわらず、原審が敢えて刑法第二百十一条所定の業務上過失傷害の罪の成立を認めたのは、法令適用の誤を冒したものであると主張して、原判決の破棄を求むる所論は採用できない。
論旨はすべて理由がない。
(三宅 河原 遠藤)