大判例

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東京高等裁判所 昭和32年(う)573号 判決

被告人 星野春重

〔抄 録〕

Y弁護人の論旨について。

原判決引用の証拠によれば、原判示の如く被告人が請託をうけてその職務に関し阿部虎造から賄賂を収受した事実を十分認めることができるのである。

而して刑法第一九七条第一項後段に所謂請託を受けるというのは、公務員又は仲裁人が特定のその職務行為について明示的或は默示的に便宜或は好意ある取扱をうけたい趣旨の依頼をうけることであつて、請託は必ずしも賄賂供与の事前に明示的になされることを要するものでなく、賄賂を供与すること自体により默示的にその特定職務行為について便宜或は好意ある取扱をうけたい依頼の趣旨が表示されている場合をも包含するものと解するのを相当とするところ(昭和二八年七月二〇日東京高等裁判所第七刑事部判決、高等裁判所判例集第六巻第九号参照)、原判決引用の阿部虎造の検察官に対する供述調書によれば、同人は被告人から家を買つてくれと頼まれたが、被告人に対しそれらは、家を買つてやるから是非工事を呉れと迄は口に出して云えなかつたが、工事をもらい度いことは被告人にその都度お願いもしており、工事をもらい度いばかりにこれに応じ、被告人に家を買つてやつたのである。工事を指名してもらい度いばかりに本件のような事をしてしまつたという趣旨のものであり、一方被告人の検察官に対する昭和三一年二月一六日附供述調書によれば、被告人から将来工事の指名についてよろしくお願いするとか工事を請負つた際には工事の監督について便宜寛大にしてくれという下心のあることは想像がつかないでもなかつた旨供述しているのである。而も原判示群馬県渋川土木出張所管内の桃井村大字山小田、大田沢地先(この工事は後に県直営で施行されたものであるが、少なくても昭和二七年一、二月頃当時は未だ県直営工事とは決定していなかつたものであることは原審証人飯塚利一の公判供述及び阿部虎造の検察官に対する供述調書によつて窺える。又工事予算五〇万円以上であつても工事入札指名人の選定は土木出張所長の権限にあつたことは被告人の検察官に対する供述調書によつて明白である。)の砂防工事等同県が将来実施する土木工事についての発注、競争入札の指名人選定等は被告人の職務行為であつたことは原判決認定のとおりであるから、原判決引用の証拠によつて阿部虎造の被告人に対する本件土地家屋の贈与はそれ自体暗黙の内に工事についての発注、競争入札の指名人選定等被告人の特定職務に関し特に便宜の取扱を受けたい趣旨の依頼を表示しているものであり、被告人も亦この趣旨を諒承して本件土地家屋の贈与をうけたものであることを明瞭に認めうるのである。

その他本件記録を精査しても原審右認定に誤ありとは認められず、原判決が被告人は阿部虎造から請託をうけて賄賂を収受した旨認めたのは相当であつて、原判決には所論のような事実誤認も審理不尽、法令適用の誤の何れも存しない。論旨は理由がない。

(久礼田 武田 石井文)

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