東京高等裁判所 昭和32年(う)708号 判決
被告人 嵯峨一久
〔抄 録〕
弁護人の論旨第一点について。
被告人が営利のため原判示の日時原判示場所において、後楽園競輪場指定席券一枚を金四百円で内山繁夫に販売したこと、右指定席券は有料のもの一日千二百十二枚を限度とし右枚数に達するまでは一枚二百円で何人でも自由にこれを購入し得るものであるが、いわゆるダフ屋によつてその一部が買い集められ、指定席に入場を希望する者はダフ屋が指定席券を買い集める前に窓口に於てこれを購人しなければ売切れてしまいダフ屋から比較的高価に買い入れざるを得ないようになつてしまうのが常で、被告人が内山に金四百円で販売したものも、もともと窓口で金二百円で販売されたものを、他の入場を阻止された指定席券購入希望者に販売して利益を得る目的を以て所持し、これを内山に前記のとおり販売したこと原判決挙示の証拠により明らかである。
而してこのように正常な状態に於て一枚二百円の価格のものを、買い集め、他の入場希望者をして購入不可能ならしめ、正常な価額以上の出捐を余儀なくさせ、よつて正常な価格の二倍の金四百円で他に販売するという本件被告人の所為は物価統制令第九条の二の不当に高価なる額を受領したというに該当するものであり、右は同令の「終戦後の事態に対処し、物価の安定を確保し、以つて社会経済秩序を維持し、国民生活の安定を図る目的」に背反するものといわなければならず被告人の販売した物が娯楽に関する興業の指定席券であると単なる入場券であると或いは又娯楽以外の鉄道乗車券等に関するものであるとによつて別段の差異を生ずるものではない。原判決が被告人の所為につき同令第九条の二に問擬し、同令第三十四条を適用したのは正当で論旨は理由がない。
(加納 吉田作 山岸)
註 本件破棄は量刑不当。