東京高等裁判所 昭和32年(う)897号 判決
被告人 伊藤博
〔抄 録〕
論旨第二点について。
(イ) 同一罪質に属する行為であつても独立した数個の行為を包括一罪とするためには、各行為が犯人の単一又は継続の犯意の下に連続して行われ、しかもそれらの行為が同一の社会的事実関係を基盤とし且つその犯罪の態様を同じくするため、これを包括して一個の犯罪として処罰の対象とすべきものと認められることを必要とするところ、本件においては記録上被告人の単一又は継続の犯意の下に連続して行われたとは認められず、従つてこれを包括して一個の犯罪として処罰の対象とすべきものとは到底認められない。
(ロ) 刑法第五十四条第一項にいわゆる犯罪の手段とは、ある犯罪の性質上その手段として普通に用いられる行為をいうのであり、また犯罪の結果とはある犯罪より生ずる当然の結果を指すと解すべきところ、本件の各行為は犯罪の性質上その手段として普通に用いられる行為またはその犯罪より生ずる当然の結果ではない。
されば原判決が判示各所為を刑法第四十五条前段の併合罪として同法第四十七条本文第十条を適用して処断したのは正当であつて論旨は理由がない。
論旨第三点について。
原判決が被告人の判示所為に対し併合罪の規定を適用した上、犯情最も重いと認める第二の(一)の(1)の罪の刑に刑法第十四条の制限内で併合罪の加重をした刑期範囲内で被告人を懲役二年に処する旨説明していること及び被告人の判示所為の罰条たる麻薬取締法第六十四条第一項の法定刑は七年以下の懲役となつており、従つてこれに併合罪の加重をしてもその最高刑は懲役十年六月であつて、刑法第十四条を適用する余地のないことはいずれも所論のとおりである。原判決が本件について刑法第十四条を適用したのは法令の適用を誤つたものであるが、しかし原判決は刑法第四十七条本文第十条によつて併合罪の加重をした刑期範囲内の刑を量定しているのであるから、右刑法第十四条を適用したことの誤は何等判決に影響を及ぼさなかつたものといわなければならない。それ故論旨は理由がない。
論旨第四点について。
原判決が被告人の判示犯罪事実を認定する証拠として被告人の原審公判廷の供述の外、被告人の司法警察員及び検察官に対する各供述調書を挙示していることは所論のとおりである。しかし事実認定の証拠として判決に被告人の自白を挙示するに当り公判廷の自白の外司法警察員又は検察官に対する自白を挙示してはならないという法則はないのであるから適法な証拠能力を有する供述調書である限り司法警察員及び検察官に対する自白を内容とする供述調書を公判廷の自白と共に挙示しても何等違法ではない。この場合司法警察員及び検察官に対する各供述調書は公判廷の供述と共に一つの自白としての価値しかないのであつて所論のように公判廷の自白を補強するものではない。記録によれば原判決の挙示した被告人の司法警察員及び検察官に対する各供述調書はいずれも被告人がこれを証拠とすることに同意し適法に証拠調がなされたものであることが明らかであるから、原判決がこれを被告人の自白として証拠にしたのは何等違法でないばかりでなく、原判決は右被告人の自白の外挙示の補強証拠と綜合して判示事実を認定したのであつて、被告人の自白のみを唯一の証拠として犯罪事実を認定したのではないから論旨は理由がない。
(大塚 渡辺辰 江碕)