東京高等裁判所 昭和32年(く)106号 決定
被告人 萩原泰茂
〔抄 録〕
一件記録を調査するに、右被告人は、昭和三二年九月三〇日、検察官から、詐欺、横領被告事件として身柄勾留中のまま原裁判所に起訴され、同年一〇月九日、同裁判所において、右事件の公判期日を同年一一月五日午前一〇時と指定されたものであるが、同人の弁護人たる本件抗告申立人より、同年一〇月二日原裁判所に対し、保釈の請求をしたけれども、同月四日、同裁判所において、被告人は罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があるものとして、これを却下されたため、更に、同月一二日附書面をもつて同月一四日、同裁判所に対し、再度保釈の請求をしたところ同月一六日、同裁判所において、前同様な理由によりこれを却下する旨の決定があり、即日、該決定謄本が抗告申立人に送達された事実が認められる。所論は、被告人には、原決定が却下の理由としているような罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由は存在しないから、原決定は失当である旨主張するのであるが、しかし、一件記録に現われたところに徴すれば、前掲被告事件においては、未だ第一回公判も開かれていない(さきに指定された第一回公判期日は、本件抗告申立があつたため、原裁判所において変更され、次回期日は未定である。)上に、被告人は、逮捕状の発せられた当時、所在不明であつたような事実が窺われるのであるから、現在の段階においては、被告人が所論のように罪証を隱滅すると疑うに足りる相当の理由がないと断ずることはできないものというべく、従つて、原決定が前示の理由により抗告申立人のした前掲再度の保釈請求を却下したことは相当であつて、本件抗告は理由がないものといわなければならない。
(中西 山田 石井謹)