東京高等裁判所 昭和32年(ネ)1459号 判決
被控訴病院に入院した当時の控訴人の状態は、酒気を帯び意識不明で、口唇部に口腔内に貫通する挫創が、又頬に擦過傷があり、左上膊骨末端骨折があつて紫色に腫脹しており、入院後間もなく意識を回復したが激痛を訴え興奮状態に在つたので、被控訴人中井隆治はその状況から脳内出血による生命の危険を慮り、先ず患者の生命を守ることを主に応急の処置としてビタミンB1、グルコース、ペニシリン、ビタカンフアー、破傷風予防血清等の注射をなし、同時に骨折部に副木を当て、湿布をして患部の腫脹の引くのを持ち、漸く腫脹も引き、痛みも和らぎ、精神的にも落着いた昭和三十年五月二十五日、前記のように観血的手術をなし、同年七月十八日ギブスを除いて前記レントゲン検査をしたところ、骨折部の接合は稍不完全で骨がずれていたけれども、すでに仮骨が形成され不十分ながら癒合していたので、マツサージ、他動運動、温泉療法等の後治療を続けることによりやがて日常生活に堪えられる程度に回復するものと判断して再度の観血的手術はなさず、マツサージ療法等を続けさせたが、控訴人は同年八月からは被控訴病院に通わず転じて医師外井口哲方に赴き再度の観血的手術を受けたけれども、患部の屈曲伸展ともに極めて不十分なことを認めることができる。そこで控訴人の右のような機能不完全が被控訴人中井隆治の診療上の過失によるものか否かについて考えて見るに、前記各証拠及び原審鑑定人佐藤孝三、同池田亀夫、当審鑑定人武田躬行の各鑑定の結果を総合すれば、控訴人の前記受傷入院当時の状況は、直ちに観血的手術又は整復法を行うことは危険な状態であつたので、被控訴人中井隆治が当時先ず控訴人の生命を護ることを主眼としてなした前記医術上の処置は適切であつたこと、観血的手術の時期は受傷の一週間位後遅くとも二週間目位までの間が適当とされており、患者に脳内出血の疑のあつた本件においては被控訴人中井隆治が手術の時期として受傷後二週間目を選んだことは誤でないこと、受傷後二箇月を経て接合部がずれていることを発見した場合にも、更に再手術を行うときはそのあと癒合のため関節部の再固定を要することになり、そうすると関節部に高度の機能障害を残す危険があるので、その際再手術を行わなかつたことは誤とはいえないこと等が認められ、被控訴人中井隆治に医師としての過失があつたことは到底認められない。
(川喜多 小沢 位野木)
控訴人(原告) 根津正行
被控訴人(被告) 平田かづ
〔抄 録〕
有限会社の社員がその持分の全部又は一部を社員でない者に譲渡しようとするときは譲渡人は会社に対し書面をもつて、譲渡の相手方、譲渡しようとする出資口数及び譲渡価格を通知することが必要であつて、この手続を欠く持分譲渡は無効であること有限会社法第一九条第二項第八項の規定するところである。このように持分の譲渡を制限したのは更に右同条所定の社員の持分先買権その他と相まつて、有限会社が比較的少人数の社員をもつて緊密に成立している閉鎖的性格の面と、社員の投下資本を回収する面とを調和する要請に基くものであつて、これを強行規定と解すべく、前記手続をとらない持分譲渡は絶対的に効力を生じないから、右手続に反する持分譲受人は素より社員たる資格なく社員総会において議決権を行使することができないが、その相手方たる持分譲渡人は依然社員の地位を保有し社員総会において議決権を行使し得るこというまでもなく、右譲渡人をもつて同法第四八条第二項にいう特別決議において議決権を行使し得ない社員と目することはできない。
(二宮 奥野 大沢)