東京高等裁判所 昭和32年(ネ)150号 判決
本件土地は丘陵の頂上を北端としてそれより南方に扇状に拡つた一続きの傾斜地であつて北部は稍急傾斜であるが南部は略々平坦であること、被控訴人はこれを開墾のため土地所有者末昌司外三名より賃借し、昭和十五年頃から開墾を始め、戦時に入り昭和二十年四月海軍航空隊に一時これを賃貸し、戦後は復員軍人がこれを占拠耕作していたことがあり、当時は急傾斜部分を除いて大体全部が開墾され、昭和二十一年三月十九日執行吏落合連が仮処分の執行をした当時は一望の麦畑であつたこと、被控訴人は昭和二十一年秋耕作者よりその返還を受けたが、当時他の地区で八町歩程の農地を自作していたため自家労働力が不足し、耕作の意思はありながら実際にこれを耕作することができず、収穫物供出の割当を免れるため県地方事務所に休耕の届出をなし、昭和二十四年七月二日の本件買収時期に至るまで耕作をしないでこれを放置していたこと、及びその間も被控訴人は終局的に右土地の耕作の目的を放棄していたものではなかつたことが認められ、右認定を覆すに足る証拠はない。
ところで自作農創設特別措置法にいう農地とは耕作の目的に供される土地をいい(第二条第一項)、ここに耕作の目的に供されるとは、現に耕作中であることはもちろん現実に耕作中ではなくとも耕作の目的に供される外形を具備している場合をも含むものであり、農地が農地でなくなるためには、耕作者が耕作の目的に供することをやめたものと認められることを要するものと解すべきところ、本件土地が昭和二十一年秋頃まで農地であつたこと、及びその後において被控訴人がこれを耕作しなかつたのは労力不足によるやむを得ない一時の措置であつて、終局的に耕作の目的を放棄したためではないことは、前示のとおりであり、当審における検証の結果によれば、本件土地中現に雑草に蔽われた部分も、急傾斜部分を除いては、雑草を根元から刈取つて地肌を検すればそこに嘗て耕作された畝の痕跡を認め得ることが明らかであるから、本件土地は本件買収の時期においては、一部急傾斜地を除いてはなお農地としての性質を失つていなかつたものということができる。従つてこれを未墾地として買収した本件買収処分には重大なかしがある。
しかしながら耕作者において主観的には耕作の目的を放棄していない場合でも、労力の不足その他の理由で農地が全く荒廃に帰し、耕作の目的に供されていることが外形上も全く認められないような場合には、もはや耕作者の主観的意図の如何に関係なく、該土地は農地でなくなるものと解すべきである。
(斎藤 坂本 小沢)