東京高等裁判所 昭和32年(ネ)153号 判決
被控訴人が被控訴人と訴外山内卯間の東京地方裁判所昭和二九年(ノ)第一、一一七号家屋明渡調停事件の執行力ある調停調書正本に基いて、訴外山内卯に対する強制執行として、昭和三〇年六月二五日別紙目録記載の家屋について明渡の執行をしたことは、当事者間に争がない。
控訴人は、本件家屋は控訴人において占有していたもので、山内卯の占有していたものではないと主張し、被控訴人は、控訴人はその夫山内卯の妻として居住していたのだから、独立の占有を有するものではないと主張するので考えるに、控訴人が訴外山内卯の妻であることは控訴人の明らかに争わないところであるが、妻が夫と同居していない場合とか、或いは同居していても、例えば妻が美容院を経営し、夫がこれにより生活している場合のごとく、社会観念上妻が夫と別個独立の占有を有すると認められる場合は、夫に対する債務名義によつて妻に対する明渡の執行をなすことを得ず、妻に対して執行するには更に妻に対する債務名義を要するものと解すべきであるところ、成立に争のない甲第三、四号証、第五号証、当審における証人生津康、山内卯の各証言並びに当審における控訴人本人尋問の結果によれば、控訴人は実兄生津康の世話で、本件家屋を訴外緑川こうから借り受け(但し借受名義は夫山内卯)、昭和二〇年五月二八日から子供六人と共に居住しているもので、夫山内卯とは昭和一九年頃から別居し、夫卯は中野区橋場町四〇番地桜井方に居住し、極くたまに控訴人方を訪れることはあつても、控訴人と同居したことはないことが認められ、被控訴人の立証によつても、右認定をくつがえすには足りない。
従つて、控訴人は夫卯とは別個独立に本件家屋を占有していたものというべく、他人に対する執行の目的につき占有権を有する第三者は、特別の対抗要件を要しないで執行債権者に対し、その占有権を主張して、当該執行を排除しうべきものであるから、控訴人が占有権を有する第三者として、訴外山内卯に対する本件家屋明渡の執行の排除を求める本訴請求は正当であつてこれを認容すべきである。
従つて、原判決は失当で本件控訴は理由がある。
(角村 菊地 吉田豊)