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東京高等裁判所 昭和32年(ネ)1714号 判決 1958年6月30日

東陽相互銀行

事実

被控訴人(一審原告、勝訴)株式会社東陽相互銀行は、昭和二十六年九月二十七日原審被告内田幸吉に金二十万円を貸し付け、控訴人内田喜次郎、同篠原弘はこれを連帯保証した。ところが内田幸吉並びに控訴人らは弁済期を過ぎてもその支払をしない。

ところで、仮りに控訴人主張のように、控訴人らが本件貸金につき連帯保証をすることを承諾したことがなかつたとしても、本件契約は内田幸吉が控訴人両名の実印を持参して被控訴銀行へ来行し、控訴人等の代理人と称して被控訴銀行と本件連帯保証契約を締結せしめたものである。而して控訴人内田喜次郎は内田幸吉の妻の弟であり、控訴人篠原弘と内田幸吉とはその妻同志が姉妹に当り、何れも内田幸吉の近隣に住み、同人と親密な間柄であつて、しかも本件契約の約三カ月前に内田幸吉が被控訴銀行と契約金十万円の無尽契約を結ぶに当り連帯保証をしている。而して控訴人両名は内田幸吉に同人が何らかの文書を控訴人の名義を使用して作成することを予期して実印を貸与したのであるから、内田幸吉がその実印を使用して第三者となした本件行為は民法第百十条の代理人がその権限を超えてなした行為であるというべく、しかも右のような事情の下では被控訴人に内田幸吉が控訴人の代理権限を有していたと信ずるにつき正当の理由があつたというべきであるから、控訴人両名は本人としてその責に任ずべきである。

よつて、控訴人に対し連帯して金二十万円及びこれに対する完済まで約定の日歩十銭の割合による損害金の支払を求めると主張した。

控訴人らは、控訴人らが本件連帯保証をしたとの点を否認し、内田幸吉は真実企業組合の書類書換のためでないのに書換のためと詐称して控訴人から実印を騙し取つたのであつて、これは実印を盗み取られた場合と同様でありこのような場合の実印貸与には代理権授与の効果はないものというべきであるから、被控訴人の表見代理の主張は失当であると抗争した。

理由

控訴人等は内田幸吉の債務につき、連帯保証をしなかつたと主張するので調べて見ると、本件連帯保証契約書には内田幸吉の被控訴銀行に対する債務につき控訴人両名が内田幸吉と連帯借用人として記名捺印しているように見える。

しかしながら、控訴人等のこの署名押印が真正に成立したことを立証する証拠はないから、本件連帯保証契約書では控訴人等の保証を認定できない。

かえつて当審における証人の証言を綜合すると次の事実が認められる。すなわち、内田幸吉は被控訴銀行から本件金二十万円の借金をするときに保証人が必要であつたが、当時内田幸吉は信用がなかつたため控訴人等の印を冒用して間に合せようと計画し、その息子の内田義一を控訴人方にやり、控訴人も加入している企業組合の帳簿に押すのに判が必要だからとの口実を以て控訴人等の印鑑を借り受けさせ、それを内田幸吉自ら被控訴銀行に持参して被控訴銀行の係員に頼み本件連帯保証契約書に控訴人等の記名をさせさらに右の印を押させたものであることが認められる。控訴人等が印を交付したのは企業組合の、帳簿に押印するためである。被控訴人はこれを以て控訴人等が、内田幸吉に代理権を与えたと主張するが、右の目的のための単純な印の交付を以て控訴人等のために法律行為をする代理権限を与えたものとは断定し難く、その他被控訴人の立証では控訴人等が内田幸吉に代理を委任したことを認めることはできない。従つて代理権限の超過による表見代理があるとの被控訴人の主張も認容できない。

よつて、被控訴人の本訴請求は棄却されるべきであるのに、これを認容した原判決は失当であるとしてこれを取り消し被控訴人の請求を棄却した。

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