大判例

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東京高等裁判所 昭和32年(ネ)1960号 判決

一、控訴人が昭和三十一年五月十八日訴外小川治郎から登録第四三五、〇四六号実用新案「穀粒切断機における穀粒送転輪」の権利を譲り受け、同月二十一日これが登録を経たこと、及び右実用新案は、昭和二十九年四月二十四日登録出願、昭和三十年五月二十五日出願公告、同年十月十九日登録となつたもので、その説明書における「登録請求の範囲」の項には、「図示のように誘導樋1の下面に送転輪2を軸架し、この送転輪の前部周面に二股形押持爪4の下端爪先部を弾力的に近接せしめ、且この押持爪の二股溝内に切断輪6の刃先部を装介した穀粒切断機において、送転輪2の全周面を断面凹弧状の不規則面aに形成して成る穀粒切断機における穀粒送転輪の構造」と記載されていることは、当事者間に争がない。次いでその成立に争のない甲第二号証(乙第三号証に同じ。)によれば、本件登録実用新案の説明書中、「実用新案の性質、作用及び効果の要領」の項には、「(前略)従来この種の穀粒切断機においては、誘導樋から誘導され一列に流出して来た麦等の穀粒は、送転輪の輪周不規則面上に落下乗駕し、次で押持爪との間に挾持せられつゝ切断したものであるが、単なる輪周の不規則面によつては、穀物の丸味と滑肌により接触面が小さいゆえに、不安定に乗駕し、このため送転輪による押持爪迄の送り中往々穀粒が側方に転落し切断し得ないことがあり、又押持爪に持ち来たされた場合においても、輪周の一方に片寄つた状態に挾持されることがあつて、この場合穀粒は偏半に切断せられ、従つて麦粒の如きものゝ中央条皮部を除去するための切断の目的は達せられない憾みがあつて、穀粒処理上の不利損失を蔵していた。」「本考案は叙上の不利損失を除去するために送転輪の全周面を断面凹弧状の不規則面に形成したので、今誘導樋から一列に流出して来た穀粒は送転輪周に落下すると同時に、各穀粒はその丸味のために凹弧状不規則面内に自から嵌合状態に乗駕し、従つて各穀粒は何れも一定方向即ち粒の長手方向に整えられ、しかも穀粒と輪周凹弧面の大なる接触面と不規則面により頗る安定的に保持されながら押持爪に持ち来たされるので、押持爪の中軸線上に廻転しつゝある切断輪の刃先により確固挾持された状態の下に穀粒の長手中軸線より二分切断される。」「本案は上述のようであるから、前記在来の送転輪のように送り中穀粒が転落したり片寄つた状態に送られることがなく、可及的正確さで送転輪周の中軸線に沿つて押持爪まで送られるので、穀粒は常に長手真半分に切断せられ、従つて就中麦粒の如き中央に条皮を有するものゝ条皮除去の目的を完全に遂行する効果がある。」ことが記載され、「図面」には、別紙第一図面と同様の図面が記載されていることが認められる。

二、以上当事者間に争いのない本件登録実用新案明細書記載の「登録請求の範囲と、右認定にかゝる同説明書の全文及び図面とを総合すれば、本件登録実用新案における考案の要旨は、

(1)、(イ)誘導樋の下面に、(ロ)送転輪を軸架し、この送転輪の前部周面に、(ハ)二股形押持爪の下端爪先部を弾力的に近接し、かつ、この押持爪の二股溝内に(ニ)切断輪の刃先部を介入した(ホ)穀物切断機において、

(2)、右送転輪の全周面を(ヘ)断面凹弧状の(ト)不規則面に形成した構造。

にあり、しかも右(イ)から(ト)までは、いずれも本件実用新案の型を構成するについて欠くことのできない要件をなすものと解するを相当とする、

三、よつて本件で仮処分の目的となつている被控訴会社(被控訴会社が昭和三十二年八月二十日従来の商号峡南精麦製粉株式会社を、現在のように変更したことは、当事者間に争がない。)の製作、使用、販売拡布にかゝる精麦機械が、控訴人の有する本件登録実用新案の権利の範囲に属するかどうかについて判断する。これに先立ち控訴人が当初原裁判所へ提出した本件仮処分命令の申請書及び原裁判所が右申請を容れて昭和三十一年六月十二日になした仮処分決定には、仮処分の目的物として、「登録第四三五、〇四六号実用新案権の権利範囲に属する別紙目録記載のような構造を有する白麦精麦機械」と記載され、その「別紙目録」には、「添付図面に示す如くホツパー2の下部に設置した誘導ロール35と切断ロール9とによつて麦を中心部より立ち割るようにした麦の立割装置において、機枠1に支承した大歯車13の軸14に取り付けた誘導ロール35の表面に設けた波型状の溝イ内に多数のローレツト36を横方向に刻設した誘導ロールを取り付けた高速度切断機」と記載され、右「添付図面」には、別紙第二図面と同様の図面が記載されている。しかしながら右仮処分決定に対する異議申立の結果なされた口頭弁論において明らかとなつたことは、控訴人が本件仮処分において、被控訴人に対し、その製作、使用、販売拡布の禁止を求めているものは、被控訴人が現実に製作、使用している、いわゆる峡南式高速度切断機であつて、該機械は、その成立に争のない甲第二十九号証の一から四まで(但し四は更に一から四十五までに分れる。)によれば、先に原裁判所における仮処分決定によつて仮処分の目的とせられた別紙第二図面に記載されたものの外に、別紙第三図面に記載されたものをも包含するものであることが明白であるから、右両者を仮処分の目的として判断する。もつとも右両者のうち、第三図面記載のものは、第二図面記載のものがいわゆる旧型機と呼ばれるのに対し、新型機と呼ばれ、被控訴人が現在なおその使用を継続しているものであつて、控訴人もその製作、使用、販売拡布の禁止について重点をおくものであることは、本件弁論の全過程に徴し明白であるから、本件の判断においても、第三図面に記載されたいわゆる新型機を先にし、第二図面のいわゆる旧型機を後にする。

四、右両機械の構造をみるに、先ず新型機すなわち第三図面に記載されたものは、「直立したホツパー1の下端に接し螺旋溝16を有する排穀棒14を設け、その直下に傾斜受板15を斜設し、これと小間隔をおいて対設する流板2を、周囲が断面<省略>状をなし、底の平坦部だけにローレツトを刻んだ多数の誘導溝4を有する廻転ロール5の上部に接するように設け、周囲に切断刃6を設けた切断ロール7を廻転ロールに平行して、切断刃が廻転ロールの誘導溝に突入するように横架し、廻転ロールの上部に接して、放射方面に整流面8を定設し、整流面を背部に形成した多数の楔形整粒歯10を機枠に横架した軸11に連嵌した櫛歯状に組み立てて、各自擺動自在に支え、上面に発条17を接触させて、各自にこれを廻転ロールに圧接させ、整粒歯はその底面に断面凹弧状の縦溝を設け、これを廻転ロールの対応する誘導溝に合致させるようにし、また各整粒歯の先端に摺割19を設けて切断刃の通過に備えるようにしたもの」であり、旧型機すなわち第二図面に記載されたものは、廻転ロールにおける誘導溝が、新型機においては、先述のように「周間が断面<省略>状をなし、底の下坦部だけにローレツトを刻んでいる」のに対し、旧型機においては「凹弧状となり、全面にわたりローレツトが刻んである」点において相違し、その他は全部同様のものであることが、右各図面の記載及び前記甲第二十九号証によつて明白である。

五、よつて先ず前述した順序に従い、別紙第三図面に記載されたもの、すなわちいわゆる新型機について、これが控訴人の本件実用新案権の範囲に属するものであるかどうかについて判断するに、両者を比較して、その最も顕著な点は、送転輪の周面(廻転ロールの誘導溝)の構造であつて、すなわち本件登録実用新案における送転輪は、「全周面を断面凹弧状の不規則面に形成している。」のに対し、右新型機においては、誘導溝は、「周間が断面<省略>状をなし、底の下坦部だけにローレツトが刻んである。」ことである。この点について控訴人は、「型として観察するときは、断面凹弧状の溝において、その周面を不規則面となしたものと、断面<省略>字形の溝の底面にローレツトを刻設したものとは類似の範囲を出でないのみならず、その作用効果においても本質的の差異はない。」「溝の形が断面<省略>状であるとしても、現実に使用する場合には溝の両隅には粉末が固着し、溝の形はU状となることは自然であるから、その作用効果よりしても溝の断面を格別<省略>状とせねばならない必要はない。」と主張するが、本件登録実用新案において、「送転輪の全周面を断面凹弧状の不規則面を形成した構造」となしたことは、先にもみたように、「各穀粒は、その丸味のため凹弧状不規則面内に自から嵌合状態に乗駕し、(中略)しかも穀粒と輪周凹弧面の大なる接触面と不規則面により頗る安定的に保持される」ことを作用効果の要領とし、本件登録実用新案はこれを必須要件とするものであるが、底面が平坦な<省略>状の誘導溝においては、本件実用新案が所期するような右の作用、効果は到底挙げることができないものと解せられ、また<省略>状の誘導溝の両隅に使用中多少の粉末の付着することは考えられるが、これがため常に断面凹弧状のものと同一の作用効果を有するに至るものとは解されず(完全にU状をなすにいたるほどの粉末が付着する場合を問題にすれば、誘導溝の下坦部に刻設されたローレツトの少なくとも一部は埋没して、本件登録実用新案の他の必須要件である「全周面を不規則面」とする要件を欠くにいたることも考えなければならない。)、結局右両構造は同一でないのはもちろん、本件実用新案における型の考察としては、類似するものでもないといわなければならない。してみれば右必須要件を欠く新型機は、他の争点に対する判断に入るまでもなく、本件実用新案の権利の範囲に属せず、これを侵害するものとは認められず、当裁判所はこれに反対の見解を記載した甲第十一号証、甲第二十八号証の記載及び原審証人Hの証言は、これを採用しない。

六、次いで別紙第二図面に記載されたものすなわちいわゆる旧型機について判断するに、本構造においては「廻転ロールにおける誘導溝が凹弧状をなし全面にわたりローレツトが刻んである」から、この点においては、本件実用新案における送転輪の構造と同一のものといわなければならない。しかしながら本件実用新案においては、右送転輪の構造は、先にも認定したように「誘導樋の下面に送転輪を軸架した穀粒切断機」におけることを必須要件としているところ、本構造(この点は新型機についても同様である。)には右「誘導樋」は存在しない。控訴代理人は、本件「登録請求の範囲に」記載された「誘導樋の下面に送転輪を軸架し(中略)切断輪の刃先部を介入した穀粒切断機において」の部分は、本件実用新案構成上の必須要件ではなく、また右「誘導樋」は単に麦粒を切断刃のところまで搬送する搬送器具を表現するに過ぎず、被控訴人の使用する本件切断機においては、「上塔部の各外板より廻転ロールの中央上部と斜設された流し板斜板」がこれに該当すると主張する。しかしながら本件登録実用新案にあつては、説明書中「登録請求の範囲」の項に「誘導樋」の存在が記載され、その「実用新案の性質、作用及び効果の要領」の項には、誘導樋から一列に流出して来た穀粒は、送転輪周に落下すると同時に、各穀粒は、その丸味のため凹弧状不規則面a内に自から嵌合状態に乗駕し、従つて各穀粒は、何れも一定方向即ち粒の長手方向に整えられ」と記載し、誘導樋は、本件穀粒切断機において最も主要な作用を営む穀粒を送転輪周上一列に流出せしめ、他の構造と相まち、これを粒の長手方向に整え乗駕せしめる作用をなすものであることを明らかにしており、これと説明書中「図面」の記載とを総合すれば、「誘導樋」の存在は、二においても認定したように、本件登録実用新案の必須要件をなすものといわなくてはならない。しかも樋は通例物体を一個所から他の個所へ導き流す筒状または上面を解放した半筒状の装置をいうものと解するを相当とするから、右「誘導樋」を控訴代理人の主張するように、単に麦粒を切断刃のところまで搬送する搬送器具のすべてをいうものとは解し難く、従つてまた被控訴人の本件切断機における傾斜受板15及びこれと対設された流板2が、右「誘導樋」に該当するとの控訴代理人の主張も到底採用できない。してみれば右必須要件である「誘導樋」を欠く旧型機は、他の争点に対する判断を俟つまでもなく、本件登録実用新案の権利の範囲に属せず、これを侵害するものとは認め難く、当裁判所は、これと反対の見解を記載した甲第五号証、甲第十号証の各記載及び原審証人Hの証言は、これを採用しない。

七、以上の理由により、前記仮処分決定を取り消し、控訴人の本件仮処分の申請を却下した原判決は相当である。

〔編註〕 本件に関する図面は左のとおりである。

第一図面

第1図

<省略>

第2図

<省略>

第3図

<省略>

第二図面

第1図

<省略>

第2図

<省略>

第3図

<省略>

第4図

<省略>

第三図面

第1図

<省略>

第2図

<省略>

第3図

<省略>

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