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東京高等裁判所 昭和32年(ネ)2078号 判決 1958年11月10日

同栄信用金庫牛込支店

事実

被控訴人(一審原告・勝訴)二宮嘉一郎は請求の原因として、被控訴人は昭和三十年七月二十二日控訴人同栄信用金庫牛込支店に井口嘉郎の名義を以て金三百万円を利率年四分元利金支払期日同年十月二十二日の定めで定期預金をなし、同年七月三十日右牛込支店に前同様井口嘉郎名義を以て金百万円を利率年四分、元利金支払期日同年十月三十日の定めで定期預金をした。そこで被控訴人は、右各預金について各支払期日に前記牛込支店において各元利金の支払を請求したが、その支払を何れも拒絶された。よつて被控訴人は控訴金庫に対し右元利金合計四百四万円及びそれぞれの預金に対する支払済に至るまでの遅延損害金の支払を求めると主張し、控訴人の抗弁に対し、被控訴人が訴外石川勲、西岡伝吉と共同して控訴人主張の四通の約束手形を振り出したこと、及び控訴金庫よりその主張のような相殺の意思表示を受けたことは否認すると答えた。

控訴人同栄信用金庫は抗弁として、仮りに被控訴人が右二口の預金債権を有していたとしても、被控訴人は訴外石川勲、西岡伝吉と共同して控訴金庫に宛て金額合計三百七十八万円の約束手形四通を、各支払期日に手形金の支払のない場合は日歩六銭の割合による遅延損害金を支払うとの特約附で振り出したところ、右四通の手形は何れも各支払期日に不渡となつたので、控訴金庫は昭和三十年十月二十日被控訴人に対し右手形金債権金三百八十九万三千四百円(元本並びに遅延損害金の合計額)を以て同日現在における前記預金債務の元利合計四百二万一千百二十円と対等額において相殺する旨の意思表示をなしたから、控訴金庫の被控訴人に対する債務は現在十二万七千七百二十円に過ぎないと主張した。

理由

証拠を綜合考察すると、被控訴人のなした本件二口の預金はもともと訴外石川勲が控訴金庫から金融を受ける便宜上必要であるとして被控訴人に対しその知合の石寺義典、泉雅博等を通じて控訴人に預金することを依頼した結果なされたものであるが、被控訴人により本件預金がなされたことを確認した右石川は訴外伊藤忠虎と相謀り、石川を主債務者とし訴外西岡伝吉を連帯保証人として控訴人より金融を受けるについて被控訴人がその連帯保証人となることもまた右預金を見返り担保に供することも承諾したことがないのにも拘らず、昭和三十年七月二十九日右の承諾をする旨認めた控訴人宛訴外石川勲、西岡伝吉と連署の井口嘉郎名義の約定書一通を偽造してこれを控訴金庫の牛込支店に差入れると共に、同月二十三日及び三十日に何れも石川の控訴金庫に対する借入金が未済の場合は右預金をそのまま預け入れ置く旨認めた控訴金庫宛井口嘉郎名義の誓約書各一通を偽造しこれを同支店に差入れ、かくして訴外石川勲、西岡伝吉との共同振出人井口嘉郎名義の控訴金庫主張の約束手形四通を偽造してこれを同支店に交付した上同支店より三百数十万円の手形貸付を受けるに至つたことを認めることができる。

してみると、控訴人が被控訴人に対し、控訴人主張の約束手形金債権を有したこと、並びに被控訴人のなした本件二口の預金が控訴人の訴外石川勲、西岡伝吉の両名に対する控訴人主張の約束手形金債権の見返り担保となることを認容の上なされたものであることを前提とする控訴人の抗弁は、その余の点について判断するまでもなく理由がないものといわざるを得ない。

ところで、本件においては当事者間に重利の契約のあつたこと若しくは被控訴人が民法第四百五条所定の手続を履践したことは何れも認められないから、控訴人は被控訴人に対し本件二口の預金の各元金並びにこれに対するその支払期日の翌日から支払済に至るまで年六分の割合による遅延損害金を支払うべき義務があるものというべきであるとして、被控訴人の本訴請求を右の限度において正当であると認容した。

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