大判例

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東京高等裁判所 昭和32年(ネ)2121号 判決

そこですすんで民法第六百十二条にもとずく被控訴人の契約解除の主張について判断する。

当裁判所が真正に成立したとみとめる乙第二号証の一、原審証人岩崎りんの証言によりその成立をみとめることができる乙第三号証、第四号証の一ないし三の各記載と原審証人高野四郎(第一、二回の一部、後記信用しない部分をのぞく)原審ならびに当審における証人岩崎りん、同貞永和清の各証言および原審における原告本人尋問の結果をあわせ考えるとつぎのとおりの事実をみとめることができる。

昭和二十五、六年ころ、被控訴人はとうふ販売店をはじめようとして、その建築資金などにあてるため控訴人にたいし、本件土地の買いとりを希望したが、控訴人にことわられ、控訴人の世話で他に売却することに話がかわつたが、売得金の分配について折り合いがつかなかつたためその話も立ち消えとなつた。

その後昭和三十年ころ、被控訴人母から控訴人にたいしそれまで一ケ月坪当り金八円の地代を二十円にね上げの要求があつたが、応じなかつたところ、控訴人の母からかさねて、建築に金がいるからなんとか考えて欲しいと申し入れがあつたので、控訴人は、ふたたび、本件借地権を他にゆずりわたしてその代金を分配することを考え、訴外高野四郎に仲介をいらいし、同人のあつせんで、昭和三十年六月二十二日訴外貞永和清にたいし本件土地のうち五十坪を代金坪当り八千円合計金四十万円、うち二十万円をただちに支払うこと、七月十五日に残金を支払うと同時に本契約をすること、本契約のときまで本件土地を使用せぬことの約で借地権をゆずりわたす旨の契約をした。このときまで被控訴人との接渉に当つていた訴外高野から、被控訴人も譲渡代金の三分をうけとることで借地権譲渡を承諾しているときいていたので、控訴人は前記契約のとき、みぎ割合で代金を分配すれば被控訴人の承諾をえられるものと思いこんでいたので、同年七月十五日残金をうけとると、すぐ翌日、被控訴人方をおとずれ、うけとつた代金のうちから高野に支払つた手数料金五万円をさし引いた残金三十五万円の三分にあたる金一万五百円をさし出してその承認を求めたところ、被控訴人から貞永の無断建築の事実を指てきされ、うけとりをこばまれた。控訴人はこのとき、はじめて貞永の無断建築の事実を知つて、たいへんおどろいて、ただちに貞永に抗議した。そのうち被控訴人から本件土地賃貸借契約解除の書面がきたので、正田弁護士をいらいして、貞永につよく交渉して、うけとつた代金全部をかえして、すでに骨組のできあがつていた建物をきれいにとり払わせた。貞永がみぎ建築をはじめるまでに、控訴人は直接被控訴人にたいしみぎ貞永への本件借地権譲渡について承認を求めたことがなく、また、仲介人高野四郎にしても、これについて控訴人のハツキリした承認をえていなかつたのであるが、貞永が仕事の関係でひじように建築を急いだため、高野の一存で地主たる被控訴人の承諾がなかつたのに、建築をはじめさせたものであつた。

このように認定することができる。原審ならびに当審における証人熊井康蔵、原審証人野崎ハナ、同青木さだ、同高野四郎(第一、二回)の各証言のうちみぎ認定に反する部分は信用しない、他にみぎ認定をうごかすにたりる証拠はない。

以上認定の事実によると、本件には民法第六百十二条第一項に違反すると思われる外形的事実の存することはいなみえないが、さらに考えてみると、前段説示のとおり、控訴人は、被控訴人が譲渡代金の一部をうけとることによつてはつきりした承諾をするまでは、貞永にたいし本件土地の使用を禁じていたもので、貞永の無断建築は控訴人にとつても、はなはだ意外の出来事だつたので、ただちに同人に交渉してそのとり払いをさせたしだいであるから、控訴人が被控訴人の承諾をえずに第三者に本件土地を使用させたものとみとめることはできない。したがつて控訴人の前記行為はいまだ民法第六百十二条第一項に違反するものでないとみとめるのを相当とする。

かりに控訴人が仲介人高野を信頼することについて過失があり、同人の行為による責任を問われるとしても、控訴人が被控訴人の不承諾の事実を知つて、ただちに、うけとつた代金全部をかえして、たちかけた建物全部をとり払わせて土地を原状にもどした事実、その他本件弁論の全趣旨にかんがみるときは、控訴人の前記の賃借権譲渡に関する所為はいまだ、継続的法律関係である土地賃貸借関係を維持するに必要な当事者間相互の信頼をうらぎるほどの行為であるとはみとめがたく、結局、民法第六百十二条に違反しないと解せざるをえない。もとより控訴人には、本件借地権譲渡交渉の経過において、直接被控訴人の承諾をえないにかかわらず借地権譲受人から代金をうけとつたことなど多少の落度がないわけでもないが、前説示の、控訴人が被控訴人の不承諾の事実を知つて、ただちにとつた善後措置などにてらせば、これらもみぎ認定のさしさわりとなるほどの信義に反する行為ということはできない。

かようなわけで、控訴人には民法第六百十二条第一項違反の事実はないから被控訴人のした本件土地賃貸借契約の解除の意思表示は効力がない。

(藤江 谷口 満田)

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