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東京高等裁判所 昭和32年(ネ)2147号 判決 1958年2月15日

事実

控訴人(一審被告、敗訴)は、本件手形は大栄漁業株式会社に対して融通手形として交付したものであるが、控訴人としては受取人欄を空白にして未完成手形として交付したものであり、受取人欄については後日控訴人自らこれを補充するつもりであつた。従つて大栄石油株式会社にこれを補充することを許したことはないと主張し、被控訴手人は、控訴人主張の事実を否認し、控訴人は昭和三十一年七月九日訴外大栄石油株式会社に宛て金額五十万円の約束手形を振り出し、右訴外会社は同年七月十一日拒絶証書の作成を免除して白地裏書により右手形を被控訴人に譲渡したから、被控訴人は本件手形の所持人として右手形金及びこれに対する損害金の支払を求めると述べた。

理由

控訴人が昭和三十一年七月九日金額五十万円、満期昭和三十一年九月十七日、振出地及び支払地はいずれも東京都中央区、支払場所株式会社千葉銀行東京支店と記載し、受取人欄を空白としたままの約束手形一通を作成し、これを訴外大栄漁業株式会社に交付したことは控訴人の認めるところであるが、甲第一号証(本件手形)によれば、受取人欄には現に大栄漁業株式会社と記載補充されているので手形要件に欠けるところはなく、また同号証の裏面によれば、第一裏書として同会社の白地裏書がなされているので、その所持人である被控訴人は正当な手形上の権利者と認めるべきである。

ところで控訴人は、右手形は大栄漁業株式会社に対し、いわゆる融通手形として交付したものであるが、その補充権を同会社その他何人にも与えたことはなく、従つて右は振出行為を完了しない未完成手形であると主張しているけれども、このような場合には反証のないかぎり、手形授受の相手方またはその後の所持人に手形要件を補充せしめる趣旨において振り出されたいわゆる白地手形であると認めるのを相当とすべく、本件において右推定を覆すに足る反証は一つもない。

してみると、本件手形の受取人欄の補充は現実において何人がしたかつまびらかではないけれども、この点についても反証のないかぎり右補充権に基いて正当になされたものと推定されるから、控訴人の右主張は理由がないとして本件控訴を棄却した。

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