東京高等裁判所 昭和32年(ネ)2244号 判決
控訴銀行大塚支店長には手形引受の権限がなく、被控訴人は悪意の手形取得者であるとの抗弁について。
弁論の全趣旨により真正に成立したと認める乙第二、第三号証、原審及び当審における証人高田克己の証言によれば、控訴銀行においては昭和二十四年一月七日附通牒によつて支店長が手形引受をすることを禁止していることが認められる。しかし被控訴人が当初手形を取得した昭和二十五年七月二十二日頃当時悪意であつたことを認めるに足る証拠はない。尤も右証人高田、原審にける証人瀬古啓三の各証言によれば、弁護士瀬古啓三が昭和二十五年十二月初旬頃被控訴人のために控訴銀行に本件手形金の請求の交渉に赴いた際、控訴銀行は同弁護士に対し控訴銀行大塚支店長には手形引受の権限がない旨告げて手形上の債務を拒否する態度を示したことが認められるから、被控訴人は少くとも本件手形に受取人の補充、支払人の記載の訂正がなされた同年十二月二十八日には同支店長に手形引受の権限がないことを知つていたものと推認される。しかし、一で認定したところによれば、被控訴人は中尾が同支店長在職中昭和二十五年四月一日同支店長として為替手形用紙の引受人欄に署名押印をし、同日その書面を三輪工業株式会社に交付したものと信じて同会社から同年七月二十二日頃手形を取得したものであることが認められ、商法第四二条は「本店又ハ支店ノ営業ノ主任者タル」外形を信頼して取引関係にはいつた者を保護する規定であるから、本件のように、当初手形を取得した際は不完全のものであつても、それが後日補正によつて完全な手形となりうる可能性のあるものである以上、同条第二項を適用するにあたつては、当初手形を取得した時を基準として取得者の善意、悪意を判断すべきであつて、後日受取人の補充、支払人の記載の訂正がなされた時を基準とすべきものではない。してみると、同支店長は裁判外の行為について支配人と同一の権限を有するものとみなされるのであるから、中尾の手形引受行為については控訴人はその責を免れえない。
(柳川 坂本 中村)