大判例

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東京高等裁判所 昭和32年(ネ)2281号 判決

証拠を併せ考えれば、被控訴会社が東京郡中央区に新社屋を建設し、そこに本店を移転する計画をもつていたことは、控訴会社が同区内において商号を「東京瓦斯株式会社」と変更し、かつ目的を「石炭瓦斯の製造販売」その他の業務に変更する旨の各登記をする前からひろく世間に知られていたこと、控訴会社には事実において石炭瓦斯の製造販売の事業を営むに足る能力も準備もなかつたこと、及び昭和二十九年八月頃、奥井という者から被控訴会社に対して、被控訴会社と同一商号の控訴会社がすでに中央区内で登記されているが、そのことで被控訴会社で困ることがあれば、自分は控訴会社に関係しているものを知つているから、話してあげてもよい、旨の申入があつたこと、また昭和三十年二月初め頃、控訴会社の加藤豊松が喫茶店で第三者に対して、本件訴訟では三千万円位の金を被控訴会社から取れることになつている、という趣旨のことを話していたのを森佐久二に聞かれたこと、被控訴会社は東京都中央区内にすでに同一商号の控訴会社が登記されてあつたため、商法第十九条の適用上、同区に本店移転登記をすることの妨げとなつたことはもちろん、控訴会社の裏書のある手形が銀行に呈示されたため、同一商号の被控訴会社に対して銀行から問い合せがあつたことが、それぞれ認められる。これらの事実に、被控訴会社がわが国において特に市民の生活と密接な関係のある有数の大会社でその名はあまねく知られている、という当裁判所に顕著な事実を総合考察するときは、控訴会社が被控訴会社と同一の商号に変更する旨の登記をしたことには、右登記の存在することによつて被控訴会社を困惑させ、もつて不当の利益を収めようとするの意図があつたものと推測するのほかはない。これに反する原審及び当審における証人加藤豊松の証言及び控訴会社代表者繁住菊雄本人尋問の結果は前掲各証拠に照してたやすく信用し難く、その他前記認定をくつがえすに足る証拠がない。

控訴会社が「東京瓦斯株式会社」なる商号を使用することは、不正の目的をもつて被控訴会社の営業と誤認させる商号の使用であると断定せざるを得ず、被控訴会社はこれに因りて利益を害せられるおそれがあるものとして、商法第二十一条により控訴会社に対して右商号の使用を止むべきことを請求することができるが、なおその使用禁止の目的を達するために控訴会社のした右商号の登記の抹消登記手続を求めることもできるとすることが相当である。

(内田 原 入山)

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