東京高等裁判所 昭和32年(ネ)2310号 判決
被控訴人は控訴人の借地である本件宅地の上に昭和二十二年五月頃以降木造スレート葺平家建居宅一棟建坪六坪五合(実測十坪七合五勺)を建築所有して自ら右宅地を占有使用し、控訴人が昭和二十三年八月頃同地上に建築面積十坪五合床面積十八坪の店舖兼住宅用の建物の建築を計画し被控訴人に対し前記建物の収去及び土地の明渡を求めたのにもかかわらずこれに応ぜず、昭和二十五年控訴人において、やむをえず被控訴人を相手どり東京地方裁判所に右建物の収去土地明渡の請求訴訟を提起すると、被控訴人はこれに応訴して抗争し、第一、二審とも被告である本件被控訴人の敗訴となり上告したが、昭和三十年十一月一日上告棄却の判決があつて被控訴人敗訴の判決が確定したけれども(この訴の提起並びに上述の経過をたどつて被控訴人の敗訴の判決が確定をしたことは当事者間に争がない。)被控訴人は任意本件宅地を控訴人に明け渡すことをせず、同月十四日控訴人の申請により東京地方裁判所から建物収去命令が発せられ翌年一月二十六日及び二月二日の二回に亘り控訴人において強制執行をしようとしたところ、被控訴人はその都度猶予を求めた上、ようやく同年三月十六日右建物を収去して本件宅地を控訴人に明け渡したけれども、上記経過によつて明らかなように被控訴人は引き延ばせるだけ本件土地の明渡を引き延ばして来たこと、しかも被控訴人は控訴人が右土地の明渡を受けたので早速権利保全のため同地上にとりあえず前示の建物を建築したところ、これを以て控訴人が借地権の残存期間を超えて存続すべき建物を築造するものであると主張して東京地方裁判所に控訴人を被申請人として仮処分の申請をなし、控訴人の本件宅地及び右建物に対する占有を解いて被控訴人の委任する執行吏の保管に移す旨の仮処分決定を得てその執行をなし、あまつさえ控訴人が右建物に水道及び電気を引くことを妨害し、もつて控訴人が右建物及び土地を使用することを事実上不能ならしめる挙にいで、従つて仮に控訴人が右建物より程度の高い建物を築造しようとしても被控訴人の妨害に会うことが必至であつて到底これをなしえない事情にあつたこと等が認められ、右認定を左右するに足りるような証拠はない。右認定の事実によれば、借地権者である控訴人が本件土地の上に契約の更新請求をなすに値する程度の建物を有しないのは、畢竟土地の所有者である被控訴人がその築造を妨げて来たことに基因するものであることが明白であり、被控訴人は自ら控訴人の更新請求権の成立を妨げたものというべく、このような場合には信義公平の見地から控訴人に契約の更新を請求しうる権利があるものと解するのを相当とすべきであるから、更新請求の要件である「建物がある場合」に当らないとしてこれを理由として控訴人に本件賃貸借の更新請求権がないことを主張する被控訴人の右主張は採用することができない。
(川喜多 小沢 位野木)