東京高等裁判所 昭和32年(ネ)2514号 判決
当裁判所は更に審究の結果、原判決と同一の理由により控訴人の本訴請求を失当として排斥すべきものと判断したので、原判決理由の説明を全部引用し、単に次の点を付言する。
(一) 控訴人は熱海簡易裁判所が本件公示催告を命じたのは、被控訴人提出の公示催告申立書に明記するように、株券が持逃げ即ち詐取若しくは拐帯横領されたことを理由とするものであつて、正に公示催告を許すべき場合でないこと明かであるのに、敢てこれを実施したのは違法であると主張する。
しかし、成立に争のない甲第二号証の一(公示催告申立書)には、被控訴人において保管中の株券を小牧俊三が持逃げ高飛したと記載してあるに止り、同人がこれを横領したとの記載はない。俗に「持逃げ」というときは常に詐取若しくは拐帯横領を意味するとは限らず、用語適切を缺くとしても窃取逃走の意味に使用することもありうべく、当該の場合その何れの趣旨と見るかはひつ竟意思解釈の問題にすぎない。熱海簡易裁判所が被控訴人提出の公示催告申立書記載の事実よりして本件株券が盗取されたことを理由とする申立であると解して取扱つたのは必ずしも不当といえないばかりでなく、成立に争なき甲第八号証(東京簡易裁判所の照会に対し被控訴人が提出した回答の書面)に徴するに、被控訴人は窃取の意味で右「持逃げ」なる語を用いたことが明らかであるので、控訴人の前記主張は理由がない。
(二) 本件株券の公示催告手続は株券発行者の本店所在地を管轄する東京簡易裁判所の管轄に属し、熱海簡易裁判所はこれにつき管轄権を有しない故、同裁判所のなした公告は明らかに管轄の規定に違背するものというべきであるが、これを民事訴訟法第七百七十四条第二項第二号にいう「公示催告ニ付テノ公告ヲ為サ」なかつた場合と同一に論ずべきでないとする原判決の説示は首肯することができる。控訴人の主張するように株券の所持人は発行会社の所在地を管轄する裁判所以外の裁判所がなした公告には十分の注意を払わない傾があるとしても(常にそうであると断定する程の資料はなく、現に本件株券と共に公示催告の公告がなされた日本軽金属株式会社株券については権利の届出がなされている)、民事訴訟法第七百七十四条において除権判決に対する不服申立の事由を制限し、管轄違背をそれから除外していることによつて見れば、除権判決の前提たる公告の手続が管轄権なき裁判所によつて行われたからといつて、その公告を無効とし、あたかも公告が全然なされなかつたものと同一視して除権判決に対し不服の申立をすることは許されないのというべきである。
(二宮 奥野 大沢)