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東京高等裁判所 昭和32年(ネ)395号 判決 1957年11月29日

控訴人

岩田松太郎

外一名

被控訴人

張履

外一名

主文

原判決中、控訴人等敗訴の部分を取り消す。

被控訴人等各自はそれぞれ各控訴人等に対し、原審認容の金額の外、金二十五万円宛及びこれに対する昭和二十八年十二月二十一日以降完済まで、年五分の割合による金員を支払うべし。

控訴人等その余の請求を棄却する。

訴訟費用は第一、二審を通じこれを三分し、その一を控訴人等その余の被控訴人等の負担とする。

この判決は主文第二項第四項につき仮に執行することができる。

事実

(省略)

理由

当裁判所は原審が各控訴人に対する慰藉料の額をそれぞれ金十五万円を以て相当とする旨判示した部分を訂正し、なお次のとおり付加する外、原判決理由に説示するところと同一の判断に到達したので、右の説示を引用する。

被控訴人武石虎二郎が本件自動車を時速約三十粁位で運転し、事故発生現場附近に差かかり、その手前四、五十米の所で右前方に二列になつて歩行中の幼稚園児童達を望見したこと及び被害者陽子の左側を通りすぎようとした際における自動車の速度が時速二十五粁位であつたことは、原審証人佐藤義弘の証言及び成立に争のない甲第十六、七号証の記載によりこれを認めうべく、右の認定に反する原審における同被控訴本人の供述は採用し得ない。そして右の際道路左側にはまだ約一米半位の余裕があつたので、自動車を更に左に寄せることも不可能ではなかつたのに、被控訴人武石がかかる措置に出なかつたこと、同人は車体の右側を助手台附近の所まで見たが、それより後方の所までは首をひねつて見るようなこともなかつたことは、前記甲第十六号証の記載及び佐藤義弘の証言によりこれを認めうべきところ、本件のような狭い道路上で後方より幼児の側面を通過せんとする場合には、万一の接触の危険を避けるため、幼児との距離に留意しつつ能う限り自動車を道路の反対側に寄せるよう処置すべきことは、自動車運転手としての当然の義務であるに拘らず、被控訴人武石がその挙に出なかつた点においても、同人に過失ありといわざるを得ない。

しかるところ、控訴人等が本件事故の結果、一朝にしてその愛児を失い、痛恨悲嘆如何に深刻であつたかは、推察するに難くないところであつて、原判決理由に掲げた本件諸般の事情を綜合すれば、控訴人等の精神上の苦痛は、被控訴人等においてそれぞれ各控訴人に対し金四十万円宛を支払うことにより僅に慰藉せらるべきものと判定した。原審が右慰藉料の相当額を各金十五万円と判定したのは、低きに失するものというべきである。されば、各被控訴人が原判決認容の慰藉料額の外、更に各控訴人に対し金二十五万円宛及びこれに対する訴状送達後たる昭和二十八年十二月二十一日以降各完済に至るまで年五分の割合による金員の支払を求める限度において、その請求を正当とすべく、右の限度を超える慰藉料並に原審の認容した以外の損害金の請求は失当につき棄却すべきである。

よつて本件控訴を一部理由ありとし、原判決中控訴人等敗訴部分を主文のとおりに変更し、訴訟費用は民事訴訟法第八十九条第九十二条第九十六条に則り、その負担部分を定め、同法第百九十六条により仮執行の宣言をなすべきものとする。

(裁判官 薄根正男 奥野利一 山下朝一)

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