大判例

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東京高等裁判所 昭和32年(ネ)566号 判決

被控訴人は昭和二四年末頃前示のように(ハ)の部分を控訴人に貸した後渋谷方面に移つて約二年間飲食店営業をしたが成功せずこれを畳んで本件建物に帰つて来て娘喜美子(大正二年生)と本件家屋の二畳二間に居住していたが、働きに出ていた娘キク子(大正八年生)、まさ子(大正一三年生)をも引取り家族揃つて暮すことを望み、それには右二間では居住にも困難であるうえ、めいめいが働かねば一家族が生活するだけの収入の道もない状態なので本件建物の(イ)(ロ)の部分を利用して何か女手でできる店を開き度いと切望していた。

一方控訴人は、被控訴人が渋谷から帰つて来た頃は、(イ)(ロ)の部分で美容院、(ハ)の部分で不動産仲介業をしていたが、しばらくして被控訴人が本件建物の内(ロ)の西側に隣接する約二坪の部分を稲毛某に売り、その改築工事のため右(ロ)の部分から炊事場に通ずる通路が閉ぢられた頃から、(イ)(ロ)の部分が通風その他の関係で美容院として構造上不適当になつた関係からその経営を断念し、昭和二八年一月頃までには、(ハ)の部分と共に全部を不動産仲介業の店舗として使用するようになつていた。控訴人は本件建物から約三〇米離れたところに居宅があつたので、本件建物は専ら営業のために使用するものであつたが、不動産仲介業には、それ程広い店を必要としないし、その使用状態から考えても、多少の不便はあるが、(ハ)の部分のみでも営業は続けられるものと見られる。もつとも、控訴人は賃借に際し多額の権利金を支払つたうえ、数次にわたる改装増築などで係争部分のみについても相当の資金を投入したのであるから(ハ)の狭い場所のみになることに不満であることは察せられる。以上の事実が認められ、前記各証拠中この認定に反する部分は採用しない。

これ等の事情を比較し本件賃貸借契約では特に期間を明確に約定してあつた事実をも考慮して被控訴人の更新拒絶は正当の事由があるものと認められる。

(角村 菊池 土肥原)

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