東京高等裁判所 昭和32年(ネ)670号 判決
控訴人株式会社中里自動車商会の代表者中里栄太郎は中里喜四郎の妻の叔父に当り、中里喜四郎は昭和二十五年八月頃タイヤの統制廃止とともに東京都タイヤ商業組合を辞職し、自動車修理業を営む控訴会社の事務所の一部を使用し控訴会社の電話を利用して、株式会社中里自動車商会タイヤ部の名称でタイヤ売買業をはじめ、昭和二十六年七月その筋向いの建物に移転して営業を続け、その後被控訴人大津ゴム工業株式会社とタイヤ取引を開始したことを認めることができ、また、当審証人中里啓子及び中里喜四郎の証言によれば、中里喜四郎は当時控訴会社の吉野某、中里啓子(栄太郎の娘)をして、その保管にかかる控訴会社とその代表者の実印その他の印章類を押捺せしめ、又は吉野等より気安くこれを手交せしめて使用していたことが認められる。従つて、控訴会社代表者中里栄太郎は、中里喜四郎が右のような名称を使用し又は控訴会社の印顆を用いてタイヤ売買業を営んでいたことを知りながら、親戚間のことでもあるので特に異議を述べなかつたことを認めることができる。さらに、証拠によると、控訴会社代表者中里栄太郎は最初中里喜四郎の営むタイヤの売買業が第三者より控訴会社の営業の一部門のように解されることに対し必ずしも異議をいわなかつたが、進んで中里喜四郎に対してタイヤの売買につき控訴会社の名義で営業することを暗黙的に許諾するに至つたこと、ここにおいて中里喜四郎は昭和二十七年十月一日これにもとずき、控訴会社名義を用いて被控訴会社との間に被控訴会社製造にかかる自動車タイヤを購入して他に販売すべき旨の契約を結んだこと、次いで控訴会社代表者中里栄太郎は明示的に中里喜四郎に対して被控訴会社などとの取引につき控訴会社を代理する権限を与え、殊に控訴会社を代表する権限ある取締役なりとし、又はその代表なりとして手形を振り出すことを承認し、且つその旨を昭和二十八年十月一日被控訴会社に対して表示するに至つたこと、ここにおいて中里喜四郎は控訴会社タイヤ部代表取締役又は控訴会社タイヤ部代表名義をもつてその直後から昭和二十九年二月までの間に被控訴会社よりその製造にかかるタイヤを買い入れ、その代金支払のため本件各約束手形を振り出したことが認められる。従つて、右認定によれば、控訴会社は中里喜四郎に対して単に外部的に控訴会社名義を以て営業をなすことを許諾したに止まらず、さらに内部的に控訴会社名義で手形を振り出すことについての代理権を附与していたのであつて、中里喜四郎はこの代理権に基いて本件各手形を振り出したものと認められるのである。
もつとも本件各手形の振出人名義は、「株式会社中里自動車商会タイヤ部代表取締役中里喜四郎」又は「株式会社中里自動車商会タイヤ部代表中里喜四郎」となつており、中里喜四郎が右手形振出当時控訴会社の代表取締役でも取締役でもなかつたことは当事者間に争いのないところである。およそ、株式会社の代表取締役でないものが代表取締役又は代表の名称を使用する場合に、会社がこれを明示又は黙示的に承認しており、且つ他面その者に対して会社名義で取引をする代理権を附与しているときは、会社はその者の行為について責に任ずべきものと解すべきであり、その代表取締役又は代表の名称を用いた者が、その会社の取締役もしくは使用人たるとしからざるとを問わないものというべきである。けだし、この場合内部的に代理権が存在し、外部的には会社を代理又は代表する名称の使用が承認されているからである。そして、本件はまさにこのような場合に該当するから、控訴会社は右各手形について振出人としての責に任ずべきである。
よつて、本件各手形金合計八百九万八千四百二十円及びこれに対する完済までの法定利息の支払を求める被控訴人の本訴請求は正当である、としてこれを認容した。
(本件取消とあるは、原判決の言渡期日が裁判官によつて適法に指定されたことを記録上認め得ないから、原審判決手続には違法があるとして、改めて本訴請求につき判決したことによる。)