大判例

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東京高等裁判所 昭和32年(ネ)785号 判決

つぎに同抗弁口について考えるに、商法第二六五条において会社の取締役が自己または第三者のため会社と取引をなすについて取締役会の承認を受けることを要する旨定めたのは、取締役は本来会社の利益を図るべき任務を有するものであるが、みぎのように一方会社を代表し、他方自己あるいは第三者のために取引をする場合には会社に不利益をおよぼすおそれがあるから、かかることのないようもつぱら会社の利益保護を目的とするものである。したがつて手形振出の行為においても会社がそれによつて真実取締役にたいし債務を負担するなど会社と取締役間に利害の対立を生ずる場合はみぎ手形振出につき取締役会の承認を必要とするけれども、その手形振出により会社は何ら取締役に対し債務を負担することがない場合は会社と取締役との間の利害の対立はないから商法第二六五条による取締役会の承認を経る必要がないものと解するのが相当である。いま本件について見ると、控訴会社が本件約束手形を振出し、その他の控訴人らがこれに裏書をしたのは、控訴会社としては被控訴会社から買受けた牛肉代金の支払のためであり、その他の控訴人は同会社のためにみぎ代金債務を保証し、保証債務の履行のために裏書したものであること当事者間に争ないところである。したがつて控訴人好吉が控訴会社の代表取締役として本件約束手形を自己にあて振出したことはもつぱら控訴会社の利益のためなしたことで、これにより控訴人好吉が控訴会社にたいしなんら手形上その他の債権を取得する趣旨のものでないことはあきらかであるから本件約束手形振出については手形当事者たる控訴会社とその取締役控訴人好吉との間になんら利害の対立のないこというまでもない。したがつてみぎ振出につき控訴人好吉は控訴会社取締役会の承諾を受けることを要しないものというべきである。この点に関する控訴人の抗弁は採用によしないところである。

(牧野 谷口 満田)

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