大判例

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東京高等裁判所 昭和32年(ネ)875号 判決

本件売買当時まで右北側通路及び門が本件住宅建物に対する主たる出入口として現実に使用されており、外観上もその正門の体をなし、売主においてもその使用継続の能否について何等の説明もなさないでその現状のままこれを売渡したような場合には、右売買の当事者は右通路及び門が本件建物の通路及び門として使用できることを前提として、売買契約をなしたものと推認すべく、右通路及び門を使用できないことは本件売買の目的物に隠れたかしがあつた場合に該当する。

しかしながら右のようなかしを理由として売買契約を解除するためには、買主においてこれがため契約をなした目的を達することができない場合に限るので、更にこの点を検討する。本件土地が東方及び南方において公道に接することは前認定のとおりであり、当審における検証の結果によれば、本件建物の北向の玄関から東方に本件土地内の空地を通つて東側の公道に出ることは容易であり、現に被控訴人においても右のようにして支障なく本件住宅建物に出入していることが認められるけれども、原審証人橋本ヨシ江、同西脇栄子、同堀江照、同北山忠雄(第二回)、当審証人高田イトの各証言並びに原審及び当審における被控訴人堀江憲治本人尋問の結果を総合すれば、

被控訴人は、産婦人科及び外科の専門医でもと別府市で病院を経営しており、昭和二十八年八月東京で病院を経営するため上京し、必要な器械及び資金についてもある程度の準備をして病院開設のできる土地建物を物色中、たまたま訴外橋本ヨシ江より訴外北山忠雄を紹介され、同人及び訴外木内貞平の仲介により本件土地建物を買受けるに至つたもので、被控訴人は、他にも数箇所の候補物件があつたがその中から特に本件土地家屋を選んだのは、その東北部に相当広い空地があつて、その全部に増築をするときはここに病院を開設することが可能となると考えたからであり、病院開設が本件土地建物買受の目的であつて、そのことは本件売買成立前に前記橋本ヨシ江、附近の開業医西脇栄子、仲介人北山忠雄、木内貞平及び控訴人の夫臼井啓策にも話してあつたこと、

が認められる。右認定に反する原審証人北山忠雄(第一回)、当審証人木内貞平、同臼井啓策の各証言は信用できない。右のように被控訴人が本件土地建物を買受けた目的は同所に病院を開設するに在つたところ、被控訴人において本件建物の北方通路を使用することができないことは前示のとおりであり、これに代えて本件土地の東北部の空地の一部を通路に使用するときは増築用地の面積はそれだけ減少すべく、一方病院を開設するためには医院開設の場合と異り、患者二十人以上の収容施設を設けることを要するほか(医療法第一条)、各科専門の診察室、手術室、処置室、臨床検査施設、エックス線装置、調剤所、消毒施設、給食施設、給水施設、暖房施設、洗たく施設、汚物処理施設、その他の施設を設けることを要するのが原則であり(同法第二十一条)、患者収容施設たる病室は一ベット当り四・八六平方米を必要とし(同法施行規則第十六条第九号)、原則として地階又は三階以上にこれを設けることができない(同規則第十六条第三号)等の法令上の制約があつて、右のうち病室だけについて考えても最少限度の二十人を収容するベット当りの面積は二十八坪余を要する計算となり、これに右列挙の諸施設を加えなお病院玄関、患者待合室、廊下その他通常必要とする諸施設を考慮するときはその所要面積は決して狭少でないことが明らかであるけれども、原審における被控訴人堀江憲治本人の供述中、本件家屋の空地十七、八坪一ぱいに二階建を建てなければ病院を開設することができない旨の供述は、具体的根拠が明確でないから被控訴人主張事実を認めるに足りる資料とならず、その他右空地全部を使用すれば病院を開設することができるが、右空地より通路用敷地を控除すれば所要の敷地が不足して本件土地建物に病院を開設することが不可能となるという被控訴人主張事実は、これを確認するに足りる証拠がない。のみならず本件建物への通路は必ずしも右空地以外に求められないわけではなく、右空地全部を病院開設のため使用し、本件住宅に当る建物を改造してその玄関及び門を南方道路に向けて開かせることも可能のはずであり、被控訴人は、この地に開設すべき病院が前記北側通路を必要としないように本件建物に模様替を施すことは絶対不可能ではないが、そのため被る損失は被控訴人の忍び得るところではない旨抗争するけれども、原審における被控訴人堀江憲治本人の供述中、右のような改造をするには数百万の費用を要する旨の供述によつては、未だ右改造が不可能なことを認めるに足りず、他に右改造を不可能とするような特別の事情はこれを認めるに足りる証拠がない。以上説示するように被控訴人が本件建物の北方の通路を使用することが不可能となつたことにより、本件売買をなした目的である本件土地に病院を開設することができなくなつたという事実は、これを認めることができないことに帰するから、これを前提とする被控訴人主張の契約解除の意思表示はその効力がない。

(斎藤 坂本 小沢)

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