東京高等裁判所 昭和32年(ネ)909号 決定
出入国管理令第五十条は法務大臣が容疑者の異議申立に対し裁決するに当り異議申立が理由なしと認められる場合即ち本来強制退去を命ぜらるべき者であつても、行政庁たる法務大臣の自由な判断と責任において諸種の事情を考慮して一定の条件(同条第一項第一号ないし第三号のいずれか一つ)を具備するときに限り特別にその者の在留を許可することができる旨を規定したに止り、右一定の条件に該当する限り特別に在留を許可しなければならない法意と解すべきでない。換言すれば在留の特別許可は行政上の考慮にもとずき行政庁にまかせられた自由裁量に属するいわば恩恵的措置であつて、右許否の決定はいわゆる法規裁量事項と解し得ないから、仮りに本件において控訴人主張のような事情があつたとしてもこれを以て同令第五十条第一項三号に「特別に在留を許可すべき事情があると認めるとき」に該当するとし、法務大臣が前示裁決に当り右特別在留許可を与えなかつたのは違法であるとする控訴人の主張は採用できないし、またこれを以て裁量権の限界を逸脱し著しく合理性を欠く不当の措置と解すべき根拠もない。
なお控訴人は法務大臣が前示特別在留許可の許否を決すべき標準時は異議申立の時と解すべきであるとし、これを前提として法務大臣の裁決(異議申立を理由なしとして裁決するに当り特別在留許可を与えなかつたこと)につき云為するけれども、右特別在留を許可するかどうかを裁量すべき基準時は裁決をしようとする時であることは、同令第五十条の規定の文理上明白である。
(柳川 坂本 中村)