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東京高等裁判所 昭和32年(ラ)159号 決定 1958年12月19日

静岡銀行

事実

抗告人宮崎清は昭和二十四年ソ連より復員し、家業である下駄製造業を再開するため籾山虎吉に依頼し、相手方たる株式会社静岡銀行から三十万円の融資を受けようとし、籾山に対し相手方銀行の要求する書類一切を担保物件として提出したところ、相手方銀行からは何らの融資もなく、相手方銀行は右提出した書類を悪用して籾山に対する貸付金回収の手段として本件根抵当権設定契約書を作成したものであつて、右契約は抗告人の全く関知しないところであり、抗告人は籾山にこのような契約を締結する代理権を与えたことはなく、右根抵当権設定契約はもとより無効であり、これに基き抗告人所有の物件につきなされた本件競売手続は違法であるから、原競落許可決定は取り消されるべきであると主張した。

相手方静岡銀行は、本件根抵当権設定契約は籾山虎吉が抗告人を代理して静岡銀行と締結したものであり、仮りに籾山に代理権がなかつたとしても、静岡銀行は同人が右契約を締結するにつき代理権ありと信ずべき正当の理由があつたものである。すなわち、抗告人は籾山に対し本件不動産を担保に供して静岡銀行から金融を受ける交渉その他一切の手続を依頼して同人に代理権を与えていたものであつて、籾山は抗告人から交付された本件物件に関する権利証及び抗告人の委任状、印鑑証明を持参して静岡銀行との間に本件根抵当権設定契約を締結したものであり、当時静岡銀行は同人に右契約を締結すべき権限ありと信じたればこそ右契約を締結したものであるから、たとえ同人に代理権がなかつたとしても、代理権ありと信ずべき正当の理由があつたものであると主張した。

理由

証拠によれば、抗告人と籾山虎吉とは甥、叔父の関係にあつて、右籾山は抗告人が出征中は抗告人の亡父(籾山の兄)の経営していた下駄工場において下駄の製造をしてこれを販売し、かねてから相手方静岡銀行より融資を受けていたものであつて、その結果静岡銀行に対し二百万円の負債を生じたところ、昭和二十四年抗告人は復員して帰国し、亡父の工場を再開して下駄生地の製造を自ら試みようと決意し、叔父である籾山にかねて同人と取引のある静岡銀行から約三十万円の融資のあつせん交渉を依頼し、これが担保に供する目的の下に本件物件に関する権利証、印鑑証明書、委任状などを同人に交付したので、籾山はこれを利用して抗告人の代理人として静岡銀行との間に同年十二月二十四日本件根抵当権設定契約を締結したものであり、静岡銀行としては籾山に代理権ありと信じて右契約をしたものであることを認めることができる。従つて籾山は本件根抵当権設定契約については抗告人から代理権を与えられていたものではなく、同人は抗告人から与えられていた権限を超えて右契約を締結したものであることは明らかであるが、静岡銀行は籾山にその権限ありと信ずべき正当の理由を有していたものであるから、本件根抵当権設定契約は抗告人に対し効力を生じたものといわなければならない。

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