東京高等裁判所 昭和32年(ラ)199号 決定
別紙目録記載の不動産のうち、第一、第二の建物は第一金属工業株式会社、第三の土地は伊藤英男の各所有であつたところ、伊藤幸次郎は右各不動産の所有権を代物弁済により取得したものであるとして、昭和二十五年九月九日第一の建物につき法務局台東出張所受付第一一九九八号、第二の建物につき同出張所受付第一一九九九号、第三の土地につき同出張所受付第一二〇〇〇号を以て各売買による所有権取得登記をなし、相手方は更に昭和二十八年四月十五日右幸次郎から売買により右不動産の所有権を取得したものであるとして、同年七月十三日その旨所有権取得登記をなした。ところで、右第一金属工業株式会社及び伊藤英男と伊藤幸次郎との間の代物弁済契約はいわゆる暴利契約で民法第九十条に違反し無効であり、従つて伊藤幸次郎のための前記所有権取得登記は無効で、右幸次郎は第一金属工業株式会社並びに伊藤英男に対しそれぞれ前記所有権取得登記の抹消登記手続をなすべき旨東京高等裁判所昭和二七年(ネ)第九四九号事件として判決言渡があり、右判決は最高裁判所昭和三〇年(オ)第二二八号事件とし昭和三十二年二月十五日上告棄却の判決言渡とともに確定した。そして、抗告人は伊藤金属工業株式会社に対する金九百十七万円の債権につき、その代物弁済として、昭和三十二年二月十八日第一金属工業株式会社から別紙目録記載の不動産のうち、第一、第二の建物を、伊藤英男から第三の土地を取得する契約をしたものである。
以上のとおり認めることができるのであつて、右事実に徴して考えてみると、相手方は別紙目録記載の不動産につき、現在登記簿上の所有名義人であるけれども、前主伊藤幸次郎の所有権取得が無効であるため、相手方の所有権取得もまた、無効で相手方は実体上無権利者であつて、抗告人は実体上の権利者たる第一金属工業株式会社並びに伊藤英男からそれぞれ別紙目録記載の不動産の譲渡を受けた真正の所有者であることが明らかである。ところで、不動産の登記簿上の所有名義人は、真正の所有者に対しその所有権の公示に協力すべき義務あるもので、その協力の方法として不動産の登記簿上の所有名義人は自己の登記の抹消若くはこれに代えて真正の所有者に対し所有権移転の登記をなすべく、このような後者による方法も真正の所有者の所有権を公示するに適するものであるから、真正の所有者は所有権に基き登記簿上の所有名義人に対し、所有権移転登記の請求をなすことができるものと解するのを相当とする。(最高裁判所昭和三十年七月五日言渡第三小法廷判決、最高裁判所判例集第九巻一〇〇二頁参照)してみれば、本件不動産の真正の所有者たる抗告人は登記簿上の所有名義人たる相手方に対し所有権に基き右不動産の所有権移転登記請求権を有すること明らかであるから、本件仮登記処分申請は仮登記原因について疏明があるものと認めるのを相当とする。従つて、抗告人の本件仮登記仮処分の申請を理由なしとして却下した原決定は失当であるからこれを取り消し、本件仮登記仮処分申請は理由ありとして認容すべきものと認め、主文のとおり決定する。
(浜田 仁井田 伊藤)