東京高等裁判所 昭和32年(ラ)256号 決定 1957年7月24日
抗告人 高橋忠義
主文
本件抗告を却下する。
理由
職権をもつて本件抗告の適否を考えるに、抗告人は昭和三二年一月一〇日横浜家庭裁判所昭和三〇年(家)第一一三三号相続財産管理人選任事件で被相続人亡渋谷キヌの相続財産管理人に選任せられたものであるところ、抗告人は、右渋谷キヌの遺産全部をキヌの亡父覚三の妹である渋谷ヨシに無償譲渡することがいろいろの事情から至当であるとして民法第九五三条第二八条家事審判法第九条第一項甲類三二号の規定にもとずき、原審家庭裁判所に対し、相続財産管理人の権限外の行為たる右無償譲渡行為の許可を求めたが、原審家庭裁判所は右無償譲渡を妥当でないとして、その許可申立を却下するとの審判をしたことは、記録によつて明らかである。おもうに、家事審判法第一四条において、審判に対しては最高裁判所の定めるところにより、即時抗告のみをすることができる旨規定しているところからみれば、家事審判に対しては普通抗告ができないものというべきである。けだし、家事審判について、家事審判法第七条において準用する非訟事件手続法第二〇条に定める普通抗告を認めるとすれば、この抗告には何ら期間の制限がないため、家事審判を永く不確定な状態に置く場合を生じ適当でないから、家事審判法第一四条は右非訟事件手続法第二〇条に対する特則を定めたもので、普通抗告を認めない趣旨であると解すべきである。而して、相続財産管理人の権限外の行為の許可に関する審判に対して即時抗告をなしうる旨の規定は家事審判規則に存在しないから、結局管理人の権限外の行為許可に関する審判に対しては不服申立ができないのである。
よつて、本件抗告を不適法として却下すべきものとし、主文のとおり決定する。
(裁判長判事 角村克己 判事 菊池庚子三 判事 吉田豊)