東京高等裁判所 昭和32年(行ナ)5号 判決 1961年1月31日
原告 株式会社日立製作所
被告 岡部繁
主文
昭和二十七年抗告審判第六九一号特許権範囲確認抗告審判請求事件について、特許庁が昭和三十一年十二月十四日にした審決を取り消す。
訴訟費用は、被告の負担とする。
事実
第一請求の趣旨
原告訴訟代理人は、主文同旨の判決を求めると申し立てた。
第二請求の原因
原告代理人は、請求の原因として、次のように述べた。
一、被告は、特許第一二四、五一四号「炭車トロ等に於ける脱線防止装置」の特許権者であるが、昭和二十三年八月五日特許庁に原告を被請求人として「(イ)号図面及び説明書に示す炭車の脱線防止装置は、特許第一二四、五一四号の権利範囲に属する。」との権利範囲確認審判を請求した(昭和二十三年審判第六九号事件)。
被告はその後昭和二十四年三月四日及び同年十月十一日の両度にわたり審判請求の趣旨を訂正し、審判の対象は結局、別紙目録第二記載の「再訂正(イ)号図面及びその説明書に示す炭車の脱線防止装置」となつたが、特許庁は昭和二十七年六月十七日初審として、「請求人(本件被告)の申立は成り立たない。審判費用は請求人の負担とする。」との審決をなした。
しかるに被告は右審決を不服とし、昭和二十七年七月十一日これに対し抗告審判を請求したところ(昭和二十七年抗告審判第六九一号事件)、特許庁は昭和三十一年十二月十四日被告の請求を容れ、「原審決を取り消す。再訂正(イ)号図面及びその説明書に示す炭車の脱線防止装置は、第一二四五一四号特許の権利範囲に属する。審判及び抗告審判の費用は抗告審判被請求人(本件原告)の負担とする。」との審決をなし、右審決は同月二十四日原告に送達された。
二、右抗告審判における当事者の主張の要旨は、次のとおりである。
(1) 被告(請求人)の主張
本件特許発明の要旨は、「車軸を車体に対し回転自在にも、又固定的にも取付けることなくして、その車輪の回転承部と車台支持台とを全然無関係に別の個所において車体支持台の遊動孔に挿入し、その両側から下部に亘つて設けた遊動間隙により、車軸と支持台とが各方向の力に対して円滑容易に関係的に移動し得るよう車軸上に支持台を安定せしめて脱線を防止するようにした炭車『トロ』等の脱線防止装置」であつて、原告製作にかかる再訂正(イ)号図面及びその説明書に示すものは、本件特許の権利範囲に属する。
(2) 原告(被請求人)の主張
本件特許発明の要旨は、「車軸と車体との関係的移動により、車両の円滑なる回転を防ぐることなからしむると共に、各方向の力に対し、車軸と車体との関係的移動を円滑且容易となすことにより良く脱線を防止せんとする目的達成の為、車軸を車体に対し、回転自在にも、又固定的にも取付くることなくして、その車輪の回転承部と別の箇所において車台支持台の遊動孔に挿入し、車軸側における小径の弧状座面を遊動孔上部の大径弧状面に圧接せしめ、その両側より下部に亘り充分なる遊動間隙を設け、支持台と車軸とが各方向の力に対し円滑且容易に関係的に移動し得る如く車軸上に支持台を安定せしめたる炭車『トロ』等に於ける脱線防止装置」であつて、「再訂正(イ)号図面及びその説明書」に示すものは右要旨を具備せず、本件特許権利範囲に属しない。
三、これに対する審決の要旨は、次のとおりである。
(一) 本件特許発明のものの要旨とするところを検討するに、その特許発明明細書の「特許請求の範囲」には、
(1) 本文の目的に於て本書に詳記し且図面に例示する如く
(2) 車軸を
(a) 車体に対し廻転自在にも又固定的にも取付くることなくして
(b) 其の車輪の廻転承部と別の個所に於て
(c) 車体支持台の遊動孔に挿入し
(3) 車軸側に於ける小径の弧状座面を遊動孔上部の大径弧状面に圧接せしめ、
(4) 其の両側より下部に亘り充分なる遊動間隙を設け
(5) 支持台と車軸とが円滑且容易に関係的に移動し得る如く
(6) 車軸上に支持台を安定せしめたる
炭車『トロ』等に於ける脱線防止装置
と記載され、(2)乃至(6)の特徴をかね備えたる炭車「トロ」に於ける脱線防止装置にあるものと認める。
(二) 一方再訂正(イ)号図面及びその説明書に示すものは、その説明書に記載されているように、
前文、(A)は車軸で、その両端には各車輪(B)を廻転自在に装置する。車輪(B)の轂筒(C)内にはボールベアリングを設け、車軸(A)に対する車輪(B)の廻転を軽く保つ
につづいて
(イ) 車軸(A)は車体に対し廻転自在にも、また固定的にも取り付けることなく
(ロ) 両車輪(B)の各内側に当る部分を
(ハ) 車体支持台(D)の遊動孔(E)に挿入し
(ニ) 車軸(A)に形成した弧状座面(F)を遊動孔(E)の上部の弧状面(G)に圧接させ
(ホ) その弧状面(G)は支持台(D)の孔の中央部においてはその弧の半径が少しく少さく、従つて弧状座面(F)との半径の差異が微少であるが、支持台(D)の端部においては弧状面(G)の弧の半径が前記中央部におけるよりも大きいため弧状座面(F)の弧の半径よりも大きくなつている。
(ヘ) 遊動孔(E)と車軸(A)との間には、その両側から下部に亘つて遊動間隙(H)(H′)(I)を設け、
(ト) 支持台(D)と車軸(A)とが円滑、容易に関係的に移動し得るように
(チ) 車軸(A)上に支持台(D)を安定させることによつて炭車の脱線を防止したものである。と記載され、再訂正(イ)号図面及びその説明書に記載されたものは、上記前文とともに(イ)乃至(チ)に記載された通りのものと認める。
(三) 以上認定に基いて両者を比較して、
(1) 前者の(2)の(a)(b)(c)の点では、後者の(イ)(ロ)(ハ)の点と一致し
(2) 前者の(2)(3)(5)(6)の点では、後者の(ニ)(ヘ)(ト)(チ)の点と表現上の微差はあつてもその内容は大略一致しており、ただ車軸側の弧状座面と遊動孔上部の弧状面の弧の半径に、小と大の差異があるか否かの明示、即ち異径弧面接触であることの明示の有無と、遊動間隙が充分であるか否かの明示の有無の相違が認められる。しかしその第一点の差異は、後者に(ホ)のような詳細な説明があつて、これが異径弧面接触をなすことと均等と認められるので実質上の差異ありとすることはできないものと認める。またその第二点の差異は、両当事者が最も重点を置いて論争するところであるから後に詳述するが、要するに「充分なる」は単なる間隙量の大小ではなく、作用効果の程度を表現する字句と認められ、従つて「充分」なる表現の有無にかかわりなく、また作用効果の程度の差異を論ずるまでもなく単に、作用効果の有無を問題として発明思想自体の比較検討をなすべきであると結論され、両者がそれぞれ脱線防止装置であつて、同種類の作用効果が認められる以上、この差異もまた権利範囲確認の審理においては、後者が前者の権利範囲に属しないとする条件として採用するに足る差異と認めることはできない。(中略)
以上審理したところによつて両者を比較するに、両者はいずれも炭車「トロ」等の脱線防止を目的とした輪軸及び車体支持台関係の構成を要旨とする装置であつて、全体として脱線防止効果が認められるものであり、その構成上も異径弧面接触によつて円滑かつ容易に関係的移動のできる構成を含み、さらにその関係的移動を許容する遊動間隙は、脱線防止効果の程度、多少、充分性等は別として、いずれもその存在を認めるに足りるので、車輪が車軸上で自由に廻転でき、その廻転部分と一致しない個所において車軸が車台に遊嵌され、上下及び前後の関係的移動も可能である構成とともに、両者その目的及び装置の種類は同一であり、作用効果の性質は均等であり、その構成要点は一致している。ただ構成上の細目において両者全く同一と認めることはできないとしても、その差異点は単なる設計的微差として、発明思想比較上少しも問題にならない点であるが、或は後者が前者の権利範囲に属するか否かの審理に当つては、属せずとするに足るような差異として指摘することができない差異と認められ、結局後者即ち再訂正(イ)号図面及びその説明書に示す炭車「トロ」等の脱線防止装置は、前者即ち本件特許発明の権利範囲に属するものとするを相当と認める。
とし、
(四) 更に審決は追書として詳細な説明を附加しているが、その要旨は、次のとおりである。
(1) 本件特許発明の企図するものと再訂正(イ)号図面図示のものとが共に脱線防止の効果を有することは当事者間に争がなく、只左右の遊動間隙がどの程度これに貢献するかに争があるものとして問題を取り上げ、(イ)極めて複雑な衝撃に対する脱線防止理論は、極めて複雑であつて、左右の遊動間隙のみの検討というが如き部分的探究は適当でなく、須らく装置を全体として検討すべきである。しかしながらこれも困難であり、又正確を欠くからとして、(ロ)異径弧面と左右の間隙及び(ハ)上下動と左右の遊動とを夫々相関的に作用効果の面より検討し、次に(ニ)異径弧面と左右間隙との形態的相関性を述べ、結論として(ホ)左右の「充分なる遊動間隙」中の「充分なる」とは、脱線防止効果を達成するに足る程度の意で、寧ろ無視してよいものであるとしている。
(2) 再訂正(イ)号図面図示装置の左右間隙がいわゆる「遊動間隙」と称し得るか、将又上下動の為めの単なる摺動間隙かについて検討すると冒頭し、右装置の如く車軸の左右側面を平面とし、これが嵌合する軸受金内面両側の平面と対向させることによる車軸の廻転乃至揺動防止の構想と、本件発明の如く、左右遊動許容による脱線防止の構想とは互に矛盾するが、斯る装置を製作するに当つては、当然この相矛盾する構想の調整という設計問題が起つて来る。この場合、その左右間隙が上下動の為めの単なる摺動間隙に過ぎないとの立証が為されれば格別、「他方に異径弧面接触によつて車軸の左右動を円滑容易にする構想の存する限り」、右設計は両構想の「有利点を幾分かは利用しようとする意図を以て設計されたものと見るを相当とし」これに該当する再訂正(イ)号図面図示の装置は本件特許の構想を包含するものである。
(3) 被告が再訂正(イ)号図面作成の基礎としたとする実物を例示し、その異径弧面間の半径差が同一物につき、その位置によつて異ることを指摘して、これがいわゆるコネリ運動により摩擦したものであることが明らかであるから、右現象によつても、車軸左右の間隙が摩耗により影響されることは当然推測される。従つて当該間隙が遊動間隙であるか否かは、その間隙量のみで決定さるべきではなく、異径弧面接触の有無の如き、他の関連事項に立脚して審究すべきであるとしている。
四、しかしながら審決は次の事由により違法であつて取り消されるべきものである。
(一) 審決は、前述のように本件特許要旨の認定にあたり、両当事者の主張たる「車台支持台と車軸とが各方向の力に対して、円滑且容易に関係的に移動し得る如く」という点を、理由を付することなく特許要旨より除外して立論し、又再訂正(イ)号図面及びその説明書に示すものの検討に於いて、単に形状程度のみを論じてその目的効果作用に想到していない。「各方向の力に対して」と関連せしめずしては、「充分なる」間隙も、はた又「円滑容易」なる関係的移動も論ぜられぬ筈であり、又目的効果作用を除外しては本質を把握し得ない。審決はこのため誤つた結論を招いたものである。
(二) 特許発明の要旨の認定に当つては、明細書中先ず「特許請求の範囲」の記載に着目すべきはもちろんであるが、それのみに止まらず、明細書を全体として客観的に解釈すべく、しかもその解釈には当該特許出願当時の技術水準を基礎とし、特にその企図する作用、効果に注目しつつこれをしなければならない。しかるに審決は右要旨解釈の法則を全然無視し、本件明細書中「特許請求の範囲」記載の機械的引写しに終つて明細書全体の検討を怠り、最も重要なる作用、効果に関する誤認と出願当時の技術水準無視とにより抽象的かつ独断的判断を為して要旨認定を誤つた違法がある。
(三) 本件特許出願当時の当業者の技術水準についてみるに、被告も本件明細書中「発明の詳細なる説明」において、「(従来)一般には脱線はむしろ軌道の敷設悪く、急激なる弯曲個所又は激しき凹凸あるがためなりとし、「ボギー」式の如く、車両の転向自在ならざるこの種車両自体の構造に付ては余り顧みられざりし処なり。」と説明し、この種車両自体の構造による脱線防止装置に、本件特許出願当時或程度の技術があつたことを示唆している。当時の技術水準検討の要あるは明白といわなければならない。それではその当時の技術水準においては、車両自体の構造につき如何なる程度まで脱線防止のための配慮が為されたかというに、本件特許出願(昭和四年十月三日)前より、次の装置を容易に実施し得る程度に記載した刊行物が、わが国特許局陳列館に頒布公開せられておつたから、右装置は本件特許出願当時公知であり、これが当時の技術水準に属していたことは明白である。
右刊行物(米国特許第一、五二八、〇〇一号明細書、大正十四年六月十二日特許局陳列館受入)の記載するところは次のとおりである。「鉱車に於て、車軸の上下動を許すことにより脱線を防止する目的を以て」「車軸を車体に対し廻転自在にも、又固定的にも取付くることなくして、その車軸の廻転承部と別の箇所に於て車体支持台の遊動孔に挿入し」「車軸側に於ける平坦座面を遊動孔上部の平坦受面に圧接せしめ」「その両側に幅狭き上下方向の並行滑動間隙を設けると共に、下部に充分なる下降間隙を設け」「支持台と車軸とが上下方向に対し、容易に関係的に移動し得る如く」「車軸上に支持台を安定せしめたる」鉱車に於ける脱線防止装置。
(四) いま本件特許発明の明細書を検討するに、
(1) その「発明の性質及び目的の要領」欄の記載と右公知例とを比較すると、次のような重要な相違が看取せられ、その他の差異は、単なる設計的微差に属し、本質的差異とは認められない。
(a) 車軸上部座面と車体支持台遊動孔内側上部受面とが、前者は異径弧面、後者は平坦面。
(b) 車軸両側及び下部は、前者は両側より下部に亘り充分なる遊動間隙、後者は両側に狭い並行滑動間隙と下部に充分なる下降間隙。
(c) 発明の目的は、前者は「車軸と車体との関係的移動により車軸の円滑なる廻転を妨ぐることなからしむると共に、各方向の力に対し、車軸と車体との関係的移動を円滑且容易となすことにより良く脱線を防止」、後者は「車軸の上下動により脱線を防止。」
審決は、その理由において本件特許発明要旨認定に当り、明細書特許請求の範囲中にも、「本文の目的に於て本書に詳記し云々」として、発明の性質及目的の要領欄記載との相関的考慮を求めており、同欄には前述のように目的たる作用効果が「詳記」してあるにかかわらずこれを無視し、これに続く再訂正(イ)号図面図示の装置との比較に於てもこれを逸し、その後の判断もこれを無視して論旨を進めている。さればこそ審決は、本件特許の装置と再訂正(イ)号図面図示の装置との目的比較に当り、両者は、「いずれも炭車トロ等の脱線防止を目的とした車両及び車体支持台の構成を要旨とする装置」となすが如き杜撰な判断をなし、この故に両者の本質を見誤つている。脱線防止とは、種々の技術的構想の最終目的であり、特許はこの最終目的を達成する手段の差異ないし改良に対し賦与せられるものであるにかかわらず、審決がかかる判断をしたのは甚だ諒解に苦しむ所であるが、右の事実は、審決が要旨認定に於て、単に明細書中「特許請求の範囲」記載の文言を機械的に転写したに止まり、明細書全体の検討を怠つたこと並びに二において述べたように、原被告双方が指摘している「各方向の力に対して」なる主張を見落している、甚だ軽卒な判断たることを裏書すると共に、要旨解釈の中核たるべき目的作用効果の正確な把握を欠いた判断たることを示すものである。
(2) また本件特許発明明細書中「発明の詳細なる説明」欄を一読してすぐ気付くことは、「左右両側部より下部に亘り充分なる遊動間隙」なる説明が、クドイまでに反覆せられていることである。所謂「充分なる」についてのかくまでの強調と、前述の本件明細書における従来の技術についての説明中「余り顧みられざりし所なり」の記載とを総合し、当時の技術水準にまで想到するのは当然の思考過程と思われるにもかかわらず、審決がことここに出でず、その理由追て書第一点未尾で「充分なる」は「屡々日本語において云々」と論拠不明の抽象的独断をなしたのも亦、吾人の諒解に苦しむとろである。前記公知例を基礎としてこれをみれば、強調また故あることを納得し得た筈である。
次に反覆せられているのは、車体支持台の遊動孔上部の大径弧状面に車軸側の小径弧状座面を圧接せしめるとの点であるが、この意義の重要なることは審決もこれを認めている。
以上二点は、何れも前述、「発明の性質及び目的の要領」欄記載及び「特許請求の範囲」欄記載と重複するが、右装置が如何なる作用効果を企図しているかを本欄により摘示するに、或は「支持台と車軸とが円滑且容易に関係的に緩衝移動し得る如く」、或は「軌道の急激なる弯曲個所若しくは著しき凹凸部分を走行する場合(中略)或は車軸を残して車体のみ浮上り、或は車体に対し車軸の位置が少しく変位して能く車輪を軌道上に残し、自在に軌道に順応せしめ得ると共に、作用後再び円滑に遊動孔の上部弧面と車軸側の弧状座面とが正しく接する状態に復する。」等の記載がある。これらの記載と前に挙げた「発明の性質及び目的の要領」欄記載の「各方向の力に対し車軸と車体との関係的移動を円滑且容易となすことにより」との記載とを総合すれば、本件特許発明が企図した作用効果は、単に車軸の上下動により車輪の浮上りのみを防止して、左右動はむしろ逆に阻止せんとする前記公知例とは異り、「各方向よりの力に対し、車体支持台遊動孔内に於ける車軸の遊動を上下左右自在にして、緩衝作用を為さしめると共に、車輪を軌道に順応せしめつつ、車軸と車体との円滑且容易な関係的移動を図り、」以て脱線防止なる最終目的を達成しようとするものであることが判然する。
(3) 以上詳細に述べた本件特許が企図する作用を体して、本件特許の「車軸の小径弧状座面を車体支持台遊動孔の大径弧状座面に圧接せしめ、其の両側より下部に亘り充分なる遊動間隙を設け」るとの装置を検討すれば、その両側の遊動間隙とは、相当の間隙をもつて下部の間隙に連続するを要することが理解せられ、その程度は脱線を来すが如き程度の各方向の力に対して、遊動孔内に於て車両が上下左右、自在に遊動し、車軸車体の円滑具容易な関係的移動作用を為すことにより、緩衝作用をなすが如き程度のものたることを要すること明らかである。従つて前述の公知例の如き両側の間隙とは程度の差ではなく、本質的に異り、その故にこそ所論に亘り充分なる」の強調の意義が理解し得るのである。
(五) 再訂正(イ)号図面図示の装置との比較についてみるに、
(1) 原告会社の製作の炭車は、一般炭車と同様、支持台及び軸受は何れも可鍛鋳鉄を素材とする鋳放しであり、車軸は構造用丸鋼材をその儘使用し、只、車軸の遊動孔内に於ける両側面を切削する。
すべて工作物に技術上寸法の誤差の生ずることは不可避であつて、斯る可鍛鋳鉄、構造用丸鋼素材等の場合、日本工業規格(JIS)は許容公差及びこれに対応する許容誤差を定めている。しかしこのうち可鍛鋳鉄のJIS公差は、今日の技術を以てしても、経済的に適用不可能な程度であることが各種の資料により実証せられ近く改訂せられる筈である。
今ここに再訂正(イ)号図面につき、右誤差を考慮に入れ、「具遊動孔弧状面が小径、車軸側弧状座面が大径となり、遊動孔弧状面端部が車軸に圧接し、又は車軸の両側の滑動関係が消失して、車軸の上下動を阻害される結果を妨止しようと」して設計すれば、再訂正(イ)号図面図示第三図は固より、第二図の異径度並びに間隙数値は寧ろ少ないことを知り得る。これは再訂正(イ)号図面図示のものが、本件特許発明の如く、異径弧面接触と左右両側より下部に亘る充分なる間隙により遊動孔内における左右動を含む自在なる遊動を企図するのに対し、寧ろ逆に、同径弧面接触と左右両側の間隙の可成的減少により、左右動等を阻止し、上下動のみに止めんとしたものというべく、弧面間及び左右の間隙は、両者その目的作用とに於て相違し、本質的に異るものである。
なお再訂正(イ)号図面図示のものが弧面接触となつた所以は、前記公知例が車軸に角棒を使用したのに対し、これは丸棒を使用した結果生じた設計上の微差に属し、公知例との間に本質的差異はない。
(2) 再訂正(イ)号図面図示の装置の作用について、原告は抗告審判において、再訂正(イ)号図面図示のものの左右の間隙の程度では車軸側面と対向する遊動孔面とが直ぐ衝突し、車軸と車体支持台とが、円滑具容易に関係的移動を為さないと主張したのに対し、審決は、適確な間隙の限度を設定することが困難であるとの理由を以て、いやしくも異径弧面の接触あり、且左右両側に間隙ある以上、本件特許発明要件を充足すると判示している。
この判断は、量の変化が質の転換となる理を忘れたものである。けだしこの論理に従えば、左右の滑動間隙を零にしない限り「充分なる遊動間隙」と認めざるを得ない結果となり、間隙零では滑動すらせぬこととなるから、その不合理はあえて多言を要しないであろう。従つて審決は、再訂正(イ)号図面図示のものが有する左右の間隙が果して本件特許発明に所謂「充分なる遊動間隙」なりや、原告主張の如く、単に上下動許容のみを目的とする滑動間隙なりやの価値判断を為すべきである。しかもその判断に当つては、車軸は車台の両側に取付けられた車体支持台に挿入せられるものであるから、両者の製作許容誤差との見合に於て、左右間隙の度合を考慮しなければならないと共に、円滑且容易に関係的移動を為すや否やを脱線防止なる最終目的と相関的に判断しなければならなかつたものである。
前述のように、本件特許発明と再訂正(イ)号図面図示のものとは弧面接触及び左右間隙の本質が異るのであるから、これ以上縷言を要しないと信ずるが、仮りに然らずとするも、実物大の再訂正(イ)号図面図示のものが、車軸側面の縦長に対し、車軸の両側の遊動間隙程度を以てしては、車輪の脱線を招来する程の衝撃に対し、車軸の左右変位により緩衝作用を為し、車軸と車体とを円滑且容易に関係的に移動せしめ、以て脱線防止の目的を達成し得るとは到底考えられないこと常識上明白であることを強調する。
(六) 再訂正(イ)号図面中の弧面接触及び車軸左右両間隙の作用効果について更に詳説するに、
(1) 右図面は実物大に画かれているとの被告の主張に基きこれを実測するに、第二図に於ては弧状面(G)の半径は約四二耗、弧状座面(F)の半径は約三六、五耗で、その半径差は五、五耗であるが、第三図に於ては、弧状面(G)と弧状座面(F)とは同一半径でその間に半径差はない。唯その説明書によれば、「その弧状面(G)は、支持台(D)の孔の中央部においてはその弧の半径が少しく小さく、従つて弧状座面(F)との半径の差異が微小である。」としてあるので、右説明と第三図の実物大であるとの被告の主張を綜合すれば、支台遊動孔の中央部に於ては、支持台の弧状面と車軸の弧状座面との半径差は、実測し難い程度又は少くとも実物大の図面にも表現し難い程に、換言すれば第三図に示す如く同一曲線を以つて、同一弧面接触に画く外なき程度に微少であるということである。而もその製作品は車軸の弧状座面(F)も支持台遊動孔面(G)も仕上げをせず荒皮の儘であるから、斯る凹凸の甚だしい荒皮の弧面間の接触に於ては、異径弧面の接触は一点乃至一線の接触を為さず、多数の点乃至面の接触を来す。加え本装置は元来著大な荷重を受けるものであるから、支持台遊動孔上部弧面は歪み、円弧の弯曲度は車軸上部の弯曲度に近ずき、上記の点乃至面の接触はより増大する。従つて再訂正(イ)号図面第三図の如き微小な幾何学的半径差は、実質的には全然意味を為さず、結局両者の接触は実質的に同一弧面接触に帰するもので、斯くの如く支持台中央部に於て、同一弧面接触を為す車軸受を両側に有する車軸の車体との関係的移動は、仮令支持台両端部に於て画径弧面接触があつても、両者が全面的に同一弧面接触を為す場合に於けると均等ならざるを得ず、従つて再訂正(イ)号図面図示の装置は、その作用効果に於て、同一弧面接触を為す場合と全く均等であるといわざるを得ない。車体支持台遊動孔弧状面と車軸上部弧状座面とが同径弧面を以て圧接せられている場合、仮令車軸の両側に充分な遊動間隙があつても、所謂ローリングコンタクト(転勤)は不能で、左右動が円滑、容易にできないことは、原審決及び別件昭和三十二年(行ナ)第六号事件の原審々決が説示する如く明白であるから、再訂正(イ)号図面図示の装置と本件特許の装置とは、作用効果に於て本質的に相違することは明白であろう。
仮りに百歩を譲り、如何に微小なりと雖も異径に相違なく、これにより円滑且容易な左右動が為されると考うべきであるとあるなら借問する。果して如何なる程度に円滑且容易に左右動するやと。今再訂正(イ)号図面第三図に於て、如何なる程度に円滑容易な左右動をするかについて検討する。
車体支持台遊動孔上部の円弧中心点をp1、その右端をq1、その左端をr1、車軸上部の円弧中心点をp2、点p2右方へp1q1と同一沿弧距離にある車軸上部円弧上の点をq2、点からp2から左方へ内弧p1r1と同一沿弧距離にある車軸上部の円弧上の点をr2、車軸の中心点をA、車軸が右方へ転動した場合に車軸中心点が移動する点をAq左方へ転動した場合の中心点移動点をArとすると点p2は点p1に合致し、点q2及び点r2は何れも点q1及び点r1と僅かに離れているが、実物大の図面でも表わし難い程その距離は微小である。今車軸が車体支持台に対し左方から右方へ、水平方向に関係的に動く場合を考えると、車軸は支持台遊動孔に対して右方へ転動し、接点はp1から円弧p1q1上を右方へ移動して、終にq2がq1に接するに至り、ここで車軸の転動は終り、車軸の中心点AはAqに移る。
この時q2はq1と合致し、p2はp1に対して、僅かに離れていることとなる。併しながらこの際p2p1間の距離は、初の静止時に於けるq2q1間の距離に等しいので、実物大の図面ではp2p1両点は合致させて表示せざるを得ず、又円弧p1q1と円弧p2q2とが合致して表示されるから、車軸中心点AとAqとは合致させて表示せざるを得ない。(車軸が車体支持台に対して右方から左方に向い動く場合の、転動に基く車軸の遊動孔に対する左方への関係的移動についても全く同様のことが云える。)
転動に基く車軸の遊動孔に対する水平左右方向への関係的の最大距離は、A・Aq又はAr間の距離よりも小なるそれ等の水平線上に於ける正射影の長さなのであるが、実物大の再訂正(イ)号図面第三図の場合、静止時より転動の最終時迄の図面に於て、AqArは何れもに合致させて表示せざるを得ないのであるからその正射影の長さも亦点を以て表示せざるを得ず、水平左右方向への関係的移動の最大距離は、実物大の図面に於ては、零を以て表現せざるを得ない程微小といわざるを得ない。
審決と雖も斯る有るか無きかの顕微鏡的な、いわゆる円滑容易な関係的左右移動が、その存在の故に、脱線防止の効果を達成するとはよもや考えまい。
審決は独自の抽象的論議に終始し審判の目的から遊離してしまつたものである。
(七) 最後に被告主張(八)の前後動の問題について述べるに、前後動は米国特許も、或る程度これを許容している。然らざれば上下動のできないことは幾何学的にも、物理的にも明白である。
しかのみならず前後動許容は本件特許発明の要件ではない。けだし本件特許発明明細書の「特許請求の範囲」の項には、上下、左右動のための間隙を設ける構造の説明をしているが、前後動を予定する間隙を設ける構造の説明は全く見当らない。従つて同項における「支持台と車軸とが円滑且容易に関係的に移動し得る如く」の「移動」は上下左右への移動を示し、前後動が予定されて居らぬことは、文理上当然の解釈といわなければならない。また同書中「発明の目的」「発明の詳細なる説明」の項に記載され「各方向の力に対し」「水平並に……上下に関係的に移動」とあるのも、全く同様である。一言にしていえば、「構造」上考えられていないものの「作用」は、予定されていないと見るのが相当である。しかのみならず、前後に遊動をすることが脱線防止に役立つということは、左右乃至上下動に必要な範囲内でということであれば格別として、原告には信じられない。
明細書の記載から明らかなように、本件発明が克服しようとした脱線原因として明細書に明示されたものは、軌道の急激なる弯曲と、著しい凸凹である。これを克服するための車軸が左右上下に移動すること、すなわち車軸が浮き沈みし或いは左右に転向することが役立つであろうことは容易に推定できるが、前述のような条件付ならば格別、前後に移動することが役立つとは考えられない。
第三被告の答弁
被告訴訟代理人は、「原告の請求を棄却する。訴訟費用は、原告の負担とする。」との判決を求め、原告主張の請求原因に対して、次のように述べた。
一、原告主張の請求原因一、二、三の事実は、これを認める。
二、同四の主張は、これを否認する。
(一) 本件特許第一二四、五一四号の「特許請求の範囲」は、「本文の目的に於て本書に詳記し且図面に例示する如く、車軸を車体に対し廻転自在にも又固定的にも取付くることなくして、其の車輪の廻転承部と別の個所に於て車体支持台の遊動孔に挿入し、車軸側に於ける小径の弧状座面を遊動孔上部の大径弧状面に圧接せしめ、其の両側より下部に亘り充分なる遊動間隙を設け、支持台と車軸とが円滑且容易に関係的に移動し得る如く車軸上に支持台を安定せしめたる炭車、『トロ』等に於ける脱線防止装置」にあることは、原告も特許庁における手続以来認めて来たところであり、審決は、この争のない事実を基として、右特許発明の要旨を原告主張の請求原因三の如く判断説示している。
右説示によれば、原告が指摘する「車台支持台と車軸とが各方向の力に対して円滑且容易に関係的に移動し得る如く」という字句については、元々特許請求の範囲の記載には存しないから、殊更にこれを用いてはいないが、実質上その主旨を汲んでいることは、前記三の審決中(一)の(5)において、「支持台と車軸とが円滑且容易に関係的に移動し得る如く」と指示している点においても明白である。
すなわち「支持台と車軸とが関係的に移動する」という現象は、いうまでもなく、これに働く外力なる物理的作用以外の何ものでもなく、また「円滑且容易に移動する」ということは、特に抵抗を示すことなく、各方向の外力に即応して変位することであることは自明の理であるから、外力と運動とが原因と結果であることの関連からすれば、審決が本件特許発明の要旨を解明するに当つて、態々特許請求の範囲に記載のない「各方向の力に対して」なる字句を用いないからといつて、その一事を以て外力の観念を除外して立論したと断ずることはできない。換言すれば、審決において外力の作用を意識し、それに基く脱線防止作用の説明が明瞭に説示されてある以上、殊更に外力の点に言及せずとも、その理論構成に些かの批判の余地なく、従つてその説示に何等の不合理も存しない。従つてこの点に基く原告の主張は理由がない。
また原告は再訂正(イ)号図面及び説明書に示すものの検討において、審決は単に形状程度のみを論じて、その目的効果作用に想到していないと審決を攻撃するが、審決はその理由の大半を占める追書第一点ないし第三点において、争点たる車軸の左右両側の遊動間隙の充分性従つて大小の問題、遊動間隙の大小、形状の問題はもとより進んで異径弧面接触の異径の度合が車軸線の方向における遊動間隙の位置によつて異なる問題等を採り上げ、あらゆる見地から遂一これを検討して詳細に説示してあるから、この点に関する原告の非難は失当である。
(二) 原告主張の請求原因四の(二)における原告の主張は、審決に対する原告の粗雑な判断によるもので、その非難は当らない。
審決は、本件特許の要旨並びに権利範囲の決定について、唯単に「特許請求の範囲」の記載のみを機械的に採り上げたものではなく、本件特許発明の明細書の全文及び添付図面を十分に検討している。しかのみならず、本件に於ては特許発明の要旨が、その特許発明明細書の「特許請求の範囲」の記載に存することは、原告の当初から争わないところで、審決がこの争いのない事実を基として判断をしたものである以上、原告が今更この点を争うのは不審である。原告は本件特許発明の要旨を上述のように素直に認めているにもかかわらず、その記載中の「充分なる遊動間隙」「関係的移動」「緩衝作用」等の用語につき、独自の解釈をしていればこそ、審決の主旨を正しく判断することができないのである。
(三) 本件特許出願当時の当業者の技術水準について、本件特許の発明明細書中には、原告が指摘するような、本件特許出願当時或程度の技術が存していたことを示唆しているような事実はない。本件特許明細書に記載されたところは、これと反対に、一般に炭車「トロ」等の簡易軌道運搬車においては、固定車軸式及回転車軸式の何れも軌道の急激な弯曲個所或は著しく凹凸ある個所で脱線し易く、そのうち最も脱線し易い車両は、固定車軸式就中「ボール」または「ローラー・ベアリング」入りのものであることを当時の事情に即して説明をなしたもので、その記述は寧ろこの種車両構造についての脱線防止策が技術的に少しも省みられなかつた事実を指摘し、本件特許発明の特徴とするところを明白ならしめたものである。従つてその発明明細書の記載からその出願当時の技術水準を詮索検討しなければならないとする何等の根拠がないばかでなく、審決はこの点に関し追書第四点において詳細に説示している。
すなわち特許権設定当時における公知事実も、また客観的に新規な発明を構成するか否かの判断材料として勘案すべかりしに止まり、いずれもまだ特許権の権利範囲を判定する材料としてはその価値に乏しく、その上既述のように特許発明明細書全文及び添付図面によつて直接的な技術的解明に基き、その要旨を認定し、その権利範囲を認定し得るものであるにおいては、傍証的にして間接的な判断資料をこれに加える価値を認めることはできない。
原告は本件特許の出願当時公知であり、これが当時の技術水準に属するものとして米国特許第一、五二八、〇〇一号明細書及び図面を指摘しているが、原告自身は昭和八、九年に至るまで所謂脱線防止装置を製作したことなく、車軸を車体に締め付けた一般形のものを、昭和の始めより昭和八、九年頃まで製作し、筑豊方面の炭礦に四千二百三十台を納入している。若し当時一般の技術水準が此等の点に達していたとするならば、車軸を車体に締付けた脱線事故の多い炭車が原告等によつて多数製作される筈はない。
(四) 原告は明細書の検討として、(四)において項を(1)(2)(3)に分つて審決を攻撃しているが、右の攻撃は当らない。
(1) 原告の引用する米国特許第一、五二八、〇〇一号明細書及び図面所載のものは、車軸の上下動はこれを許容するも、車軸及支持台遊動孔は角形のものであるから、弧状面による接触はなく、殊に車軸には止板を設けて、その前後動を制止して不能ならしめた構成のものであるから、車軸と支持台とを、前後、上下、左右に関係的に移動し得るようにした本件特許発明のものとは全然相違し、何等の関係もない。
元来この特許権の範囲確認の審判は、「(イ)号図面及びその説明書に示す炭車の脱線防止装置は、本件特許第一二四、五一四号特許の権利範囲に属す。」との一定の申立の下に請求されたものであり、(イ)号図面の説明書においても、「図は被請求人の製作、販売に係る炭車の脱線防止装置を示すものでとの前提の下に説明したもので、このことに関しては原告も争つた事実はないから、この争のない事実と工学上の判断からしてこのものを脱線防止を目的とした輪軸及び車体支持台関係の構成であると認めた審決はもとより当然で何等杜撰な点はない。
(2) 明細書中「発明の詳細なる説明」の項に記載された所謂「充分なる」という字句については、審決は、その本論においての説示(請求原因三の(三))において説述し、更に追書第一点においてこの点に関する当事者双方の主張を遂一検討し、長文を以て詳細に解明したものであるから(同三の(四))、審決の理由は頗る明白で、これを論拠不明乃至は抽象的独断となすのは失当である。
(3) 原告の結論中「以上詳細に述べた本件特許が企図する作用を体して」とは、被告においてこれを本件特許発明明細書の記載及添付図面によつてとの主旨に解し、また「相当の間隙」とは唯漠然と寸法的に広狭の量を意味するものではないとの主旨と解し、さらに「車軸が上下左右自在に遊動し」は、「車軸が、前後、上下、左右自在に遊動し」として前後動をも包含するとの趣旨においてこれを認める。
更に明細書中における字句について一言するに、なるほど本件明細書中には、「充分なる」「適当なる」「必要なる」という字句があるが、同書中他の個所には、「充分なる遊動間隙」という代りに、「適度の遊動間隙」という字句が使用されていることも留意すべきである。同一の遊動間隙について「充分なる」とも、また「適度の」ともいつている点から、その意義は自ら明白である。そして本件特許発明の実施に当つては、軌道の良否、弯曲の程度、速度、荷重等種々復雑な要因を考慮すべきであるから、これを一律の必要量として明示することは、不可能を強いるものである。
(五) 原告が、再訂正(イ)号図面図示の装置との比較について主張するところも、全部否認する。
(1) 許容誤差または許容公差なるものは、元来工作上の便宜から定められているものであつて、素材、一般仕上、精密仕上等各各の組合せ及作用によつて単なる工作上の許容寸法であつて、組立て後における間隙や接触度ではない。
即ち与えられた寸法を無くすることではなく、寸法はあくまでも寸法として尊重されなければならないものであるから、両側の間隙が初めから図面に表示されているものは、その間隙の寸法が公差のために無くなつてもよいということではないのであるから、公差に備えて車軸と支持台遊動孔との両側に間隙を存したものであるとの立論は失当である。
原告の議論は、支持台は可鍛鋳鉄の鋳放しであること及車軸は丸鋼素材をそのまま使用することを前提条件として考えているが、先ず根本の問題として一般技術上から車軸の上下動を目的として製作するに当つては、
(A) 車軸に精確な上下動を要求するため、その左右動は厳密に制止する必要がある。
(B) 車軸の上下動を許容するに当つて、左右動は厳密にこれを制止する程のことはない。
(C) 車軸の上下動を許容するに当つて、同時にその左右動も許容するようにする。
の三つ場合が考えられる。
いま仮りに原告主張のように左右動等を阻止し、上下動のみに止めんとするならば、(Aの場合)支持台は鋳鉄による鋳放しのままとせず、また車軸は素材荒仕上とせず、両者は共に精密な機械仕上げを行うこと恰かも精密機械に対するような工作法を用いれば、左右動を阻止して、円滑な上下の滑動機構が得られるわけであるが、実際上再訂正(イ)号図面図示のものは、このような仕上加工とは程遠く、支持台は鋳放しのままであり、車軸は丸鋼荒皮のままで、唯両側面を平行に切削したもので、何等仕上げらしい加工は行つていない。この事実は取りも直さず、車軸の上下動を許容するについて、その左右動は特にこれを制止する程のことはないと考えたか(Bの場合)、或は更に積極的に車軸の上下動を許容するについては、同時に左右動をも許容した方が脱線防止作用上一層工合がよいという考え(Cの場合)であつて、決して(A)のような厳密な上下運動のみを期待する主旨ではない。殊にこの再訂正(イ)号図面図示のものにおける叙上の遊動間隙は、支持台遊動孔上部の大径弧状面を車軸の小径弧状座面に圧接し、その両側から下部に亘り設けられているものであるから、車軸は当然前後動をも伴うものである。これらの事実を以て判断するならば、再訂正(イ)号図面図示の装置は、原告主張の如く車軸の左右動を阻止し上下動のみに止めんとしたものであるとは到底解し得られないのみならず、審決追書第一におけるこの点に関する説示は、よくその間の関係を詳細に検討審究したもつともな判断で、原告の主張の当らない所以を指摘するものである。
(2) 再訂正(イ)号図面図示の装置の作用について原告の主張するところは、唯遊動間隙の広狭のみに捉らわれ、異径弧面の接触との関係を無視した結果かかる立論をなすもので、この点審決が追書第一において説示するところによつて明白に解決されている。事実原告が主張する如く再訂正(イ)号図面図示の装置が、単に車軸の上下動を許容するだけの主旨であるならば、換言すれば車軸の左右動はこれを勉めて制止せんとするものならば、殊更に左右動及び前後動を生起し易い、所謂異径弧面の接触手段と、その異径弧面の接触部の両側から下部に亘り遊動間隙を設けることを企図すべきではない理が明らかなるにもかかわらず、前後動及び左右動をも起し易い異径弧面の接触と左右両側における遊動間隙とを設けたものであるから、仮にその設計製作上の目的が他にあるとしても、その構成上からは、本件特許発明の要旨とするところを具え、その意図する車軸の前後上下及左右動を許容し、車軸と車体との関係的移動により車輪の円滑なる回転を妨ぐることなからしむるとともに、各方面の力に対し車軸と車体との関係的移動を円滑且容易となすことにより脱線を防止する目的を達するものであることは疑いのないところであるから、結局再訂正(イ)号図面及その説明書に示す装置が、本件特許の権利範囲に属することは当然で、これについてなされた審決は誠に正当であり、何等違法の点はない。
(六) 原告は再訂正(イ)号図面中の弧面接触及び車軸左右両者間隙の作用効果について詳説しておるが、審決は、この点について、「再訂正(イ)号図面の第三図は、その説明書の記載中の前記(ホ)の前段における説明と比較するに、弧状座面(F)と弧状面(G)が一致して画かれている点において『微小の半径の差異あり』とする説明に一致しない嫌いはあるが、この点については両的事者間に於て争がなく、何等意見を述べるところもないのみならず、両弧面(F)(G)が一致したものではないものと観じて争つているので、前記不一致の点については、その説明(ホ)の通りであると認め、審理を進めて差支えあるものとは認めるに不都合ありと認めるに足る理由も見当らないので、その訂正を命ずる必要を認めない。」とし、更に「前者は異径の度合を問わない広い範囲のものであるのに対し、後者はその中に包含される特殊の場合と認められるので、権利範囲の確認の審理においては、特にこの点を問題にする必要を認めない。」としている。ことに再訂正(イ)号図面第三図の異径弧面の半径差が僅少のため、殆んど一線上に画かれていることにつき、原告は恰かも同径弧であるかの如く論じているけれども、斯くの如き場合には作図法の如何により往々一線であるかの如き結果をもたらすことが度々あり、原告たりとも同一実例を本件においてもなしている(甲第四号証参照)ことを指摘しなければならない。
以上の如く審決には些かの不備もない。
(七) なお本件特許発明の特質について附言するに、その特質は、車軸が上下、左右及び前後方向に移動できることであつて、本件特許発明明細書中における例えば、「各方向の力に対し車軸と車体との関係的移動を円滑且容易となす」、「支持台と車軸とが円滑且容易に関係的に移動し得る如く」、「支持台(4)と車軸(2)とが円滑且容易に関係的に緩衝移動し得る如く」、「車軸と車体とが軌道に従つて水平並に上下に関係的に移動して脱線の懸念なからしめ」等の記載は、いずれも前後動についても言及していることは明白である。しかのみならず被告は抗告審判及び当審においてもしばしば「上下動及び前後動が主動であつて、左右動は従属的又は補助的である。」と主張して来たのであるが、原告はこの点を争わず容認して事件は進行して来たのである。
第四証拠<省略>
理由
一、原告主張の請求原因一、二、三の事実は、当事者間に争がない。
二、右当事者間に争のない事実及びその成立に争のない甲第一号証(特許第一二四、五一四号明細書)の記載を総合すれば、被告の有する本件特許第一二四、五一四号「炭車『トロ』等に於ける脱線防止装置」は、昭和四年十月三日被告によつて特許出願され、昭和十二年十月一日出願公告、昭和十三年四月七日特許となつたものであるが、右明細書中「特許請求の範囲」の項には、「本文の目的に於て本書に詳記し且図面に例示する如く、車軸を車体に対し廻転自在にも又固定的にも取付くることなくして、其の車輪の廻転承部と別の個所に於て車体支持台の遊動孔に挿入し、車軸側に於ける小径の弧状座面を遊動孔上部の大径弧状面に圧接せしめ、其の両側より下部に亘り充分なる遊動間隙を設け、支持台と車軸とが円滑且容易に関係的に移動し得る如く車軸上に支持台を安定せしめたる炭車、『トロ』等に於ける脱線防止装置」と記載し、且つその「発明の詳細なる説明」の項には、第一段に、「本発明を適用すべき炭車、『トロ』等は、車輪(1)を車軸(2)に対し廻転自在に装置したる型式の軌道運搬車にして、車輪(1)の廻転を軽快ならしむるため、車輪轂筒内に『ボール・ベアリング』又は『ローラー・ベアリング』を装挿し該減摩軸承装置を介して車輪(1)を確実に承受せしめたる型式のものなり。」と本件発明を適用すべき車の型式を限定し、これに続いて第二段に「本発明は、上記型式に依る車軸(2)を車体に対し廻転自在にも又固定的にも取付くることなくして、車体支持台(4)に之と車軸との間に適度の遊動間隙を存せしめて形成したる遊動孔(5)に緩挿し、遊動孔(5)の上部の大径弧状面を車軸側に於ける小径の弧状座面に対し圧接せしむることにより、事軸の左右両側より下部に亘り車軸(2)と支持台(4)との関係的移動間隙を充分に存置し、車輪(1)の廻転承部たる『ボール・ベアリング』若は『ローラー・ベアリング』部分と別個の個所にて車軸(2)を支へ、車輪(1)の廻転と関係なしに、支持台(4)と車軸(2)とが円滑且容易に関係的に緩衝移動し得る如く車軸(2)上に支持台(4)を安定せしめたるものなり。」とし、第四段に「本発明は、車軸(2)を固定的に取付くることなく、左右両側より下部に亘り充分なる遊動間隙を存せしめて支持台(4)の遊動孔(5)に緩挿し、車軸側に於け小径の弧状座面上に支持台(4)に於ける遊動孔(5)の上部なる大径弧状面を圧接せしめ、支持台(4)と車軸(2)とが円滑且容易に関係的に移動し得る如くなしたるを以て、炭車又は『トロ』の如き簡易運搬車が軌道の急激なる彎曲個所若くは著しき凹凸部分を走行する場合、反動にて車体が浮き上り傾向となるも、或は車体と車軸(2)とが関係的に移動するも、支持台(4)と車軸(2)とは其の遊動孔と座部とに於ける異径弧面の圧接に依り円滑且容易に移動し得る如く接し、而かも遊動孔(5)の左右両側より下部に亘り充分なる遊動間隙を有する為め、或は車軸(2)を残して車体のみ浮き上り、或は車体に対し車軸(2)の位置が少しく変位して、能く車輪(1)を軌道上に残し、自在に軌道に順応せしめ得ると共に、作用後再び円滑に遊動孔の上部弧面と車軸側の弧状座面とが正しく接する状態に復する結果、的確に脱線事故を防止し得るものなり。」とし、第五段においてこの種車輛における従来の構造について記載した上、最後に第六段に、「本発明は、此点に鑑み簡便に此等車輪のみ廻転する型式の車輛に於ける脱線の缺点を防止すべくなしたものにして、既述の如く車輪廻転承部と車体支持部とを全然無関係に別の個所に設置し、車軸と支持台との間に左右両側より下部に亘り充分なる遊動間隙を設くると共に、その圧接部を大径弧面と小径弧面との接触より成るものとなし円滑に作用せしむることに依り、車輪の廻転と無関係に車体と車軸とが軌道に従つて水平並に上下に関係的に移動して脱線の懸念なからしめたるが故に、車軸上に車輪を廻転自在に装置したる型式の運搬車の脱線を防止し得る効果多大なるものとす。」と記載されており、また図面として、別紙目録第一記載のような図面が記載されていることが認められる。
以上認定事実並びに特許明細書(甲第一号証)の全文及び図面によれば、本件特許発明の要旨は、「車軸を車体に対して廻転自在にも又固定的にも取り付けず、その車輪の廻転承部と別の個所で車体支持台の遊動孔に挿入し、且つ車軸側の小径の弧状面を遊動孔上部の大径弧状面に圧接させることによつて、その両側から下部にわたつて十分な遊動間隙を設け、支持台と車軸とが円滑且容易に関係的に移動できるように、車軸上に車体支持台を安定させた炭車、トロ等の脱線防止装置」にあつて、その目的は、「車軸と車体との関係的移動によつて、車輪の円滑な廻転を妨げないで、同時に車軸の両側及び上下の各方向の力に対し、車軸と車体との関係的移動を円滑且つ容易にすることによつて車の脱線を防止しようとするものである。」ものと解釈せられる。
すなわち本件特許発明が、車軸と車体支持台の遊動孔との圧接部において、車軸と遊動孔との両弧状面の間に、半径の大小の差異を設けたことゝ、車軸の両側及下部に亘つて十分な遊動間隙を設けたこととは、それぞれ別個の独立の構成要素が結合したものと解すべきではなく、先に認定した本件特許明細書が、その「発明の詳細なる説明」の項の第二段において、「本発明は上記型式に依る車軸(2)を(中略)遊動孔に緩挿し、遊動孔(5)の上部の大径弧状面を、車軸側に於ける小径の弧状座面に圧接せしむることにより車軸の左右両側より下部に亘り、車軸(2)と支持台との関係的移動間隙を充分に存置し(下略)」として、両者間に因果の関係の存することを明白に記載しており、その実施例を示した図面第二図の記載も、もとより本件特許発明の装置が、これに示すように、大円と小円とによつて形成されているという特定のものに限らるべきものでないことはいうまでもないがまたその関係を明白に示しているのに鑑みれば、両者は前記認定のように因果の関係を有するものと解するを相当とする。
なお被告代理人は、本件特許発明の特質は、車軸が上下、左右及び前後の各方面に移動できることにあると主張するが、車軸が前後方向に移動できることは、被告代理人の指摘によつても本件特許明細書に記載されているものとは到底解されないから、あえてこれを本件特許発明の要旨として取り上げ、特許請求の範囲に不必要な限定を加える解釈は採用しない。
三、次に本件特許権利範囲確認審判において対象とされている再訂正(イ)号図面及びその説明書の記載は、別紙目録第二記載のとおりであつて、これに示された炭車の脱線防止装置の構造は、「車軸は車体に対し廻転自在にも、又固定的にも取り付けられず、車軸はその両端に各車輪をその轂筒内に設けたボール・ベアリングで軽転するように取り付けられ、また車軸は、上下を円弧状左右両側を並行する直線状に形成し、これを各車輪の内側で、車体支持台の遊動孔に挿入して、車軸上面に形成した弧状面を遊動孔上部の弧状面に圧接させ、遊動孔の弧状面と車軸の弧状面とは、支持台の中央部では殆んど同一で両弧状面の半径の差異は微小であるが、支持台の両端部では遊動孔の弧状面の半径が中央部より大きく、従つて両弧状面の間の半径の差異は大きくなつている。また前記車体支持台は、車体に取り付ける平板及び前記遊動孔上部の弧状面を有する上部と、ほゞUの形をなし遊動孔の両側平面部及び底部を形成する下部とを別個に作り組合せボルトを以つて締めたもので、車軸と遊動孔の両側即ち平面部においては僅少の遊動間隙を、その底部においてはかなり大きな遊動間隙を設けたものである」ことが認められる。
四、以上認定にかゝる本件特許発明の要旨と本件特許権利範囲確認審判事件の対象である再訂正(イ)号図面及び説明書記載のものとを比較すると、両者はともに炭車「トロ」等の脱線防止装置であり、その車軸を車体に対して廻転自在にも又固定的にも取り付けず、車輪の廻転承部と異つた別の個所で車体支持台の遊動孔内に挿入し、且つ車軸側の弧状面を遊動孔上部の弧状面に圧接させ、又車軸の両側から下部に亘つて遊動間隙を設け、支持台と車軸とが上下に円滑且つ容易に関係的に移動できるように、車軸上に車体支持台を安定させたものである点及びともに脱線防止を目的とする点では全く一致するものであるが、左の点において両者は相違する。すなわち、
(一)、前者は、車軸と車体支持台との圧接部において、車軸の小径弧状面と遊動孔の大径弧状面とを圧接させ、その半径の差異に従つて、車軸の両側から下部に亘つて十分な遊動間隙を設けたものであるのに対し、後者は、その車軸と支持台との圧接部において支持台の両端部では大径及び小径の弧状面を圧接させたものであるが、その中央部では両弧状面の半径は殆んど同一で差異が微少であり、且つその半径の差異は、両側部の遊動間隙に全く無関係のものである。また
(二)、前者は、車体支持台と車軸との間には、車軸の両側から下部にわたつて十分な遊動間隙を設け、支持台と車軸とが円滑且つ容易に関係的に移動できるようなものであるのに対し、後者は、車体支持台と車軸との間の間隙は、底部においてはかなり大きな間隙を有するが、車軸両側部の間隙は、車軸の遊動孔内での上下移動を容易ならしめるには足りるものであるが、これを両側方向の移動に対しては十分な遊動間隙ということはできない。
被告は本件特許明細書中数次に亘つて記載された「充分なる遊動間隙」なる文字の意義は、遊動間隙の大小を規定するものではなく、脱線防止の効果を達成するに足りるという趣旨に過ぎず、しかも再訂正(イ)号図面及びその説明書記載のものも、本件特許発明と同じく脱線防止の目的を達成し得るものであるから、両者の間に相違はないと主張する。
しかしながらその成立に争のない甲第二、三号証の各一、二によれば、脱線防止の目的のために車軸を車体に固定せずに、これを廻転自在に車輪に取り付け、車軸は別の個所で、車体の一部をなす部分の遊動孔内に遊動することができるようにしたものは、被告の本件特許出願前公知であつたことが認められることに鑑みれば、本件特許発明は、この種脱線防止装置のうち、特に本件特許発明のような特殊な構成により脱線防止の目的を達成し得る点に発明が存在したと解するを相当とし、これと前記特許明細書中の記載殊に「発明の詳細なる説明」の項第二段における「(前略)車軸の左右両側より下部に亘り車軸(2)と支持台(4)との関係的移動間隙を充分に存置し、(中略)車輪(1)の廻転と関係なしに支持台(4)と車軸(2)とが円滑且容易に関係的に緩衝移動し得る如く車軸(2)上に支持台(4)を安定せしめたるものなり。」との記載及び第六段における「(前略)車軸と支持台との間に左右両側より下部に亘り充分なる遊動間隙を設くると共に、その圧接部を大径弧面と小径弧面との接触より成るものとなし、円滑に作用せしむることに依り、車輪の廻転と無関係に車体と車軸とが執道に従つて水平並に上下に関係的に移動して脱線の懸念なからしめたるが故に(下略)」の記載と、明細書に記載された図面の記載に徴すれば、本件特許発明において、車軸と支持台との間に存すべき「充分なる間隙」は、単に遊動孔内における車軸の上下移動を容易ならしめる程度を以ては足らず、これにより車軸の両側及び上下の各方向の力に対し、車体と車軸との関係的移動を円滑且つ容易にする程度の「相当の大きさ」と解するを相当とする。
してみれば、本件特許権利範囲確認審判の目的たる再訂正(イ)号図面及び説明書記載のものは、本件特許発明の要旨の一部を共通とするに過ぎず、発明要旨の重要部分である上記の点において、その構成の大部分を異にするもので、全体として同一又は均等の発明にかゝるものとは解されない。
五、以上の理由により、再訂正(イ)号図面及びその説明書に示されたものが本件特許権の権利の範囲に属するものとした審決は、他の争点についての判断を俟つまでもなく違法であつて取消を免れないものであるから、原告の本訴請求を認容し、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八十九条を適用して主文のとおり判決した。
(裁判官 内田護文 原増司 入山実)
第一目録
第一図<省略>
第二図<省略>
第二目録
再訂正(イ)号図面の説明書
図は被請求人の製作、販売に係る炭車の脱線防止装置を示すもので、第一図は車軸、車輪及支持台等の関係を示す截断正面図。第二図は截断側面図。第三図は支持台の中央部分における截断側面図である。
(A)は車軸で、その両端には各車輪(B)を廻転自在に装置する。車輪(B)の轂筒(C)内にはボールベアリングを設け、車軸(A)に対する車輪(B)の廻転を軽く保つ。
車軸(A)は車体に対し廻転自在にも、また固定的にも取付けることなく、両車輪(B)の各内側に当る部分を車体支持台(D)の遊動孔(E)に挿入し、車軸(A)に形成した弧状座面(F)を遊動孔(E)の上部の弧状面(G)に圧接させ、その弧状面(G)は支持台(D)の孔の中央部においてはその弧の半径が少しく小さく、従つて弧状座面(F)との半径の差異が微小であるが、支持台(D)の端部においては弧状面(G)の弧の半径が前記中央部におけるよりも大きいため弧状座面(F)の弧の半径よりも大きくなつている。遊動孔(E)と車軸(A)との間にはその両側から下部に亘つて遊動間隙(H)(H′)(I)を設け、支持台(D)と車軸(A)とが円滑、容易に関係的に移動し得るように車軸(A)上に支持台(D)を安定させることによつて炭車の脱線を防止したものである。
なお支持台(D)は上部(D)1と下部(D)2とを別個に作つて組合せボルトを以て車体に対し一体に取付けるものである。
再訂正(イ)号図面
第一図<省略>
再訂正(イ)号図面
第二図<省略>
再訂正(イ)号図面
第三図<省略>