東京高等裁判所 昭和33年(う)1287号 判決
被告人 宮沢陽一
〔抄 録〕
被告人はかねてから船橋市海神町五丁目二百二十二番地所在木造平家建瓦葺住宅一棟(建坪約二十五坪)を所有者高橋某より賃借し家族と共に居住していたところ、昭和三十一年十二月頃渡辺亨の父竹次郎が右家屋を買受け同時に渡辺亨がその敷地を含む約百坪の土地の地上権を立石八右エ門より譲り受けたので、被告人に対し右家屋の明渡を求めたが被告人がこれに応じなかつたため、明渡の問題はそのまゝとして右家屋の南側及び西側の空地に家屋を建築しようと考え昭和三十二年四月頃家屋の建築に着手した。ところが被告人は自己の居住する家屋との間に竹垣やバリケードを設け、渡辺の建築工事の妨げとなるようなことをしたので、渡辺享は同年七月頃これとすれすれに被告人方の西側及び南側に高さ約六尺の板塀を造ることを大工郷州一郎に依頼し郷州一郎において同年八月二十七日完成したところ、被告人は原判示の如く母トヨ及び弟聰と共に右板塀を幅十三尺七寸位に亘り損壊した事実が明らかである。論旨は渡辺亨は被告人が日常通行していた南側出入口への通路を板塀を造つて遮断し、被告人の占有権を不法に侵害したので、被告人は右板塀の除去を渡辺亨に請求したが、同人はこれに応じなかつたため被告人は自己の権利を防衛するため已むを得ず本件所為に及んだのであつて、正当防衛又は合法的な自力救済行為であると主張する。なる程記録によると従来被告人方では事実上南側の空地を通つて南側道路に出ており、これが一番便利であつたこと及び右板塀の設置によつて南側道路への出入りが不便になつたことは窺われるが、しかし右空地は渡辺亨が地上権を有するのであるから、同人がこれを使用することは法律上当然の権利であり、しかも被告人方はその東側にも道路があつて渡辺亨が右板塀を設置するに当つては、東側勝手口に面した塀約一間位を開いて出入口とし、また玄関口のある南側と右板塀との間には約三尺の間隔があつて玄関口から出て東側出入口を利用することも可能であつたと認められるから、南側出入口への通行を遮断されたからといつて被告人の占有権が不法に侵害されたものということはできない。それゆえ論旨は理由がない。
(大塚 本田 渡辺辰)