東京高等裁判所 昭和33年(う)1836号 判決
被告人 吉野庄太郎 ほか一名
〔抄 録〕
論旨は、被告人らが原判示看板に掲示した内容は単に抽象的、結論的価値判断の意見の域を脱せず、これをもつて他人の名誉を毀損するに足りる具体的事実摘示ありとすることはできないのに、原判決が刑法第二百三十条に問擬したのは同条の解釈適用を誤つた違法があるというのである。よつて按ずるに、刑法第二百三十条所定の名誉毀損の罪は、所論のごとく、他人の名誉を毀損するに足りる具体的事実を摘示することによつて成立し、単に抽象的に批判の言辞を弄するのみでは足らないことはいうまでもないところであるが、名誉毀損罪における事実の摘示は他人の名誉が毀損されるものと認め得る程度になされれば足り、必ずしも、その事実の内容につき詳細にわたつてこれを明示することを要しないものというべく、(大審院、昭和七年(れ)第四二五号、同年七月十一日判決、刑集十一巻一二五〇頁参照)これを本件についてみるに、被告人らの前記看板に記載したところは、原判示のとおり、「高円寺不正区画整理」の標題の下に当時の区画整理委員伊藤兼吉以下十名の氏名を列挙し、「右十名の者は高円寺不正区画整理を計画し、不正手段によつて区画整理委員となり、私利私欲のみを計つた」という文意であり、その不正行為の態様、私利私欲の内容等につき詳細の記述はなくとも、右は伊藤兼吉ら十名の者の名誉を毀損すべき程度において事実を摘示したものと認めるに十分であるから、原判決がこれを名誉毀損罪に問擬したのは当然であつて、原判決には所論のごとき法令適用の誤りは存しない。
(坂井 山本長 荒川)