東京高等裁判所 昭和33年(う)2098号 判決
被告人 末永栄一
〔抄 録〕
弁護人の控訴趣意第一点について。
所論は、原判決は窃盗未遂の認定をするに当り犯罪の実行に着手したことを判示していないから理由不備の違法があると主張する。よつて調査すると、原判決は第五の(1)(2)及び第六において窃盗未遂の事実を判示するに当り、いずれも「窃盗の目的で(他人の住居)侵入し、家人に発見されてその目的を遂げなかつた」旨判示しており、右住居侵入の行為はそれのみでは未だ窃盗の実行行為の着手とは認められないから、原判決は罪となるべき事実を具体的に判示するのに欠けるところがあることは所論のとおりである。しかし原判決挙示の証拠によれば、判示第五の(1)(2)の事実については、家人が発見したときは、犯人が金品を物色していた後であり、即ち被告人は窃盗行為の実行に着手したが、家人に発見されたため逃走し未遂に終つたことが明らかであるから、原判決がこれを窃盗未遂として処断したことは結局において正鵠を失していないことが認められるのである。このような場合においてなお右判決の判示の不備をとらえて、刑事訴訟法第三百七十八条第四号にいわゆる判決に理由を付さなかつた違法がある場合に該当するものとすべきかは疑の余地がある。蓋し同号はそれが絶対的控訴理由として掲げられている趣旨に鑑み、判決に付すべき理由である、事実、証拠、法令の適用の説示を欠くか、または判決に理由を付することを要求する法の精神と相容れない程度に理由の説示が不完全な場合を指称するものと解する余地があり、本件のような場合はその判示は完全を欠き粗漏を免れないものではあるが、なお同号にいわゆる「理由を付」さなかつた場合には該当しないものとも解せられるからである。しかし判示第六の点についてはその挙示する証拠によるも被告人は判示家屋に侵入し廊下を通り部屋に近ずこうとしたところを家人に発見されそのまま逃走したものであることが認められ、窃盗の実行行為の着手は未だなかつたことが認められるから、この点において原判決はその判示の当不当にかかわらず、窃盗未遂罪に該当しない事実を窃盗未遂罪と認めた点において、少くとも事実を誤認した違法があり、右誤認は判決に影響を及ぼすことが明らかであるから、論旨はこの趣旨の主張をも包含するものと解し、少くともこの点において理由がある。(判示第六の場合が理由を付せざる場合に該当するか否かの判断は暫く保留する。)よつてこの点において本件控訴は理由があるから、原判決は破棄を免れない。
(山本長 久永 荒川)