東京高等裁判所 昭和33年(う)2392号 判決
被告人 平沢千寿
〔抄 録〕
原審第一、二回公判調書の記載によれば、第二回公判期日に検察官から被告人の司法警察員に対する昭和三三年七月六、一〇、一二各日附三通の供述調書及び検察官に対する同年七月一五日附供述調書の取調請求が為されて、これが取り調べられていること、そしてこれらの調書の内容を検討すると、これらの内には被告人が原判示第一事実中の小林綾子、同第二事実の降旗勝郎、同第三事実の高山一雄、同第一、別表2事実の宮沢千歳、同第一、別表15事実の河野芳逢に対する各詐欺の事実を自白している供述が存在するに拘らず、右各詐欺事実に関して右自白調書が取り調べられる以前に自白調書以外の他の証拠が取り調べられていないことはまことに所論のとおりである。
尤も本件公訴にかゝる詐欺事実の内右五箇の事実を除きその余の事実については自白以外の他の証拠が取り調べられていることは第二回公判調書の記載によつて明白であるが、本件各詐欺は原判決も認める如く併合罪の関係にあるもので、包括一罪の関係にあるものとして起訴せられたものとは認められないから右五箇の詐欺事実については自白以外の証拠が取り調べられていないものと認める外はないのである。
しからば原審の右訴訟手続は刑訴法第三〇一条の規定に違反するものであることは明らかである。
しかし乍ら刑訴法第三〇一条は裁判所に事件に対し偏見、予断を抱かせることを防止する為、被告人の自白調書はその犯罪事実について自白調書以外の何等か(全部の証拠であることは必要としない。)他の証拠が取り調べられた後でなければ、取り調べることも出来ない旨定めたのであるところ、原審第二回公判調書によれば被告人は右五箇の事実につき何れも金員受領の点は認めそして第二回公判調書によると右各自白調書が取り調べられる直前に被告人は小林綾子、降旗勝郎、高山一雄、宮沢千歳、河野芳逢関係の事実につき供述をしていて、殊に小林綾子関係については支払の意思のなかつたことを(なお小林綾子関係については第三回公判期日に小林綾子の司法巡査に対する被害状況陳述の供述調書を証拠とすることに同意していることが認められる。)、降旗勝郎関係については被告人が平林一郎と云う偽名を用いたことを、又河野芳逢関係については虚偽の事実を申し向けたことを夫々認めているのみならず、第二回公判期日において被告人及び弁護人は右被告人の各自白調書を証拠とすることに同意しているのである。そして第三回公判期日において、降旗勝郎、高山一雄、宮沢千歳、河野芳逢が夫々証人として取り調べられているのである。
しからば、このような場合は、刑訴法第三〇一条の規定に違反して自白調書が他の証拠を取り調べる以前に取り調べられたとしても、裁判所に格別偏見、予断を抱かせる虞のなかつた場合と認められ、その訴訟手続の法令違背は未だ判決に影響を及ぼさないものと認めるのを相当とする。論旨は理由がない。
(山本謹 渡辺好 石井)