大判例

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東京高等裁判所 昭和33年(う)2504号 判決

被告人 島川理一 外一名

〔抄 録〕

本件各控訴の趣意は、末尾に添付した久喜検察庁検察官事務取扱検事青山利男名義の控訴趣意書記載のとおりで、これに対する被告人両名の弁護人森長英三郎の答弁の趣意は同弁護人名義の別紙答弁書記載のとおりである。

検察官の論旨は、原判決が被告人両名にそれぞれ公民権を停止しない旨宣告したが、それは公職選挙法第二百五十二条に公民権停止を例外的措置とした法意に反するのみならず、各被告人の情状に照らし不当であり、結局刑の量定が軽きに失するものとして破棄を免れないと主張するのである。

公職選挙法第二百五十二条第一、二項は選挙の公正を害する特定の違反行為につき、一定期間選挙権被選挙権を停止することとし、更に同条第三項において、情状によつてこれが不停止或いは期間短縮を宣告することができるとしており、右規定の配置及び文意に徴し前者を原則と解すべきであろうが、そのいずれが原則で他が例外であるかはさておいて、要は具体的事案について妥当な判断、裁量を為せば足りるのである。原判決の認定した事実は、被告人等はいずれも昭和三十三年五月十二日施行の衆議院議員総選挙に際し埼玉県第四区から立候補した板川正吾を支持応援していたものであるが、同候補者に当選を得しめる目的をもつて、被告人島川は板川サトと共謀の上鷲宮町居住の稲見善三郎外二十一名方を、被告人石川は板川サトと共謀の上久喜町居住の斎藤信子外二十四名方を順次戸々に訪問しそれぞれ板川正吾に投票されたい旨暗に依頼し、もつて戸別訪問をしたというのである。本来戸別訪問のような形式犯にあつては、これを買収等の選挙の公正を害すること甚しく、しかも破廉恥な犯罪と同視すべきではない。それはかつて選挙に関する犯罪とされていた個々面接と同一罪質に属するものであり、それだけに公民権の停止、不停止を決定するについても、実質的情状を慎重に考慮すべきものであり、所論のように政治体制の腐敗を嘆きあくまでも公民権停止を主張するのは少しく行きすぎの観を免れない。

ところで所論は被告人等に対し公民権を停止しないとするだけの情状がないとする理由として(一)本件が東武鉄道労働組合を背後的基盤として敢行された組織的計画的犯行であること、(二)被告人等の立場が共犯者板川サトの手足として従属的なものとはいえず、自ら選定した相手方、道順に従つて板川サトを案内した上有権者に紹介するなど自主独立的役割を担当していたこと、(三)被告人等のそれぞれの社会的地位からすれば、特に選挙運動に対する廉潔を要求されているものとみられ、いやしくも有権者に対し特定の候補者に投票すべく誘導するような行動を慎しむべきであり、これを公民権不停止の情状とするのは本末てん倒であることの三点を挙げているのである。しかし本件違反にかかる戸別訪問が所論のように組織的計画的なものであつたことを認めるに足る証拠は記録上見出し得ない。なるほど候補者板川正吾が東武鉄道労働組合の執行委員長で、同組合を有力な地盤として立候補し、その妻板川サトが同鉄道職員家族で結成された東武家族連合会の副会長であり、東武鉄道労働組合員を中心とした選挙対策本部が設けられ、その指示により駅長を選挙運動の責任者と定め活溌な選挙運動が各地に展開されていたことは記録上認められないではないし、被告人島川が鷲宮駅長として、被告人石川が東武鉄道労組本社支部長及び久喜町会議員として、それぞれ板川候補を支持し、同候補のための選挙運動に従事していたことは所論のとおりであるが、以上の事から本件違反行為が組織的計画的なものと認めるのは却つて妥当を欠き選挙運動が組織的であつたことと、被告人等がいずれも板川候補のため多少の選挙運動に従事していたことを本件違反と結びつけることがそもそも無理であるといわなければならない。ひるがえつて被告人両名の立場がどうであつたかをみるに、被告人等が本件違反行為を積極的に画策した事態の認められないこと前記のとおりで、いずれも板川サトの来訪を機会に発生した犯行であるから、板川サトを案内した有権者宅の選定及びその道順の決定が被告人等の一存に委ねられていた事実のみを捉え、被告人等が板川サトに従属した立場でなく積極的指導的な役割を担当したとするのは妥当ではない。

以上被告人両名に対し公民権を停止しなければならないとする理由が甚だ薄弱であるのみならず、なお記録により認められる諸般の情状に徴し、原審が被告人両名をいずれも罰金七千円に処しその選挙権被選挙権を停止しなかつたことが量刑不当に帰するとは断じ難いところであるから、論旨はその理由がない。

(足立 村木 山岸)

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