東京高等裁判所 昭和33年(う)2550号 判決
被告人 岡本武
〔抄 録〕
しかるに、原判示第一事実の関係証拠として原判決の挙示する証拠並びに原審公判廷において被告人及び弁護人が証拠とすることに同意しかつ適法に証拠調をなした工藤正男の検察事務官に対する供述調書(但し一項、三項、四項)及び被告人の司法警察官に対する昭和三十一年十月十二日附供述調書中の各記載によれば、被告人はマミヤ光機株式会社に昭和二十年十二月入社し、爾後同会社の製造にかかる各種写真機の輸出業務を担当し、主として駐留軍向けの輸出に関する業務に従事していたこと、駐日米軍購買機関に納入して輸出する写真機に対しては物品税が免除されるところから、被告人は、真実右機関に納入して輸出するのでないのに拘らず、恰も同機関に納入するものの如く装い、物品税輸出免税手続によつて写真機に対する物品税を逋脱し、これを国内で販売し、以て物品税相当額の金員を利得せんことを企て、従来同会社が納入していた駐日米陸軍物資購買部或は同海軍物資供給所購買部を経由して、恰も真正に輸出するかの如く装つて、原判示本郷税務署に対し、物品税免税承認申請をなしてこれが承認を受けた上右会社から原判示写真機合計五百八十八台を移出し、これを塚原尚に対し、国内価格より若干安価に売却したこと、右写真機に対する物品税額は合計二百三十八万六百八十円なること、右の写真機の移出に際しては、被告人は会社の上司である輸出部長工藤正男、輸出課長加藤誠之助に米軍から発注がありこれを受注して移出する旨虚偽の報告をなし、これを信じた同人らからその移出の承認を得ていたこと、移出した写真機は会社の帳簿に記載し、塚原から受領した代金中から会社の輸出価格(課税標準額)に相当する金額(合計七百九十三万五千六百円)中六百三十七万円余を右会社の輸出販売代金として会社の取引銀行である富士銀行本店の右会社の口座に入金したことが認められるから、被告人は会社の前記の如き業務を担当する従業員として、その業務に関し、自らの不正の行為を以て物品税を逋脱したものといわなければならない。従つて被告人は、前記法条にいわゆる物品税の納税義務者には該当しないが、前記の如く会社の業務に関し自らの不正の行為を以て物品税を逋脱したものである以上被告人は行為者として物品税法第十八条第一項第二号による物品税逋脱の責を免かれないものといわなければならない。
所論は、物品税法第十八条第一項第二号の規定は、同法第四条の納税義務者並に義務者の利益のために不正行為を以て物品税を逋脱した者の処罰規定と解すべきであるから、被告人の如く会社の一従業員として税金相当額を着服するため単に個人としてなした本件の如き行為は、会社に対する背任、横領等の刑事責任或は会社に対して民事責任を負うことのあるべきは格別物品税法第十八条第一項第二号による逋脱の責任はないと主張する。なるほど同法第十五条の規定によつて政府に対し申告をなした製造業者たる納税義務者が自らの詐偽その他不正の行為を以て物品税を逋脱したときは、その納税義務者は同法第十八条第一項第二号により処罰を受くべきことは洵に所論のとおりである(最高裁判所第三小法廷昭和三十一年三月二十日判決、判例集第一〇巻三号三五九頁、同裁判所昭和三十一年六月五日判決、判例集第一〇巻六号七八九頁参照)が、いやしくも納税義務者の従業員がその義務者の業務に関し、自らの不正の行為を以て物品税を逋税した場合には、その不正行為が所論の如く納税義務者の利益のためになされたと否と、又行為者個人の金員着服の目的に出でたものであると否とを問わず、その行為者は、所論の如き刑法上の犯罪の成否ないしは民事上の責任の有無の如何に拘らず、物品税法第十八条第一項第二号の責を免れ得べきではないといわなければならない。本所論は理由がない。
(三宅 東 井波)
註 本件は他の理由で破棄