大判例

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東京高等裁判所 昭和33年(う)355号 判決

被告人 長田武

〔抄 録〕

原判決引用の関係証拠によれば、被告人が原判示第五の如く原審相被告人中島英男、及び高橋長三郎の両名から金五万円の賄賂の供与を受けこれを収受した事実を十分認めうるのである。

所論は被告人は右金五万円を領得する意思なく後日返還する目的で、一時受け取つたにすぎない旨弁疏するので按ずるに、賄賂を収受するとは賄賂の目的物たる利益を自己において現実に取得することと解せられるのであるから、領得の意思をもつてこれを受領するのでなければ賄賂の収受とは認められず、若し後日これを返還する意思で受け取つたにすぎないときは未だ賄賂を収受したものと認められないことは所論のとおりである。

而して、被告人の原審公判廷における供述、検察官に対する供述調書、及び被告人の妻長田菊江の原審公判廷における供述、検察官及び司法警察員に対する供述調書等の中には、被告人は右金五万円を後日中島英男等に返還する意思で、これを一時受け取り、帰宅後妻菊江にこれの一時保管を托しておいたところ妻は、仕事が多忙であつたり又病気にかかつたりした為これを返還することを怠つたにすぎず、本件につき押収捜索の行われた際にもそのまま開封せずにあつた旨の事実に符合する供述部分も存在するのである。しかし乍ら妻に返還先を具体的に指示した点は何等認められず、一方原判決引用の証拠によれば、被告人は右金五万円が所謂賄賂であることを十分認識していながら、これを受け取り、受け取つたときから本件検挙迄の約二月間これを自宅に所持していたことは明白である。若し被告人において真に返還の意思があつたならば、この間に返還の機会はいくらでもあつたものと認められる。被告人の当時の月収が約一万四千円であつたことから考えて、右金五万円を妻に保管せしめていることを失念してしまうにしては、金額が多額すぎるのである。これらの点から考えれば、被告人が真に返還の意思をもつて右金五万円を一時預り保管したにすぎないものとは認め得ず、これを領得の意思をもつて受領したものと認めるのを相当とし、右被告人の弁疏に符合する証拠は信用するに足らない。

(山本謹 渡辺好 石井)

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