東京高等裁判所 昭和33年(う)568号 判決
被告人 掛川満美
〔抄 録〕
弁護人の控訴趣意第一点について。
所論は原判決には証拠の点において理由不備の違法があるというにある。よつて原判決の挙示する証拠を調査すると、原判決は証拠の標目として被告人の当公廷における自白、七海又三郎作成の被害答申書を掲げるのみであるが(イ)被告人の原審公判廷における本件犯罪事実に関する供述としては、第一回公判期日において被告事件に対する陳述として「起訴状のとおり私が会社の金を横領したことは間違いありません。ただ実際の金額とか月日とか使途等の細かい点までは現在記憶して居りません」と述べているのみで、各公判期日を通じこれ以外に本件犯罪事実の内容につき陳述したものはないのであるから、被告人の右供述を以て直ちに起訴状記載の四十一件の横領事実を全部相違ないものとしてこれを自白したものと認めうるかは疑の余地があるばかりでなく(ロ)七海又三郎作成の被害答申書は二通あり、その内容はいずれも論旨に記載されているとおりであつて右答申書はいずれも引用にかかる各社員の答申書の内容と相俟つて初めて原判決の認定した起訴状別表横領事実一覧表記載の四十一回の犯行のうち最後の二回を除いたその余の事実を認める証拠となしうるに過ぎず最後の二回の事実については何らの記載もないものであるから原判決挙示の証拠によつては到底判示事実を認定するに足りないものと云うべく、このような場合は刑事訴訟法第三百七十八条第四号にいわゆる判決に理由を付さなかつた違法がある場合に該当するものと認むべきである。故にこの点に関する論旨は理由がある。
同第二点について。
原判決の引用する起訴状別表の横領金額を合算すれば八十二万三千十八円となることは所論のとおりであるが右合計額を八十一万八千三十八円と表示したのは計算の誤に基く誤記と認めるのが相当であり、所論のように別表第四十項の事実を除外して犯罪事実を認定したものと解すべき根拠は記録上これを見出しえない。即ち原判決は同表記載の四十一の横領事実を認定したがその合計額を誤記したに過ぎないものであつて、所論のように理由にくいちがいがあるものとは認められないから論旨は理由がない。
同第三点について。
一、所論七海又三郎の被害答申書はその引用に係る各社員の答申書の記載と相俟つて初めて別表記載の第一項乃至第三十九項の事実の証拠となりうるものであること、最後の二回の事実については右答申書中にその記載がないものと認められることは前示のとおりであるから被告人の原審公判廷における前記供述を本件公訴事実全部に関する自白と認めうるとしても、なお原判決は少くとも別表記載の最後の二回の事実については刑事訴訟法第三百十九条第二項に違反して被告人を有罪と認めた違法があり、右違法は判決に影響を及ぼすことが明らかであるから、この点の論旨は理由がある。
(坂井 山本長 荒川)