東京高等裁判所 昭和33年(う)869号 判決
被告人 高橋良明
〔抄 録〕
次に、刑法第二四六条第二項にいう財産上不法の利益の取得が債務の支払を免れたことであるとするには、相手方たる債権者を欺罔して債務免除の意思表示をなさしめた場合たることを要することは所論のとおりであるが、その意思表示は必ずしも明示的たるを要しないものと解しなければならない。原判示第二の(三)の事実は、被告人は九月四日から七日まで判示旅館美松に滞在した後、同日午後三時頃、単に宿泊料等の支払をしないままで同旅館を立ち去つたというだけではなく、該判示事実を対応証拠と比照すれば、被告人は右旅館を立ち去るに当り、「今晩必ず帰つてくるから」と申し詐り、その為に、判示旅館主をして当然被告人に対して請求し得べき宿泊料等の支払の請求をさせなかつたことが明らかであるので、この「支払の請求をさせなかつたこと」は、とりも直さず、被告人が同旅館を立ち去るに当り、支払を即時にしなくともいい旨、換言すれば同旅館主において被告人の支払を少くとも一時猶予する旨の意思を暗黙に表示させたわけであり、しかも、この暗黙裡の意思表示が被告人の欺罔行為の結果によつてなされたものである所からいつて、被告人は右判示事実につき前記法条による刑事上の責任を負うべき筋合である。従つて、原判決が右判示事実に対し判示のごとく刑法第二四六条第二項を適用し、同条第一項によつて処断したとて、いささかも違法はない。
(中野 尾後貫 堀真)