大判例

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東京高等裁判所 昭和33年(う)870号 判決

被告人 入沢壮哉

〔抄 録〕

まず、職権により原判決及び記録を調査するに、原判決は、その理由において、罪となるべき事実として、「被告人は昭和三〇年一二月中頃利根郡片品村大字東小川字中井千明朝好方に於て、当時同部落の区長だつた同人から貯金の払戻しを依頼されて一時預つた同部落民共有にして元区長入沢林造名義の群馬大同銀行預金通帳一冊及び同人所有の認印一個を、その頃同村内に於て擅に着服横領したものである。」との事実を認定判示し、刑法第二五二条第一項を適用処断しているのであるが、記録によれば、本件は、当初検察官から、「被告人は利根郡片品村大字東小川字中井部落の簡易水道設置の委員長に挙げられ、同部落民四十数名の共有する金三十二万余円預入れある群馬銀行鎌田支店発行の預金通帳及之が払戻に使用する印顆一ケ保管を託された処之を使用し(一)昭和三十一年一月二十八日金拾万円(二)同年三月二十一日金拾万円を擅に払戻を受け其の頃同村内に於て着服横領したものである」との公訴事実につき起訴され、その後に至り、更に、予備的訴因として、「被告人は昭和三十年十二月中頃利根郡片品村大字東小川字中井千明朝好方に於て同人から一時預つた入沢林造名義の群馬大同銀行預金通帳一冊及入沢林造の認印一ケをその直後同村内に於て其の儘着服横領したものである」との事実が追加されたものであつて、原判決は、右の予備的訴因の事実を認定して有罪の言渡をしたものであることが認められるのである。そこで、原判決の判文を検討するに、原判決においては、前示のように、「被告人は(中略)同人から貯金の払戻しを依頼されて一時預つた同部落民共有にして元区長入沢林造名義の群馬大同銀行預金通帳一冊及び同人所有の認印一個を、その頃同村内に於て擅に着服横領したものである。」と判示し、右預金通帳及び認印そのものの横領を認定しているのであるが、横領罪は、犯人が自己の占有する他人の物につき不法領得の意思を外部に発現することに因つて成立する犯罪であるところ、右のような原判決の判示によつては、被告人の前示預金通帳及び認印に対する不法領得の意思が、具体的には、いつ、どこで、いかなる態様によつて外部に発現されたものであるかが判文自体において明らかにされていないばかりでなく、挙示の証拠と対照して検討してみても、不明であるから、原判決には、この点につき、理由不備の違法があるものといわなければならない。そして、この違法は、ひつきよう、原裁判所が本件の審理に際し、本訴因及び予備的訴因中横領罪の基本となるべき委託関係、並びに同罪の構成要件たる不法領得の意思の発現等につき、検察官に対し釈明権を行使して、訴因の内容を明らかならしめることを怠つたことに基因するものと考えられるのであつて、もし、原審において、この点に留意して、審理を尽すにおいては、あるいは、すでに取り調べた証拠に照らして、その認定を異にするような場合が起らないとも限らないけれども、いずれにしても、本件については、原審において、いま一度、右の諸点につき審理を尽す必要があると考えられるので、原判決は、この点において破棄を免れないものといわなければならない。

(中西 山田 鈴木)

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