東京高等裁判所 昭和33年(く)80号 決定
本件抗告の要旨は、被告人李賛周は詐欺被告事件につき昭和三十一年八月二十九日東京地方裁判所において保釈許可決定を受け、同年九月四日出所したのであるが、昭和三十三年十月九日の同被告事件第十九回公判期日に被告人が出頭しなかつたため、同日右保釈を取消し保釈保証金の内五万円を没取する旨の決定がなされた。しかしながら、被告人が前示公判期日に出頭しなかつたのは、当時被告人において別事件のため勾留されていた関係で公判期日を知らなかつたことによるものである。かくの如く、被告人は正当な事由により右期日に欠席したのであるに拘らず、原審が右不出頭の故を以て前示保釈を取消すと共に保釈保証金を没取する旨の決定をしたのは不当であるから、その取消を求めるため被告人のため本抗告に及ぶというにある。
よつて按ずるに、原審が被告人に対する詐欺被告事件につき昭和三十一年八月二十九日保証金拾万円(但し内五万円は桜井敬三の保証書とする)を以て保釈許可決定をしたこと、次で昭和三十三年十月九日右決定の指定条件に違反したとの理由の下に該保釈を取消し、前記保証金の内五万円を没取する旨の決定のあつたことは本件並びに本案記録に徴し明白であり、前記保釈許可決定には、指定条件の一として「召喚状を受けたときは、必らず定められた日時に出頭しなければならない(出頭できない正当な理由があれば、前もつて、その理由を明らかにして届け出なければならない)」との条項が付されているに拘らず被告人が前記公判期日に適式の召喚状を受けながら無届で出頭しなかつたことは本案記録によつて明認せられるところである。しかしながら、当審における調査照会に対する警視庁池袋警察署長の回答書並びに当審証人熊坂留吉の供述によれば、被告人は昭和三十三年十月三日別件恐喝被疑事件により池袋警察署に逮捕、引続き同署に勾留され、同月七日病気のため警視庁明石町分室に移監となり、同月二十五日まで同分室に勾留されていたこと、被告人が逮捕された際、被告人は勿論、その内妻山口時子及び警察係官においても、前記詐欺被告事件が東京地方裁判所に係属中で次回公判(宣告)期日が未定であることを充分諒知しており、被告人の留守宅に期日召喚状が送達された場合右山口時子より池袋警察署担当係に連絡することとなつていたに拘らず、右山口が同月四日被告人宛の前記公判期日の召喚状を代理受領しながら前記連絡を怠つたため、被告人としては前記公判期日を知るに由なく、前記の如く公判期日に無届で出頭しなかつたこと、被告人は前記逮捕勾留中前記詐欺被告事件の弁護人との連絡につき相当の努力をしたのであるが警察内部の事務連絡不調等のためその目的を達し得なかつたことを認めることができる。してみれば、被告人が右期日に出頭しなかつたのは被告人の責に帰すべからざる事由によるものであつて、結局正当な理由に基くものというの外なく原審が被告人の右無届不出頭を正当の事由に基かないものと認め、前示保釈許可決定の指定条件に違反したとの理由を以て該保釈を取消すと共に、その保証金の内現金五万円を没取する旨決定したのは不当というべく、本件抗告は理由あることに帰する。
(谷中 坂間 司波)