東京高等裁判所 昭和33年(ツ)67号 判決
当事者の一方が他方に対し負担している債務のため約束手形を振出した場合において、これを代物弁済と見るべきか、或は単に原債務の弁済を確保する目的を以て発行したものと見るべきかは当事者の意思を解釈して決定すべき事実問題であるが、その意思が前者にあること明白でないときは、原債務を消滅させるに至るべき代物弁済とみるよりはむしろ原債務を存続せしむべき後者の趣旨に解するのが相当である。原判決は上告人主張の代物弁済に関する特別の合意が成立した事実を肯認するに足る措信すべき証拠なしと判断し、ただこれに附加して論旨摘録の如く説示するところあるも、この点に関する原判示にもあるとおり、既存の金銭債権につきその支払を受ける方法として約束手形の振出を受けたに拘らず、その支払あることの予想の下に一応領収書を交付し、また帳簿上入金のあつたように記載することは商人間の取引では例の少くないことであるから、右の事実のみでは常に代物弁済の合意があつたものと推認しなければならぬものではない。この点に関し原判決は経験則に反し事実を確定した違法なく、所論は畢竟原審の専権に属する証拠の取捨判断を攻撃するに帰し、上告適法の理由にならない。
(柳川 坂本 中村)