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東京高等裁判所 昭和33年(ナ)1号 判決 1958年11月11日

原告 上条愛一

訴訟代理人 鈴木義男 外五名

被告 小西英雄

訴訟代理人 佐瀬昌三 外五名

主文

昭和三十一年七月八日施行の参議院全国選出議員の補欠選挙における被告の当選はこれを無効とする。

訴訟の総費用はこれを被告の負担とする。

事実

(原告の請求の趣旨)

原告訴訟代理人は、主文第一、二項同旨の判決を求めた。

(請求の原因)

原告訴訟代理人は、本訴請求原因として次のとおり述べた。

第一、

原告は昭和三十一年七月八日施行された参議院全国選出議員選挙(改選される任期六年の議員五十名及び任期三年の補欠議員二名の選挙)に立候補し、右選挙の結果、得票数二四〇、六一七・八九五票をもつて得票順位第五十三位となり次点となつて当選を得なかつたものであり、被告は右選挙において同様立候補をなし、得票数二四〇、七一一・五一八票をもつて得票順位第五十二位となり、右補欠議員の選挙における最下位当選人となつたものであつて、同月十九日の選挙会において、その旨決定され、翌二十日その当選人の告示が行われた。

第二、

原告の調査の結果によると、無効の投票として処理された投票中には、当然原告の有効投票となすべきものや、原告のためにも当然有効と認めて按分せられるべき投票を、全部他の候補者の得票として算入した事実が判明した。即ち、

一、原告と候補者上條愿とに按分すべき票。

(一) 大和高田市における上條愿の有効投票二六票中には「上條」と氏のみを記載した投票が二三票存在するが、右二三票は公職選挙法(以下単に法という)第六十八条の二の規定により、原告及び上條愿に按分すベきものである。ところが同市選挙管理委員会の開票録の記載によれば、右二三票を全部上條愿の単独有効得票として、按分すべき票を一〇票、按分の基礎となるべき得票数を原告が七二五票、上條愿が二六票、按分の結果原告の得票合計数を七三四・六五三票、上條愿のそれを二六・三四六票としている。したがつて、正しくは按分すべき票は前記二三票を加えた三三票で、按分の基礎となるべき得票数は原告が七二五票、上條愿が三票となるべきであり、按分の結果は原告が七五七・八六四票・上條愿が三・一三五票となるべきである。よつて、原告の得票は右開票録の記載よりは更に二三・二一一票の増加になる。

(二) 坂出市第二開票区における上條愿の有効投票一九票中には「上條」と氏のみを記載した投票が一五票存在するが、右は前同様原告と上條愿に按分すべきものである。ところが同市選挙管理委員会の開票録の記載によると、右一五票を全部上條愿の単独有効投票として、按分すべき票を一七票、按分の基礎となるべき得票数を原告が二五二票、上條愿が一九票、按分の結果原告の得票合計数を二六七・八〇八票、上條愿のそれを二〇・一九一票としている。したがつて、正しくは按分すべき票は前記一五票を加えた三二票で、按分の基礎となるべき得票数は原告が二五二票、上條愿が四票となるべきであり、按分の結果は原告が二八三・五〇〇票、上條愿が四・五〇〇票となるべきである。

よつて、原告の得票は右開票録の記載よりは更に一五・六九二票の増加になる。

(三) 岩国市における無効処理の投票中には「上」、「上修」、「カミリヨウ」、の投票三票がある。右はいずれも「上条」又は「カミジヨウ」の誤記と認めるべきもので、原告と上條愿に次のとおり按分すべきものである。同市選挙管理委員会の開票録の記載によると、按分すべき票を一〇八票、按分の基礎となるべき得票数を原告が二、八四六票、上條愿が四八票、按分の結果原告の得票合計数を二、九五二・二〇八票、上條愿のそれを四九・七九一票としているが、按分すべき票は右三票を加えて一一一票となるから、開票録の按分の基礎となるべき票数に応じて按分すれば、原告が二、九五五・一五八票、上條愿が四九・八四一票となり、原告の得票数は右開票録の記載よりは更に二・九五〇票の増加となる。

(四) 草津市における無効処理の投票中には「上」の投票一票がある。右は「上條」の誤記と認めるべきもので、原告と上條愿に次のとおり按分すべきものである。同市選挙管理委員会の開票録の記載によれば、按分すべき票を二五票、按分の基礎となるべき得票数を原告が三七三票上條愿が一四票、按分の結果、原告の得票合計数を三九七・〇九五票上條愿が一四・九〇四票としている。したがつて按分すべき票は右一票を加えて二六票となり、開票録の按分の基礎となるべき票数に応じて按分すれば原告が三九八・〇五九票上條愿が一四・九四〇票となり、原告の得票数は右開票録の記載よりは更に〇・九六四票の増加となる。

(五) 大阪市都島区における無効処理の投票中には「上條」の投票一票がある。右は原告と上條愿に次のとおり按分すべきものである。同所開票録の記載によれば按分すべき票を五三票、按分の基礎となるべき得票数を原告が一、一六八票、上條愿が二九票、按分の結果原告の得票合計数を一、二一九・七一五票、上條愿が三〇・二八四票としている。したがつて按分すべき票は右一票を加えて五四票となり開票録の按分の基礎となるべき票数に応じて按分すれば、原告が一、二二〇・六九一票、上條愿が三〇・三〇八票となり、原告の得票数は右開票録の記載よりは〇・九七六票の増加となる。

従つて以上(一)ないし(五)の増加得票数は合計四三・七九三票である。

二、原告単独の有効得票となすべき票。

(一) 別紙第一目録甲表及び乙表各(一)、(二)欄記載の各選挙管理委員会においては、それぞれ、各該当下欄記載の票数の「下條愛一」又は「下条愛一」と記載した投票があり、その合計数は三三三票である。

右各票の「下条愛一」又は「下條愛一」は原告の氏名「上条愛一」の四字のうち、三字を正確に記し、氏において、ただ一字の相違があるに過ぎない。その相違する一字である「上」と「下」とは観念上から、「極めて混同、誤記を生じ易い字であつて、「上」と「下」とを取り違えることは通常容易に考え得られることである。原告の名「愛一」は一種簡明な特異性があり、前記各投票は、すべて「愛一」とこれを正記している。本件全国選出参議員議員選挙(以下本件選挙という)候補者中には「下条康麿」なるものがあるが、前記各投票は氏においては同候補者と一致するが、同候補者の名「康麿」は、これまた一種複雑な特異性のある名であるから「康麿」と「愛一」が混同誤記される可能性は全く考えられない。これに反し、氏の「上条」と「下条」は上下の相違であり、投票者が「上」、「下」を取り違えて誤記することは経験則からいつて容易に考え得るところである。

後記差戻前の検証調書添付の写真(以下第一回写真という)「六-二-二」及び「一五-二三-二」は、右の事実を如実に示したもので最初「上条愛一」と正記しながら、投票者は「上」と「下」との記憶が明瞭でなく「下条愛一」が正しいと考え「上」を抹消して「下」と訂正した経緯が判然としているのである。

たまたま、氏の記載が「下条康麿」の「下条」に一致するからといつて、特異性のある原告の名「愛一」が明記されている以上、これを「下条康麿」の有効投票と考え得られないことは勿論、「候補者の何人を記載したかを確認し難いもの」とすることも不当である。

前記各投票は原告に投票する意思の明白なものであり、「上条愛一」の誤記と考えるのが至当である。「下条愛一」、「下條愛一」の文字全体の近似性からいつても、前記各票が原告の「上条愛一」に投票したものであることは疑を容れない。投票は投票者の意思を尊重し、なるべく有効とするようにしなければならない(法第六十七条参照)のであつて、前記各票は「上条愛一」に投票する意思が明白に推測できるのであるから、すべて原告の有効投票とすべきである。

(二)(1)  別紙第一目録甲表の(三)記載のとおり岩国市、岐阜県坂祝村、四日市市に「下条アイ一」の投票が各一票計三票あり、同目録甲表の(四)及び同乙表の(三)記載のとおり彦根市、草津市、川口市に「下条あい一」の投票が各一票計三票、同目録乙表の(四)記載のとおり泉大津市に「下条あいいち」の投票一票、同目録乙表の(五)記載のとおり長野県下条村に「下条あいいち」の投票一票、同目録乙表の(六)記載のとおり加茂市に「下条アイイチ」の投票一票、同目録甲表の(五)記載のとおり岩国市及び松本市に「下ジヨウ愛一」の投票各一票計二票、同目録乙表の(七)記載のとおり足利市に「下ジヨウアイ一」の投票一票、同目録乙表の(八)記載のとおり大分県坂ノ市町、伊那市に「下じようあい一」の投票各一票計二票、同目録乙表の(九)記載のとおり関市に「下ジヨウアイチ」の投票一票、同目録甲表の(六)記載のとおり津市に「シモジヨ愛一」の投票一票、同目録甲表の(七)記載のとおり岩国市に「シモジウアイ一」の投票一票、同目録甲表の(八)記載のとおり延岡市に「しもじうあい一」の投票一票、同目録乙表の(一〇)記載のとおり愛知県弥富町に「しもじよう愛一」の投票一票、同目録乙表の(一一)記載のとおり新潟県小国町に「しもじやあい一」の投票一票、同目録乙表の(一二)記載のとおり新潟県北条町に「しもじやうアイ一」の投票一票、同目録乙表の(一三)記載のとおり大町市に「しもじようあい一」の投票一票、同目録乙表の(一四)記載のとおり秋田県東由利村に「スモジヨウアイ一」の投票一票、同目録甲表の(九)記載のとおり敦賀市に「しもじよあいいち」の投票一票、同目録甲表の(一〇)記載のとおり長野県豊科村に「しもじようあいち」の投票一票、同目録甲表の(一一)記載のとおり岩国市に「しもじうあいいち」の投票一票、同目録甲表の(一二)及び乙表の(一五)記載のとおり延岡市、大阪府交野町、徳島県堀江町及び長野県飯田市に「しもじようあいいち」の投票が各一票計四票、同目録乙表の(一六)記載のとおり長野県和田村に「しもぢようあいいち」の投票一票、同目録甲表の(一三)記載のとおり今治市に「シモジヨアイイチ」の投票一票、同目録甲表の(一四)記載のとおり広島県三原市に「シモジヨウアイイチ」の投票一票、同目録甲表の(一五)記載のとおり長野県松本市に「シモジヨウアイチ」の投票一票がある。右のうち「スモジヨウアイ一」は東北訛りで「シ」と「ス」を誤記したものである。

そして以上は前記(一)と同様「上」「下」を混同誤記し、或は「かみ」「しも」を誤つたものである。しかし、原告の名「愛一」はこれを漢字又はかなをもつて明記しているのであるから前記(一)と同様の理由によつて、原告の有効投票と認めるべきである。

(2)  更に同目録甲表の(一八)記載のとおり福井県福井市に「下ジヤウアイキ」の投票一票、同目録乙表の(一七)及び(一八)記載のとおり前橋市に「下条受一」の投票一票、岐阜市に「下修受一」の投票一票、同目録乙表の(二〇)記載のとおり大阪府島本町に「下条愛十」の投票一票、同目録甲表の(一九)記載のとおり岩国市に「下條愛助」なる投票一票、同目録甲表の(二〇)記載のとおり三原市に「下条愛知」なる投票一票、同目録甲表の(二七)記載のとおり香川県豊浜町に「下條愛二」なる投票一票がある。右のうち「アイキ」は「アイイチ」の誤記であり、「受一」、「愛十」、「愛助」、「愛知」、「愛二」はいずれも原告の名「愛一」の誤記であることは明らかであるから前段同様の理由により、原告の有効投票となすべきである。

(3)  次に同目録甲表の(一六)記載のとおり岩国市、延岡市に、「下城愛一」なる投票が各一票計二票あり、同目録甲表の(二一)記載のとおり松本市に「下洋愛一」なる投票一票、同目録甲表の(一七)記載のとおり四日市市に「下茶愛一」なる投票一票、同目録甲表の(二八)記載のとおり香川県豊浜町に「下 愛一」なる投票一票、同目録甲表の(二六)記載のとおり市川市に「下候愛一」なる投票一票、同目録乙表の(一九)記載のとおり兵庫県但東町及び愛知県弥富町に「下候愛一」なる投票が各一票計二票ある。右のうち、「下城愛一」は「下條」を「下城」と発音上誤記したもので、その他の票は、いずれも第二字を「條」と書こうとして不明瞭なまま誤字を記載したものであることは記載自体から認められこれ又、「下條愛一」と同様の理由により原告の有効投票となすべきものである。

(三) 「下篠愛一」なる投票が、同目録甲表(二二)及び乙表の(二一)記載のとおり岩国市に一票、愛知県弥富町に一票、同県稲沢町に一票、長野県信更村に一票、高田市に三票、静岡県金谷町に一票、大津市に一票、徳島県山城町に一票、川口市に一票、山口県大島町に一票、山口県和木村に一票、合計十三票ある。

「下:愛一」なる投票が同目録甲表の(二三)記載のとおり岩国市に一票あり、「下修愛一」なる投票が同目録甲表の(二四)及び乙表の(二二)記載のとおり岩国市に一票、防府市に一票、滋賀県稲枝町に一票、富山市一票、柳津市に一票、愛知県弥富町に一票、合計六票、更に「下:愛一」なる投票が同目録甲表の(二五)記載のとおり岩国市に一票ある。

右各票は「條」に竹冠又は草冠を附し又は「修」、「:」と記しているが何れも「條」の誤記であることは明瞭であり、又「受一」は「愛一」の誤記であることは明らかである。したがつて前記(一)と同様の理由により原告の有効投票と認めるべきである。

(四)(1) 「中条愛一」なる投票が、別紙第二目録甲表の(一三)及び同乙表の(九)記載のとおり岩国市、延岡市、及び静岡県豊岡村に各一票計三票、「中條愛一」なる投票が、同目録乙表の(一〇)記載のとおり立川市、岡山県瀬戸町及び島根県仁多町に各一票計三票、「中 愛一」なる投票が同目録乙表の(一一)記載のとおり富山県城端町に一票ある。「西条愛一」なる投票が同目録甲表の(一四)記載のとおり防府市に一票、「西條愛一」なる投票が同目録乙表の(一二)記載のとおり滋賀県米原町、及び大津市に各一票あり、「川条愛一」なる投票が、同目録甲表の(一五)及び乙表の(一三)記載のとおり四日市市、茨城県守谷町に各一票ある。更に「三條愛一」なる投票が、同目録乙表の(一四)記載のとおり福岡県浮羽町、山形県天童町及び鹿児島県谷山町に各一票計三票、「三条愛一」なる投票が同目録乙表の(一五)記載のとおり大分県大南町に一票、「三条アイイチ」なる投票が同目録甲表の(一六)記載のとおり延岡市に一票、「さんじようあいいち」(第一回写真四三-八-八)なる投票が同目録甲表の(一七)記載のとおり同市に一票あり、「一条愛一」なる投票が同目録乙表の(一六)記載のとおり足利市に一票あり、「山条愛一」なる投票が同目録甲表の(一八)記載のとおり京都市下京区に一票ある。

右の各票は原告の氏名中三字を正記し氏の一字を誤記したものである。しかも候補者中「中条」「西条」「川条」「一条」「山条」なる氏のものはなく、且つ右の各氏は原告の氏「上条」に近似し、他方原告の名「愛一」が正記されているのであるから、前記各表はいずれも原告の有効投票と認めるべきである。

(2) 更に「さんじよあいいち」なる投票が同目録甲表の(一九)記載のとおり延岡市に一票、「さんじよあい一ち」なる投票が同目録甲表の(二〇)記載のとおり右同市に一票あり、右は原告の名「愛一」をかなをもつて明記し、原告の氏名の誤記と認めるべきである。又「サイジヨアイソ」なる投票が同目録甲表の(二二)記載のとおり愛媛県小松町に一票あり、右は「西条」のかな書であり、「アイソ」は、かなも不自由な投票者が「チ」を「ソ」と誤記したものである。更に「さんじようおい一」なる投票が同目録甲表の(二一)記載のとおり右小松町に一票あり、右は「三条」のかな書で、名は「あい一」と書くべきを、「おい一」と誤記したもので「あ」と「お」は字形の類似から誤記したものである。「さんじよえい一」なる投票が同目録甲表の(二三)記載のとおり静岡県小山町に一票、「さいじようあいいち」なる投票が同目録甲表の(二四)記載のとおり延岡市に一票(第一回写真四三-八-八)ある。右は「三條愛一」「西條愛一」のかな書(一部漢字)であり、「えい一」は「あい一」と記すべきところを発音の類似のため誤記したものである。したがつていずれも前段と同様の理由により原告の有効投票となすべきものである。

(五)「上下愛一」なる投票が、別紙第三目録甲表の(三)記載のとおり岩国市、今治市に各一票計二票、「下上愛一」なる投票が同目録甲表の(一)及び同乙表の(一)記載のとおり市川市、観音寺市、及び徳島県北島町に各一票計三票、「山下愛一」なる投票が、同目録甲表の(四)及び乙表の(三)記載のとおり岩国市、尼崎市に各一票計二票、「上 愛一」なる投票が、同目録甲表の(二)及び乙表の(二)記載のとおり京都府宇治市、岡山県勝山町に各一票計二票、「上愛一」なる投票が同目録乙表の(四)記載のとおり愛知県弥富町に一票ある。

右各票は原告の氏名中三字を正記し、且つ原告の名「愛一」を正記しており、全体的に原告の氏名に近似するから原告の有効投票とすべきである。なお最後の票の第一字が不明瞭であるが「下」の字を書き損じたものである。

(六)「雨宮愛一」なる投票が、同目録甲表の(五)記載のとおり京都市左京区に一票ある。右票は氏において原告と異るが原告の名を正記している。原告の名は一種の特異性を有し、これが正記されている以上、氏が異つても、原告の有効投票と認めるべきであり、且つ、候補者中には「雨宮」なる氏のものがいないのであるからなおさらである。

(七)(1) 「北條愛一」又は「北条愛一」の投票が別紙第二目録甲・乙表各(一)・(二)記載のとおり合計五〇票あり、「北條アイ一」なる投票が、同目録甲表の(三)記載のとおり岡崎市に一票、「ほうじようあいいち」なる投票が、同目録甲表の(四)及び乙表の(三)記載のとおり岡山市、徳島県山城町及び伊那市に各一票計三票、「ほうじようあい一」なる投票が、同目録甲表の(五)記載のとおり延岡市に一票、「きたじようあいいち」なる投票が右同表の(六)記載のとおり右延岡市に一票、「北しようあいいち」なる投票が、同目録乙表の(四)記載のとおり高知市に一票、「ほうじよあいち」なる投票が同目録乙表の(五)記載のとおり児島市に一票、「ホウジヨウアイ一」なる投票が同目録乙表の(六)記載のとおり福井県今立町に一票ある。

右各票は「北條愛一」又は同氏名を一部もしくは全部かなをもつて記載したものである。氏の中に「上」と「北」の相違があるが、その一字を除けば、原告の氏名のうち三字を正記したものである。候補者中には「北条雋八」なる者がいるが、右各票とは名が全然異る上に、全体的にみた近似性からいつて、右各票は「北条雋八」よりは「上条愛一」に近似する。殊に原告の特異性のある名「愛一」が正記されているのであり、氏においても一字の相違に過ぎないのであるから右各票は原告の有効投票と認めるべきである。

(2) 次に「北篠愛一」なる投票が、同目録乙表の(七)記載のとおり大津市に一票、「北修愛一」なる投票が同目録乙表の(八)記載のとおり福岡県穂波町に一票、「北愛一」なる投票が同目録甲表の(七)記載のとおり岩国市に一票、「此条愛一」なる投票が右甲表(八)記載のとおり岩国市に一票、「」なる投票が、右甲表の(九)記載のとおり彦根市に一票、「北愛一」なる投票が、右甲表の(一〇)記載のとおり福井県鯖江市に一票、「北條受一」なる投票が、同表(一一)記載のとおり倉敷市、延岡市に各一票計二票、「北条一」なる投票が、右甲表の(一二)記載のとおり延岡市に一票ある。

右各票中「篠」「修」は「條」の誤記であり、その他の各票中にも各一字の誤字を含んでいるが、その書体から見ても、いずれも文字に拙い者が「北条愛一」と記載しようとして誤字を書いたことが明らかであるから、前段と同様の理由により原告の有効投票と認めるべきである。

(八)(1) 「川上愛一」なる投票が、別紙第三目録甲表の(六)及び同乙表の(五)各記載のとおり合計四九票あり、「河上愛一」なる投票が同目録甲表の(七)記載のとおり岩国市に一票ある。

右各票はいずれも原告の名「愛一」を正記し、氏を誤記したものと認めるべきである。候補者中には「川上嘉」なる者がいるが、同人の氏名は三字であり、前記各票は四字である。しかも前記のように特異性のある原告の名「愛一」を正記し、原告の氏名四字のうち三字を含む記載である。「上条」と「川上」「河上」は発音がいずれも「か」をもつて始まり、「川上愛一」の字の全体的にみた近似性からいつても「川上嘉」よりも「上条愛一」に近似するものである。前記各票はいずれも原告の有効投票と認めるべきである。

(2) 更に「川上あい一」なる投票が、同目録甲表の(八)記載のとおり松阪市に一票、「川上あい一ち」なる投票が、右甲表の(九)記載のとおり三重県楠町に一票、「川上あいち」なる投票が右甲表の(一〇)記載のとおり四日市市に二票ある。右は「川上愛一」の一部をかな書きしたもので、前段と同一理由により原告の有効投票と認めるべきである。

(九)「小野愛一」なる投票が右目録甲表の(一一)記載のとおり京都市右京区に一票ある。右は氏においては原告と異るが名は原告の特異性ある名を正記している。候補者中には「小野義夫」、「小野市太郎」なるものがいるけれども、「愛一」と、「義夫」又は「市太郎」とは全然異るのであるから原告の有効投票と認めるべきである。

(十)(1) 「愛一」なる投票が別紙第四目録乙表の(一三)記載のとおり長野県大町市に一票、「あいいち」なる投票が右乙表の(一四)記載のとおり大分県坂ノ市町に一票、「あいち」なる投票が右乙表の(一五)記載のとおり徳島市、福井県清水町、山梨県秋山町、静岡県浜北町に各一票計四票、「アイチ」なる投票が右乙表の(一六)記載のとおり愛媛県津島町に二票ある。以上各票は原告の名「愛一」を漢字又はかなをもつて記載したもので、候補者中「愛一」なる名の者はなく、原告に投票したことは明らかであるから原告の有効投票と認めるべきである。

(2) 「あ一」なる投票が、別紙第四目録甲表の(二六)記載のとおり倉敷市に一票、「一」なる投票が、右甲表の(二七)記載のとおり静岡県小山町に一票、「受一」なる投票が右甲表の(二八)記載のとおり岩国市に一票、「ア一」なる投票が、右甲表の(二九)記載のとおり京都市左京区に一票、「マヘ」なる投票が右甲表の(三〇)記載のとおり福岡市に一票ある。以上はいずれも「あい一」「愛一」の誤記とみるべきものである。右各票の筆跡は、みな、たどたどしく、又文字が正確に書けないところから誤記したもので、「あ一」「ア一」は「い」「イ」を欠き、「一」は「愛」の字が完成されておらず、「受」は「愛」を誤つたもので、「マヘ」と記載されたものは、字体の拙劣さからおせば、片かなや数字も正確に書けない者が苦心して「ア一」と記載すべきところを「マヘ」と記載したものと認めるべきで、候補者中前記のような名を有する者がないから、右各票は原告の名「愛一」を表示するものとして、有効投票と認めるべきである。

(十一)「愛一郎」なる投票が右甲表の(三一)記載のとおり松山市に一票、西条市に二票ある。右は原告の名「愛一」を誤記したものとみるべきである。候補者中「愛一郎」又はこれに近似する名のものはなく、原告に投票したものと認められるので原告の有効投票である。

(十二)(1) 「上條重一」なる投票が別紙第四目録甲表の(一)及び同乙表の(一)記載のとおり岩国市、武生市に各一票計二票、「上條友一」なる投票が右甲表の(二)記載のとおり同岩国市に一票、「上條一」、「上条一」なる投票が右甲表の(三)及び乙表の(二)(三)記載のとおり敦賀市、松本市、滋賀県虎姫町、長野県鼎町に各一票計四票、「上條信一」なる投票が右甲表の(四)記載のとおり草津市、松本市に各一票計二票、「上條要一」なる投票が、右甲表の(五)記載のとおり同松本市に一票、「上條安一」なる投票が右甲表の(六)記載のとおり同松本市に二票、「上條真一」なる投票が、右甲表の(七)記載のとおり同松本市に一票、「上條正一」なる投票が右甲表の(八)記載のとおり同松本市に一票、「上条敬一」なる投票が右甲表の(九)記載のとおり倉敷市に一票、「上條愛市」なる投票が同目録乙表の(四)記載のとおり香川県山本町に一票、「上條アい一」なる投票が右乙表の(五)記載のとおり大分市に一票ある。以上各票は氏は「上條」又は「上条」と正記し、名の一字を誤つたか又は書き落したものである。右のうち「上條アい一」が原告の有効投票なることは疑いない。その他いずれもが原告の氏名の四字中三字を正記している。右のうち「上條信一」なる投票については候補者中に「間庭信一」なるものがあるが、文字全体の近似性からいえば、「上条信一」は「上条愛一」の誤記と認めるべきであり、その余の名については候補者中に同一の名を有するものがない。これらはいずれも「上条愛一」の有効投票と認めるべきである。

(2) (イ)「カミジオアイチ」なる投票が前示甲表の(一〇)記載のとおり愛媛県新居浜市に一票ある。右票は「上条」を「カミジオ」、「愛一」を「アイチ」と片かなで二行に書いたものであることは明瞭であり、原告の有効投票である。

(ロ)「上じようふいいち」なる投票が、右甲表の(一一)記載のとおり松山市に一票ある。右は第五字、第八字が明瞭を欠くけれども、前者は「ふ」、後者は「ち」と読まれ、結局下四字は「ふいいち」と読まれる。しかして「ふ」は「あ」の誤記で「あいいち」と記載すべきを「ふいいち」と誤記したものとみるのが至当である。蓋し、その書体からおせば、かなも不自由な投票者が苦心して、辛うじて記載したものであることが窺われ、「ふ」と「あ」の誤記は字形が似ているので容易に考えられるからである。上四字は「上条」をかなまじりで書いたものであることは異論なく、右票は原告の有効投票とすべきものである。

(ハ)「かみじよーよいち」なる投票が前示乙表の(六)記載のとおり島根県江津市に一票ある。右票の第六字目は「よ」とあるも「あ」の誤記とみるべく、「あいち」の誤記であり、第五字目の「ー」は音を引き延した記載で「じよう」と書く代りに「じよー」としたもので、原告に投票したものであることは明らかである。

(ニ)「カミヂヨイチ」なる投票が右乙表の(七)記載のとおり長野県本城村に一票ある。右は原告の氏名を片かなで書き、名を「アイチ」と書くべきところを、「ア」をおとして「イチ」としたもので、原告の有効投票である。

(ホ)「かみじようしゆん一」なる投票が右乙表の(八)記載のとおり大牟田市に一票ある。右は名は原告の名と異るが、氏は正記され、名も「愛一」の「一」が記載されている。他にこれに近似する名の候補者はいないので原告の有効投票である。

(ヘ)「」なる投票が右甲表の(一二)記載のとおり松本市に一票ある。右の投票は文字があいまい、不明瞭であるが、字体が極めて拙劣なところからみると、かなも充分書けない者が、辛うじて原告の氏名を記したもので、涙ぐましい努力が感じられる。「」は「み」、「」は「う」の逆向き、「」は「あ」、「」は「い」の逆向き、「」は「ち」の誤記であることが明瞭である。投票者の真しな気持がくみとられる。かような投票はとうてい無効投票とすることはできない。

(3) 「かみじう栄一」なる投票が右甲表の(一三)記載のとおり松本市に一票、「かみじようゑいいち」なる投票が同表の(一四)記載のとおり伊勢市に一票、「カミジユエイ一」なる投票が同表の(一五)記載のとおり観音寺市に一票ある。右票のうち「カミジユ」は「上条」であり、「え」と「あ」は発音上混同し易いから、「栄一」は「愛一」「ゑいいち」「エイ一」は「あいいち」「アイ一」の誤記と認めるべきである。候補者中に「石川栄一」なる者がいるが「上条」と「石川」では何等近似性はなく、前記各票は「上条愛一」に投票したものと認めるべきである。

(4) 「上修かん一」なる投票が、右甲表の(一六)記載のとおり松本市に一票、「かみじようかんいち」なる投票が同表の(一七)記載のとおり同市に一票、「かみ上けん一ち」なる投票が、同表の(一八)記載のとおり延岡市に一票、「カミジヨーマサ一」なる投票が同表の(一九)記載のとおり右延岡市に一票ある。右各票中「上修」は「上條」の誤記であることは明瞭であり、「かん一」、「かんいち」は候補者中に「かん一」なる者がなく、「けん一ち」「マサ一」も同名の候補者がいないから「愛一」の誤記と認めるべきである。従つて前記各投票は原告の有効投票である。

(5) 「上條しやんいち」なる投票が右甲表の(二〇)記載のとおり岩国市に一票、「カミジヨウイイケ」なる投票が、同表の(二一)記載のとおり松本市に一票、「上じようしういち」なる投票が、同表の(二二)記載のとおり三原市に一票ある。右各票の名「しゆんいち」、「しういち」、「イイケ」は原告の名「愛一」の誤記である。したがつて、いずれも原告の有効投票である。

(十三)(1) 「あいじようえいいち」なる投票が右甲表の(二三)記載のとおり愛媛県小松町に一票ある。右票は原告の氏を誤り、名を誤記したもので、候補者中「石川栄一」なるものがいるが、その氏は全く異り、右票は「石川栄一」より「上条愛一」に近似する。名を「あいいち」と記載すべきを発音の近似より「あ」を「え」と誤記したものとみるべきであり、原告の有効投票とすべきである。

(2) 「アイジヨウアイイチ」なる投票が右乙表の(九)記載のとおり宮崎県西都町に一票ある。右票は原告の氏をかなで記載して誤記したものと認めるべきであり、他に右記載に類似する候補者はいないから、原告の有効投票である。

(3) 「かみしうあい」なる投票が右乙表の(一〇)記載のとおり長崎県美津島町に一票ある。右票は原告の氏をかなをもつて記載したが、その表現を不完全且つ誤記したものである。即ち、氏を「かみしう」、名を「あい」のみ記載し、「いち」をおとしたものである。従つて原告の有効投票である。

(4) 「ウエジヨウ受一」なる投票が右乙表の(一一)記載のとおり福井県高浜町に一票ある。右票は「上条」を「ウエジヨウ」と誤称記載し、「愛一」を「受一」と誤記したものであるから原告の有効投票である。

(5) 「紙上愛一郎」なる投票が右乙表の(一二)記載のとおり栃木県二宮町に一票ある。右票は「上条」を、同発音の「紙上」と記載し、「愛一」を「愛一郎」と誤記したものであり、且つ候補者中、これに近似する者は原告以外に居ないので、原告の有効投票とすべきである。

(6) 「上下綾一」なる投票が右甲表の(二四)記載のとおり松阪市に一票ある。右「綾一」は「愛一」の誤記と認めるべきである。「綾一」なる候補者はいない。「上下愛一」を有効とすると同様に右票も原告の有効投票となすべきである。

(7) 「上条一郎」なる投票が右甲表の(二五)記載のとおり市川市に一票ある。右票の第三字「」は「愛」の誤字である。原告の名を誤り「一郎」と記したもので原告の有効投票である。

(十四)「上愛」なる投票が前示目録甲表の(三二)記載のとおり敦賀市に一票、「愛上」なる投票が右甲表の(三三)記載のとおり彦根市、津市に各一票計二票、「愛條」なる投票が、右甲表の(三四)記載のとおり鈴鹿市及び延岡市に各一票計二票、「愛修」なる投票が右甲表の(三五)記載のとおり鯖江市に一票、「條上」なる投票が右甲表の(三六)記載のとおり松本市に一票、「アイ上」なる投票が、同表の(三七)記載のとおり香川県豊浜町に一票、「あいじよう」なる投票が、同表の(三八)記載のとおり貝塚市、倉敷市、及び延岡市に各一票計三票、「あいしよー」なる投票が同表の(三九)記載のとおり今治市に一票、「アイジヨー」なる投票が同表の(四〇)記載のとおり倉敷市に一票、「アイジヨー一」なる投票が同表の(四一)記載のとおり延岡市に一票ある。

右票はいずれも「上条愛一」の氏名中二字ないし三字又はこれに該当する部分を漢字又はかなで記しており(「修」は「條」の誤記である)原告の氏名の略記と認めるべきであり、且つ候補者中に右記載に類似する氏名の者がないからいずれも、原告の有効投票と認めるべきである。

(十五)「かみしようあいいち」の投票が別紙第四目録甲表(四二)記載のとおり京都市右京区に一票ある。同票は原告の氏名を平かなで正記している。ただ投票用紙の下部が少々破損しているため無効とされたものであろうが、文字には全然影響はなく、破損の程度も極めて僅少で、投票者が故意に破つたものとも思われず、右破損をもつて「成規の用紙を用いないもの」に該当するとなし得ないのはもちろんのこと、投票者の意思を否定することはできないから、原告の有効投票である。

(十六)「上条愛一」なる投票が別紙第四目録乙表(一七)及び(一八)記載のとおり大分市に一票、愛知県美浜町に一票、愛知県十四山村に二票、「かみじようあいち」なる投票が静岡県豊岡村に一票ある。右は全国区用紙を用いながら、地方区投票箱に入れたため無効とされたものであるが、本件選挙においては投票箱に全国区、地方区の法的な区別がなく、ただ便宜上の区別に過ぎないので、右各票は当然有効となすべきである。

第三、

しからば原告のためには、前記第二の一の(一)ないし(五)記載の按分票四三・七九三票、前記第二の二の(一)ないし(一六)記載の有効投票五三九票、合計六八二・七九三票が増加する結果原告の得票は合計二四一、三〇〇・六八八票になるのに対し、被告の得票は合計二四〇、七一一・五一八票に過ぎないから原告の方が被告より五八九・一七〇票だけ多くなる計算である。従つて本件参議院全国選出議員選挙における原告の得票順位は第五十二位となり、原告が被告に代つて任期三年の議員の補欠選挙における最下位当選人となるべきものである。

しかるに選挙会が被告を当選人と決定したのは違法であるから、その当選を無効とする旨の判決を求めるため、本訴請求に及んだものである。

第四、

被告の新な有効得票の主張に対して次のとおり主張した。

一、被告は「小西英雄」と記載した有効投票が四五票あると主張するけれども、そのうち他事記入が何票、投票箱を間違えたものが何票なのか、又何処の票を主張するのか不明である。判例上有効な他事記入、即ち君、殿、様等は既に有効票に算入されている筈であつて、ここにいう他事記入は、それ以外のものに相違なく、これらは当然無効である。投票箱を間違えたと称する票もその間違の態様が不明であるから有効との主張は理由がない。

二、「小西春雄」と記載のある一〇票は福岡市における無効投票であるが、本件選挙当時の福岡市長は、右と全く同氏名の「小西春雄」であつて、同市長は既に二回の市長選挙を経て、二回とも当選している同市での知名人であり、同市の投票に限り同氏の氏名と全く符合する右の記載が多数存する事実に徴すれば、右票は当時実在した「小西春雄」に投票する意思であつたものというべく、被告の有効投票とすることはできない。

三、「小西正雄」、「小西正男」、「小西正夫」、「小西英一」、「小西秀一」、「小西健一」、「小西健三」、「小西恭一」、「小西恭」、「小西恭次郎」、「小西寛」、「小西伊八」、「小西勉」、「小西秀逸」、「小西生衛」、「小西房吉」、「小西幸男」、「小西寅松」、「小西イチ子」、の各票は、氏は被告と同一であるが、名は全く異り、何等の近似性もなく、到底被告に投票したものとは考えられない。

小西なる氏は珍しい姓ではなく、且つ右各票の名も被告の名とは全く異るものであり、しかも本選挙の候補者中にも、「正雄」、「正夫」、「正男」、「政夫」、「英一」、「秀逸」等の名を有するものがあり、右各票は未だ被告を特定するに足りない。なお、京都市の各選挙区における検証票中に「小西恭一」「小西恭」、「小西秀次郎」なる投票及び「小西秀逸」なる投票があるが、本件選挙直前の昭和三十年四月の京都府議会議員選挙の候補者に「小西繁一」及び「小畠逸良」なる者があり、右各票は同人らに近似し、被告に対する投票とは考えられない。

また本件選挙当時大阪府選出代議士に「小西寅松」がいる。結局上記各票は、被告に投票したものとは認められず、被告の有効投票ということはできない。

四、「大西」なる氏は、被告の「小西」なる氏と「大」、「小」の相違がある上に、名の記載は全然ないのであるから、右票はまだもつて被告を特定するに足らず、被告の有効投票とは、いい得ない。氏が異る以上は、たとえ二つの氏に若干の近似性があるとしても、少くとも名も記載され、氏名全体において、被告の投票と特定せしめるものがなくてはならない。氏のみ記載し、しかもその氏が被告の氏と異る場合、これを被告の投票とはまだ言い得ないのである。

被告は「大西」の票二五七票を有効であると主張するが、そのうち、七二票は香川県における投票である。同県における被告の得票は一一、四二六票で被告の府県別得票順からいえば、第五位に過ぎないが、「大西」なる投票は断然他を圧して七二票と、ずば抜けて多く、実に総数の約三分の一近くが同県に集中している。かように甚しい偏在の理由は次の事情によるものである。即ち、本件選挙の直前の昭和三十年二月の衆議院議員に香川県から立候補し次点で落選した前代議士「大西禎夫」(得票三六九五五)がある。同県に「大西」なる投票の三分の一近くが集中したのは全く右「大西禎夫」のせいといわざるを得ない。被告の得票は、福島県一四、八三二票、福岡県一八、九七六票、熊本県一八、二六八票等で何れも香川県より多数でありながら、「大西」の票は福島県四票、福岡県三票、熊本県一〇票と極めて寥々たるものである。若し「大西」の票が被告のための投票ならば、被告の得票数の多い府県においてはそれに比例して「大西」の票も多く存してしかるべきである。

更に同県には前記衆議院議員選挙の立候補者に「小西正雄」(得票五、〇三八)があり、同人は被告とは名において僅か一字の相違あるに過ぎず、氏名が極めて近似している。かように近似し、被告と容易に混同を生ずる知名人が同県に存するにおいては、なおさら「大西」を被告の投票とはいえない。

高知県においては、「大西」の票は一一票存するが同県においても前記衆議院議員立候補者に「大西正男」(得票二二、四八六)があり、これまた同県に「大西」の票が多数存する原因をなしているものと思われる。同県の被告の票は僅に四、五一七票に過ぎない。

愛媛県にも同票が四〇票以上存するが、これも隣県の「大西禎夫」を始め「大西正男」なる知名人の影響と見ざるを得ない。且つ愛媛県は被告の得票四八、七〇三票で、全国第一の多数であり乍ら、遂に「大西」の票は香川県の半分程度に過ぎないことは、「大西」なる投票が被告のためのものに非ざることを知り得るものである。

兵庫県においても、前記衆議院議員に立候補して当選した「大西正道」代議士がおり、同県も「大西」票一〇票の多数を数えるが、これも同人に投票したものと思われる。同県の被告の得票は僅か四四七四票である。

五、「大西英雄」なる票は、被告の氏名と、氏において「大」「小」の相違があり、名においては、同一であるが、右が「大」「小」の相違のみだからといつて被告の氏名の誤記と速断することはできず、殊に前記のとおり、香川県に「大西禎夫」「小西正雄」、高知県に「大西正男」、兵庫県に「大西正道」などの本件選挙当時知名の代議士又は直前の衆議院議員立候補者が存し、いずれも氏名が右票に近似するのであるから、右票をもつて被告の有効投票と速断することはできない。

六、「大西英夫」、「大西英男」、「大西秀男」、「大西秀夫」、「大西秀雄」、の各票は、被告の氏名と氏において「大」「小」の相違があり、名においては同じく「ひでを」と読めるが、全部被告の名と字を異にする。しかも前記のとおり、香川県に「大西禎夫」「小西正雄」、高知県に「大西正男」、兵庫県に「大西正道」などの右票に近似する代議士若しくは衆議院議員候補者等の知名人があり、他方本件候補者の中にも「占部秀男」の如く「秀男」なる名を有する者があるから、前記各票は被告を特定したものと認め得ず、被告の有効投票となすことを得ない。

七、「中西」「仲西」なる投票は、被告の氏とは「小」と「中」の相違があり、しかも名の記載は全然ないのであるから、未だ被告を特定するには不充分であつて、被告の有効投票ということはできない。

八、「小川」、「小平」、「小原」、「小野」、「小林」、「小田」、「小杉」、「西田」、「小山」、「小橋」、「小沢」、「小出」、「小島」、「小谷」、「山口」、「中野」、「山田」、「小畑」、「小畠」、「小国」、「田中」、「田村」、「中村」の氏を冠し、名に「英雄」、「秀雄」、「英夫」、「秀夫」、「英男」、「秀男」、「英一」、等の名を記載した投票を被告の有効投票と主張するが、右各氏は被告の氏と全然近似性なく、且つ英雄以下の右列挙の各名も原告の「愛一」のような特殊性ある名とは異り、極めて一般的、普遍的な名で、被告を特定するにたるなんの特異性も有しない。従つて前示の各氏を冠し、前示の各名を配した各投票は、被告の氏名に近似性がないという点からも、又、被告を特定したと推察せしめ得るなにも存在しないという点からも、とうてい被告の有効投票といい得ない。

殊に本選挙の候補者中には、「小川」、「小平」、「小原」、「小野」、「小林」、「小田」、「小杉」、「山田」、「田中」、「中村」、の各氏を有する候補者がおり、名においても「秀男」、「正雄」、「正夫」、「正男」、「政夫」、「虎雄」、「俊夫」等類似の名を有する候補者が多数存するのであるから、前記各票が、被告に対する投票とはとうてい言い得ない。

九、以上の外被告の主張する他の投票も被告の氏名の誤記とは認められず、被告の有効投票とすることはできない。

(被告の答弁)

被告訴訟代理人は、「原告の請求を棄却する」との判決を求めて、次のとおり述べた。

第一、

原告主張の第一の事実はこれを認める。

第二、

一、原告は按分票であると主張するが、

(イ) 大和高田市における「上條愿」の有効投票中に含まれているその主張の二三票は、いづれも「上條」と氏のみを記載した投票である。本件選挙の候補者中に「上條」なる氏を有する候補者は「上條愿」の外にはない。

原告の氏は、「上条」であつて「上條」ではない。原告は、「上条愛一」たる氏名をもつて、立候補の届出をなし、選挙公報には「上条愛一」をもつて登載した。選挙人は「上条愛一」が侯補者であると同時に、「上條愛一」は別であることをも知るのである。「上條」と「上条」とは別の氏であつて同一の氏ではない。従つて、法第六十八条の二第一項の規定中「同一の氏の候補者が二人以上ある場合」には該当しない。現在の社会通念としては「條」は本字、「条」はその略字として普く通用している。しかし候補者が特に略字を避けて「上條愿」なる氏名をもつて立候補届をなし、選挙人において、これまた特に神経を働かせ、注意を払つて、「上條」なる公報の示すとおりの本字をもつて投票したものであるから、わざわざ特別の留意をもつて、本字の「上條」だけでも記載してあることにより、投票者の真意は「上條愿」に投票するものであると認めることができる。それでこそ投票者の真意に合し、その意思を尊重する所以を全うするとともに、前記法条の規定の全趣旨にも合致するものと信ずる。従つてこの点についての原告の主張は理由がない。

(ロ) 坂出市第二開票区における「上條愿」の有効投票中に含まれている「上條」なる氏のみの投票一五票につき、原告は按分主張の根拠を法第六十八条の二第一項の規定におくものであるが、既に被告が前記(イ)で主張したとおり、原告の主張は該法条の規定には該当しないから、原告の主張は理由はない。

(ハ) 岩国市における無効投票中の三票については、差戻前の検証調書添付の投票写真について検討すると、右無効投票三票はいづれも「上条」「カミジヨウ」の誤記とは認められない。上条なる先入意識を有するものならともかく、無心の第三者においては、投票の記載それ自体をみて、誤記だとは認め難い。原告は誤記であることを立証すべきである。原告の主張は主観的独断にすぎないから理由がない。

(ニ) 草津市における無効投票中に「上」なる一票があり、原告はこれを「上條」の誤記と認めるべきものと断定しているが、これは原告の独断であつて、客観的には誤記と認められない。仮りに原告主張のとおり「」を「條」の誤字であり、「上」は「上條」の誤記と認むべきであるとしても、「條」は原告の氏を構成する文字ではないから、「上」を原告に按分すべしとの主張は理由がない。被告は「上條」と「上条」とは別個の氏であることを主張し、既に(イ)において主張した。

(ホ) 大阪市都島区における無効投票中に「上條」なる一票があることは認めるが、「上條」なる投票は特に「上條」と記載してある点からして、「上條愿」を投票する意思の明白なものであることは、上段主張のとおりであるから、「上條」との一票を原告の有効投票とは認め難い。既に「上條」なる一票が原告「上条愛一」に投票する意思を有する選挙人によつて投票されたのではないから、原告のために按分する理由はないのである。

二、原告が単独有効投票と主張するものについて。

(一) 原告主張第二の二の(一)(「下条愛一」「下條愛一」)の主張について。

原告は投票写真「六-二-二」と「一五-二三-二」の二票を抽出して、これは最初「上条愛一」と正記しながら、投票者は「上」と「下」の記憶がはつきりせず、「下条愛一」の方が正しいと考え、「上」を抹消して「下」に訂正した経緯が判然としていると主張する。しかし、原告の右主張の前提をなすところの経騒則における妥当性、「上」と「下」の観念上の混同誤記性、原告の氏名「上条愛一」の四字中三字の正記の事情を、そのまま公職選挙法の広場に用いるところに無理がある。法六十七条は「第六十八条(無効投票)の規定に反しない限りにおいて」という制限を規定している。それであるからあくまで法の制限に従わなければならないのに原告はこれを無視している。

原告は、最初「上条愛一」と正記しながらという主張をしているが、これは原告の立場上、原告の利益に解釈する主観的独断である。投票者は初筆に候補者の氏の頭文字を「下」と記したのであつたが、何かの錯覚から「上」と誤記したことに気がついて、素朴に、「上」を抹消して「下」と訂正したものであると解するほうが妥当である。けだし、我国では、一般に対外対人関係においては、氏を用いることをもつて社会通念とし、氏を誤るというようなことはこれを非礼とし、氏を正しく用いることを常に念とする慣習がある。ましてや法第六十八条第六号は投票の自書を要件と規定している。自書能力を有する選挙人が、公職の候補者に投票するに当つては、先づ第一に、その投票せんとする候補者の氏の頭文字を初筆に書きおろすことにより、候補者の何人に投票するかの初志を端的に表示し明白にするのを常識とするからである。原告は投票者が「上」と「下」との記憶が、はつきりせず、「下条愛一」の方が正しいと考え、「上」を抹消して「下」と訂正した経緯が判然としていると主張するが被告はこれを否認する。原告の主張は原告の主観的独断によるところの経緯が判然としているというのであつて、これは結局するところ、いきさつ、事情を説明するだけに止まる。投票者が果して「下条愛一」の方が正しいと考えたかどうかは、投票者の意中のことであるから、何人も論証をなし得ないことであらう。

原告としては多数の票の中の偶然の唯二つのケースについて理由を具備し得ないままに、単なる事情を語るのに外ならない。普遍性も合理性も欠けている。要するに「訂正した事実」たる一つの客観的の現象について、原告も被告も投票者の心理(意中)を忖度し、推測し、思料するという以外に事情を闡明表現することのできる用語はないのである。従つて原告と被告の各意識構成の基礎をなすところの潜在意識が相異るのであるから、被告は原告の正記と記憶不明瞭の主張に反対するものである。

原告は、原告名「愛一」が明記されている以上「下条康麿」の有効投票と考え得ないのは勿論であるが「候補者の何人を記載したかを確認しがたいもの」とすることも不当であると主張するが、被告は、右主張は失当であると断定する。原告は投票の「上」を抹消して「下」と訂正した事実を認める以上、訂正と同時に氏の「上条」は抹消され、「下」は「条」の字と結びついて「下条」となつたことも認めるべきである。原告は氏の記載は「下条康麿」の「下条」に一致することを認めている。氏の一致ということは、即ち、「下条」そのものということを認めたのである。原告は氏が「下条」に一致するからといつても、原告の名「愛一」が明記されている以上、「下条康麿」の有効投票と考え得られないのは勿論であると断言している。然らば原告は、(1) 訂正後には「上条」という氏の存在しないこと、(2) 訂正後には、「下条」という氏が存在していること、(3) 訂正後には「下条」なる氏と「愛一」なる名とが、結びついて「下条愛一」という一種特別の投票を形成して存在していること、(4) しかも「愛一」なる名は依然として原告自身の名であることには何の変りはないという事実を認めるべきであり、これを認める以上は、たとえ、原告の名「愛一」が明記してあるにしても、「下条」という氏が記載されているのであるから、これを「上条愛一」の有効投票と考え得ないと結論しなければならない。かように結論してこそ、論理の必然性が充たされるのであるとともに、原告の主張する論理も前後一貫するものである。しかるに、原告は自ら主張する論理の軌道から離脱して、あたかも、顧みて他を言うが如く、「候補者の何人を記載したかを確認し難いもの」とすることも不当であると断言している。これは条理が通らない主張である。被告が「下条愛一」なる投票を一種特別の投票と称する所以はその投票が「下条康麿」の有効投票となし得ないばかりでなく、又「上条愛一」の有効投票ともなし得ないからである。法第六十八条の規定のうちの第一号により公職の候補者でないものの氏名を記載したもの、第七号により候補者の何人を記載したかを確認し難いもの、第三号により一投票中に二人以上の公職の候補者の氏名を記載したもののいずれかに該当することにより、無効の投票にされるからである。原告が「候補者の何人を記載したかを確認し難いものとすることは不当である」と主張するのも、それは原告の氏名四字中三字正記という偶像――幻影が原告の潜在意識に作用して、そのように妄想させるに過ぎない。若し原告の名「愛一」が明記されているという一事のみをもつてしては、他の候補者下条康麿の存在を無視し得る場合にのみ、候補者の何人を記載したか確認し難いものとすることの不当を主張し得るであろうが、既に原告において候補者「下条康麿」の存在を認めているからには、「上条愛一」「下条康麿」のうち、いずれの候補者を記載したかを確認し難いものとすること以外に処置がない。これをしも原告は不当であると断言しているが、被告はそれは筋が通らぬことで失当であると主張する。

原告は前記の各票は原告に投票する意思の明白なものであつて「上条愛一」の誤記と考えるのが至当であつて、文字全体の近似性からいつても、原告の「上条愛一」に投票したものであることは疑を容れる余地がなく、法第六十七条の趣旨を体して、前記各票は「上条愛一」に投票する意思が明白に推測できるものであるから、すべて原告の有効投票とすべきであると主張するが、そうではない。

(1)  被告は、事いやしくも、公職の選挙に関する限り、法に準拠すべきこと、選挙にあつては、原告は自己が候補者であることを知るとともに、他の候補者の立つていることを知ることを要し、利、不利の関係を公平に負担するのでなければ、公明選挙はあり得ないのである。

(2)  被告は原告の氏名四字が記載されていた投票すらも、氏の頭文字の一字「上」が「下」と訂正された前記「六-二-二」と「一五-二三-二」の二票の具体的ケースにおいて訂正した後は、候補者の何人を記載したかを確認し難いものとせざるを得ない。

(3)  被告の投票の絶体性を主張する。法第五十二条は、「何人も選挙人の投票した被選挙人の氏名を陳述する義務はない」旨規定している。投票者が成規の用紙に記載した被選挙人への氏名こそは、投票者自身が真に書いた筆跡即ち真筆又は真跡というものであつて、これ以外に投票者の意思を確知し得る手段も方法もない。抽出の各票のうち、投票写真の存在するもの(新検番号のものを除く)を照合するに、投票者は最初から「下條愛一」「下條愛一」と記載している。しかも各票はいづれも雄勁な筆力をもつて、何の逡巡遅疑することなく、堂々と投票者の真意が、「下条愛一」「下條愛一」という表現において真筆の跡が示されている。かように投票されている一〇四票について、下条の氏の頭字である「下」の一字は上条の氏の頭文字である「上」の一字の誤記であると考えるのが至当であるとか、「上条愛一」なる文字全体の「下条愛一」との近似性からしても、「上条愛一」に投票したものであることは疑を容れないとか、「下条愛一」は「上条愛一」の三文字と符合するの故をもつて、原告に投票する意思の明白なものであると断定する原告のこの種の断定は、その概念を分折して事理を研究し、弁別して証明することが不可能であり、いずれも原告の独断か独自の見解としか考えられず、その信憑性と真実性のないものである。

(4)  原告は前記各投票は原告に投票する意思が明白なものであり、「上条愛一」の誤記と考えるのが至当であると主張し、法第六十七条の規定を援用して、投票は投票者の意思を尊重してなるべく有効とするようにしなければならないとも主張しながら、最後において、各票は「上条愛一」に投票する意思が明白に推測できるのであるというように、その表現の内容を変更し断定を緩和して推測できるという程度に改め、認識の混迷と論理の矛盾を曝露したのである。被告は原告の断定も推測可能性もともに否定する。

(5)  原告は法第六十七条を援用するが、同法条は無条件で、投票は投票者の意思を尊重して、なるべく有効とするようにしなければならないとは規定していない。その法条の規定からは、次の二つの条件(制約)が厳として存在することを知らなければならない。即ち「法第六十八条(無効投票)に反しない限りにおいて」ということと、「その投票した選挙人の意思が明白であれば」ということがそれである。しかもこの二つの条件は、同時に具備することが必要である。「その投票した選挙人の意思が明白であれば」と規定し、「明白であらば」とは規定していないし、又「明白に推測できる場合」を規定していない。原告主張する「推測できる」というだけでは、法第六十七条の規定を援用するに由ないのである。その投票した選挙人の意思が明白に推測できるものであるという原告の推測なるものは、原告の立場から原告に有利になるように、その投票した選挙人の意思を忖度(推測)する以外の何ものでもない。推測できるというのである限り右法条に該当しない。

(6)  原告は「下条愛一」と「上条愛一」との相違は一字であり、その一字である「上」と「下」の字は観念上から極めて混同誤記を生じ易く、「上」と「下」と取り違えることは通常容易に考え得られることであると主張するが、その一字が重大な結果をもたらすから、法を標準としてのみ、事実を考察、検討することを要し、常識をもつて律することの危険を避くべきであることに思を致さなければならない。

原告は「下条愛一」なる投票は「上条」の誤記であるから原告の有効投票とすべきであると主張するが、候補者下条康麿は「下条」は自分の氏であると主張し、「上条」の誤記説を否認するのである。投票を客観的に検討すれば、その記載する文字が「下条」であることによつて候補者下条の氏であることを確認できるが、原告上条愛一は何を挙証資料として「下」が「上」の誤記であることを立証し得るか、立証の根拠となし得るものは、その投票に記載のある「愛一」の名のみである。

それだから「下条愛一」なる投票は、一種特別のものであつて、候補者二人の氏と名の混記とするか、候補者の何人を記載したかを確認し難いものとするか、候補者でないものの氏名を記載したものとするかのいづれかのもので、いづれの点からしても、無効投票と決定すべき投票(法第六十八条参照)である。この点からしても「下条愛一」の票は法第六十七条の適用を受けることに該当しない。ただの一字が、かくの如く重大な結果を示すものである。投票における氏の頭の一字は、もつて、投票の有効か無効かを決する重大なものである。推測できる程度の判断をもつて「下」は「上」の誤記であるとし、「下条愛一」なるすべての票を、原告の有効投票とすることはできない。推測はあくまで原告の忖度であり、主観的独断である。論証は不可能である。誤記を理由として右の投票全部を原告の有効投票と認めるべきであるとの原告の主張は全く理由がない。

(二) 原告主張、第二の二の(二)(「下条愛一」外)の主張について。

原告の抽出している各票は、「下条愛一」の一部又は全部を片かな、又は平かなをもつて記したもので、候補者「下条康麿」の氏と原告の名とを混記したものと認め得られるが、「上」と「下」と混同誤記したことを肯定するに足る根拠がない。候補者二名の氏名の混記は、法第六十八条第七号により無効である。誤記説に対する被告の主張は既に(一)において詳述している。被告はこれを原告の有効投票と認めることに反対する。

(三) 原告主張の第二の二の(三)(「下篠愛一」外)の主張について。

「下篠」、「下」、「下修」、「下」の各票について「條」の字は誤記であることが認められるが、同時に「下條愛一」なる一種特別の投票を形成することも認められる。被告は「下」は「上」の誤記なりとする理由をもつて原告の有効投票とすることに反対する。その詳細は(一)において陳述したとおりである。

(四) 原告主張の第二の二の(四)(「中条愛一」外)の主張について。

「中条愛一」(岩国市及延岡市)「西条愛一」(防府市)「川条愛一」(四日市市)の各票が原告主張のとおり、原告の有効投票とすることを認める。「三条アイイチ」「さんじよあいいち」「さんじよあい一ち」「さんじようあいいち」の投票については、原告の氏名中三字に相当する部分を正記していること、及び「三条」「さんじよう」なる者が候補者中に存しないということからでは、原告「上条愛一」の誤記であるとは認められない。

(五) 原告主張第二の二の(五)(「上下愛一」外)の主張について。

「上愛一」の一票を原告の有効投票とすることは認めるけれども、「上下愛一」の投票「下上愛一」(市川市、観音寺市)「山下愛一」(岩国市)の各票は、原告の名は正記しているが、文字全体の近似性の感応度は弱く、「上条」の誤記とは認められないから、原告の有効投票ではない。

(六) 原告主張の第二の二の(七)(「北條愛一」外)の主張について。

原告主張の「北條アイ一」、「ほうじようあいいち」(岡山市)「ほうじようあい一」、「きたじようあいいち」、なる各票について、候補者中に「北条雋八」なる者がおり、その「北条」の氏と、原告の名「愛一」が混記され一種特別の投票を形成しているのである。かかる特別の投票の無効なることについては(一)に詳述しているとおりであり、原告の主張は理由がない。「北愛一」「条愛一」「」「北愛一」「北條受一」、「北条一」の各票について、被告は、原告主張のとおり「北条愛一」と記載しようとして誤字を書いたものであることは認める。しかし、既に「北条愛一」と読めるからには「北条」が候補者「北条雋八」の氏であるので、原告の名との混記であることを認めなければならない。詳細既述しているとおり、被告は原告のこの点についての主張を否認する。

(七) 原告主張の第二の二の(八)(「川上愛一」外)の主張について。

原告主張の「川上愛一」及び「河上愛一」の票は原告の名「愛一」を正記し、氏として候補者「川上嘉」なる者の氏を書いたものと認められる。「川上」なる氏が明記されている以上、候補者二名の混記であつて、一種特別の投票を形成している。この一種特別の投票の無効であることは前述のとおりであつて、被告は右投票を原告の有効投票と認めることはできない。「川上あい一」、「川上あい一ち」、「川上あいち」なる投票についても同一理由をもつて無効とすべきものと考える。原告の有効投票と認めるべきではない。

(八) 原告主張第二の二の(一〇)(「愛一」外)の主張について。

原告主張の「あ一」「一」「受一」なる投票はいづれも原告の名さえ正記していないばかりか、各投票の筆跡を検証写真に照合しても原告の名の誤記なりとは認められない。従つて右各票は原告の有効投票と認めることはできない。

(九) 原告主張第二の二の(一二)(1) (「上條重一」外)の主張について。

「上條重一」(岩国市)、「上條友一」、「上條一」(松本市、敦賀市、)「上條要一」、「上條安一」、「上條真一」、「上條正一」の各票は候補者「上條愿」の氏を明記しているから、原告の氏である「上条」の誤記であることは認め難い。又「上條信一」の投票は「信一」なる名が候補者「間庭信一」の名と同じであるから、「上條愿」と「間庭信一」の二人の候補者の氏名の混記である。従つて候補者の何人を記載したかを確認し難い、(法第六十八条第七号参照)一種特別の投票を形成しているものとして無効である。しかし「上条敬一」なる投票は愛敬なる用語例から誤記し易い場合もあり得るので、被告においてもこの票を原告の有効投票と認める。

(十) 原告主張第二の二の(一二)、(2) 、(ヘ)の主張について。

原告主張の右投票は被告においても、原告の有効投票とすることを認める。

(十一) 原告主張第二の二の(一二)の(3) 、「かみじう栄一」外)の主張について。

「かみじう栄一」、「かみじようゑいいち」、「カミジユエイ一」の各票については、候補者中に「石川栄一」なる者がいるから、その「栄一」なる名と原告の「上条」なる氏とが混記されて、一種特別の投票を作り上げている。「栄一」、「ゑいいち」、「エイ一」と明記されてあるものを、「愛一」の誤記であるとこじつけることは無理である。この特殊票が無効であることは既に陳述したとおりである。

(十二) 原告主張の第二の二の(一四)(4) (「上修かん一」外)の主張について。

「上修かん一」の「上修」は「上條」の誤記であるとしても、候補者中には「上条愿」なるものがいるのであり、又「かみじようかんいち」、「かみ上けん一」「カミジヨーマサ一」における「かんいち」、「けん一ち」、「マサ一」は「かん一」とともに候補者中に同名のものがないからという理由だけで、これらの四種の名が原告の名である「愛一」の誤記とは認められない。被告は原告の有効投票であるとの原告の断定を否認する。

(十三) 原告主張の第二の二の(一四)(「上愛」外)の主張について。

「上愛」(敦賀市)の投票は差戻前の検証写真(三-五-二)に照合すると、他事記載がある。「愛修」の「修」が「條」の書損とみても、「條上」とともに「條」は原告の氏の字ではない。「アイしよー」(あいしよーの誤記と認められる)の「しよー」は原告の氏にも名にもこれに符合する字がない。従つて「愛」「上」「アイ」(「あい」の誤記と認められること前と同様である。)をもつてしては、原告の氏名を表現する略字であるとは認められない。その他「愛上」、「愛条」「アイ上」、「あいじよう」「アイジヨー」「アイジヨー一」の各票は、票に記載されている原告の名と氏の字の組合せ(結びつき)による形が視覚に映ずる感じ、又その音読による響(調子)が聴覚に反応する感じなどを綜合して、原告の氏と名の各一字を取つて呼称する類例の範疇に含まれる性質を備えているとは言い得ない。且つ候補者中に類似の氏名の者がないからといつて、その記載自体が原告の氏名の略記と認むべき筋合のものとは認められないから、原告の有効投票とはいえない。

第三、

従つて原告主張の投票中原告の有効投票と認められるものは僅かに七票にすぎず、その余はすべて原告の票として加算し難いものである。

第四、

(一)  仮りに原告の得票数が若干増加したとしても被告は当選決定当時における得票数が既に二四〇、七一一票であるうえ、無効投票とされた投票中には別紙第五ないし第八目録甲乙表および第九目録記載のとおりの各市町村及び区選挙管理委員会において、同記載のとおり記載内容を有する投票がそれぞれ該当欄記載のとおり合計九〇九票存在している。以上の各票はすべて、被告の有効投票と認めるべきである。

(二)  そのうち主要なものについて説明すれば、

1.「小西英雄」なる投票は有効である。

また、全国区の用紙を用いて地方区の投票箱に投入した票も有効である。けだし、投票箱を全国区と地方区に分けたとしても、それは投票係員の事務処理の便宜のために過ぎないのであつて、全国区投票用紙に有効に記載した票を地方区投票箱に投入したからといつて無効にすべき理由はない。法の規定がそのような趣旨とすれば、それは国民の選挙権の行使を害するものであり、憲法第十五条に反する。

次に他事記載ありとして無効とした票については何れもこれは投票の効力を害しないものであつてこれらを無効としたのは違法である。

2.「小西英夫」なる投票は被告のものとして有効である。これは「こにしひでお」の発音に従つて漢字を記載したもので「雄」は「お」と発音し、「夫」もおと発音する。

3.「小西英男」なる投票は、被告のものとして有効である。「こにしひでお」を示すため、同じ発音の漢字を用いたもので、「男」は「お」と発音する。

4.「小西秀雄」なる投票は有効である。「英」は「ひで」と発音するので、同じく「ひで」と発音する「秀」によつて、「こにしひでお」を表わしたものである。

5.「小西秀夫」なる投票は被告のものとして有効である。「秀夫」は「ひでお」と発音し、「こにしひでお」を示すものである。

6.「川西」なる投票は、「小西」と読むべきものであるから、被告を被選挙人とする有効なものである。

7.「川西英雄」なる投票は、6と同じ理由で、「小西英雄」の有効投票である。

8.「大西」なる投票は被告の投票として有効である。「小西英雄」の「小」は「こ」とも読むし、「お」とも読む。即ち「こにし」とも「おにし」ともいうわけである。そして「お」と読むときは、次に発音する「にし」との発音関聯のうえで「おー」と引いて次の「にし」に続ける傾向がある。そして「おーにし」と発音し、それが「小西英雄」を示すのに「大西」の字を用いるわけである。

9.「大西英雄」なる投票は被告の投票として有効である。これも8で述べたように、被告の氏「小西」の「小」を「おー」というため、「大西英雄」と表現したものである。

10.「大西英夫」、「大西英男」、「大西秀雄」。「大西秀男」。「大西秀夫」なる投票も被告の投票として有効である。いづれも8.9.で説明したように被告を示す票である。

11.「中西」。「小西」の「小」は草書にすると「中」というようになり「中」と紛らはしくなる。それで「中西」と見易いこと。又「小」は「大、中、小」の対句をなす文字なので「小」を度忘れすると「中」で、又は「大」で間に合せるわけであつて、「大西」と「中西」があるのはいづれも被告を示したものであるから、右各投票は被告の有効投票である。

12.「中西英雄」。「中西秀夫」。も前同様の理由で被告の有効投票である。

13.「コニヒ」。なる投票も、「小西」の投票であるから、被告の投票として有効である。「シ」を「ヒ」と発音する人があり、「コニシ」を文字で書くと「コニヒ」となつてしまうのである。「質屋」は「シチヤ」と書く人と「ヒチヤ」と書く人とがある。「コニヒ」とは「質屋」を「ヒチヤ」と書く人が「小西」に投票したので起つたことであり被告に対する有効票である。

14.本件全国区候補者には「小西」、「大西」、「中西」なる姓のものはないから、これらの各票はいづれも被告を指した投票として、有効なものである。

(証拠)

第一、原告訴訟代理人は甲第一号証、同第二号証の一ないし五、同第三号証、同第四号証の一ないし十、同第五ないし第十二号証、同第十三号証の一ないし四、同第十四号証の一、二を提出し、差戻前及び差戻後の各検証、(以下第一回検証第二回検証と略称する)の結果並びに別紙第一ないし第四目録の乙表記載の各選挙管理委員会からの調査嘱託の結果を援用し、乙号各証の成立は不知と述べた。

第二、被告訴訟代理人は、乙第一ないし第六十四号証を提出し、差戻後の検証(第二回検証)の結果並びに別紙第五ないし第八目録の乙表記載の各選挙管理委員会からの調査嘱託の結果を援用し、甲第四号証の一ないし十、同第七号証、同第八号証の成立は不知、その余の甲号各証の成立は認めると述べた。

理由

第一原告が昭和三十一年七月八日施行の参議院全国選出議員選挙(改選される任期六年の議員五十名及び任期三年の補欠議員二名の選挙 以下本件選挙という)に立候補し、右選挙の結果、得票数、二四〇、六一七・八九五票をもつて得票順位第五十三位となり、次点となつて当選を得なかつたものであり、被告が本件選挙において、同様立候補をなし得票数二四〇、七一一・五一八票をもつて得票順位第五十二位となり、前記補欠議員の選挙における最下位当選者となつた者であつて、同月十九日の選挙会において、その旨決定せられ、翌二十日その当選人の告示が行われたことは、当事者間に争のないところである。

第二原告は、右の外に原告の有効投票があると主張するので判断する。

一、請求原因第二の一に主張する各按分票の効力について。

(一)  差戻前の昭和三十一年十二月二十二日の検証(以下第一回検証という)の結果によれば、大和高田市において候補者上条愿の有効投票とした二六票中には、「上條」とのみ記載した投票が一七票(第一回検証調書添付写真-以下第一回写真という-の一一-一-二、一一-一-三、一一-一-四、一一-一-七、一一-一-九、一一-一-一〇、一一-一-一一、一一-一-一四、一一-一-一五、一一-一-一六、一一-一七、一一-一-一八、一一-一-一九、一一-一-二〇、一一-一-二一、一一-一-二三)「上修」と記載した投票が二票(第一回写真一一-一-五一一-一-一二、)「上條」と記載した投票が一票(第一回写真一一-一-八)、「上篠」と記載した投票が一票(第一回写真一一-一-一三)「上修」と記載した投票が一票(第一回写真一一-一-二二)「上蓚」と記載した投票が一票(第一回写真一一-一-二四)を含んでいることが認められる。そして右各記載は、「上條」に字形が近似して、誤記し易いものであり、成立に争のない甲第一号証によれば、本件選挙の候補者の中には右記載のような氏、名の候補者は認められず(以下候補者の氏名及び存否の認定については、特に記載のない限り右甲第一号証により認定したものであるが、煩をさけるために、一々記載するのを省略する)、他に特段の事情の認められない本件においては、いずれも「上條」の誤記と認めるのを相当とする。したがつて右六票はいずれも「上條」と記載してある投票としてその効力を判断するのが相当である。

本件選挙に、被告主張のように、原告が立候補届出をなすに当り、その氏を「上条」として届出で、選挙公報にも同様「上条」と記載され、他方上條愿がその氏を「上條」として届出で、選挙公報にも同様「上條」と記載されていることは、原告も明かに争わないところである。しかしながら「條」と「条」とは、元来前者は正字、後者は略字であるといわれ、従つて厳密にいえば、氏については「條」と「条」とは異る氏を示すものとされ、少くとも正確な氏を記載しない批難を受けるが、昭和二十一年十一月十六日内閣訓令第七号当用漢字表の実施に関する件及び同日内閣告示第三十二号現代国語を書きあらわすために日常使用する漢字の範囲(当用漢字表)による漢字制限の結果「条」は「條」の当用漢字として、「條」と記載すべきところを「条」と記載することが奨励せられ、一般にはもちろん、公用文書においても「條」を用うべき場合に「条」を用いることが行われるに至つたことは公知の事実であり、したがつて、人の氏を表示する場合でも、次第に「條」と「条」の区別なく用いられ、ことさら人に疑念を懐かれることもなく又批難もなされない実情になつたことは明らかである。そのため、一般には氏についても、「上條」と「上条」、「下條」と「下条」、「北條」と「北条」等、すべて「條」又は「条」の字を含む氏を記載するに当つて、「條」と記載すべきか、或は「条」を用うべきかについて、深く注意を払う必要がなくなり、従つて又、このような顧慮を払わなくなつたものといえる。このことは各成立に争のない甲第二号証の一(大和高田市における開票録)及び同号証の四(草津市における開票録)の記載によれば、現に本件選挙の開票録を作成するに当つて、候補者「上條愿」を表示するのに「上条愿」と記載していることが認められるところである。従つて、「上条」と記載してあるからといつて、それは「上條」という氏の人を表示するものではないといえないと同時に、「上條」と記載してあつても、同様「上条」という氏の人を表示するものでないともいえないものである。従つて、本件選挙においても「上條」と記載した投票が「上條愿」に対する投票であり、「上条」と記載した投票のみか原告「上条」の投票であるとは認めることができない。殊に各成立に争のない甲第三号証、同第四号証の一ないし十、同第五ないし第八号証によれば、原告の戸籍面上の氏は「上條」であり、同人に対する信書、乗車優待証、歳費明細書には「上條」なる氏の記載があり、原告の自ら使用する名剌に記載した氏の表示も「上條」と記載され、原告は通常その氏名を「上條愛一」として使用していたことが認められるから、「上條」又は「上条」と記載された投票は、原告「上条愛一」を指称するものとなし得ると同時に、侯補者上條「愿」のための投票ともなり得るもの(原告は「上条」と表示された投票が、候補者上條愿のための投票ともなり得るものであることを自認している。)といわなければならない。

もつとも、前掲甲第一号証、同第二号証の一及び四、各成立に争のない甲第二号証の二、三、及び五によれば、本件選挙「開票結果集計」及び「開票録」には原告を表示するについて「上条」と記載してあることが認められるけれども、既に説示したところに徴すれば、原告の届出名が「上条愛一」であつて、他に候補者「上條愿」が存在しても、尚本件においては「上条」と「上條」とは法第六十八条の二第一項にいう、「同一の氏」に該当するものと認めるのを相当とし、特段の事情の認められない本件においては、前記各票をもつて、被告主張のように、特に投票者において神経を働かせ注意を払つて、公報の示すとおり投票する意図を有していたものとは認め難いから、「上條」と記載した投票は、原告をも指称し、原告及び「上條愿」の氏のみを記載したものとして、これを有効とし、同条第二項の規定に従つて、原告にも按分加算すべきもので、「上條愿」の単独有効票とは解し難い。

しからば、前記二三票は原告と候補者上條愿とにこれを按分すべきところ、前記甲第二号証の一の記載によれば大和高田市における開票の結果、按分すべき票は一〇票で、按分の基礎となる得票は、原告が七二五票、上條愿が二六票であり、按分の結果得票数合計は原告が七三四・六五三票、上條愿が二六・三四六票となつていることが認められるが、前示説示に照せば按分すべき票は前記二三票を加えた三三票となり、按分の基礎となるべき得票は原告が七二五票、上條愿が三票となるから按分の結果得票合計は原告が七五七・八六四票、上條愿が三・一三五票となり原告の得票は前記開票録の記載よりも二三・二一一票の増加となることは計数上明らかである。

(二)  第一回検証の結果によれば坂出市第二開票区における候補者上條愿の有効投票一九票中には「上條」なる氏のみを記載した投票一一票(第一回写真一二-一-二、一二-一-四、一二-一-五、一二-一-六、一二-一-七、一二-一-九、一二-一-一〇、一二-一-一一、一二-一-一二、一二-一-一四、一二-一-一五)「上條」と記載した投票二票(第一回写真一二-一-三、一二-一-一六)及び「上篠」と記載した投票二票(一二-一-八、一二-一-一三)があることが認められる。「上條」及び「上篠」と記載した投票は既に判示したところと同様の理由により、「上條」の誤記と認めるのを相当とするから、これらの四票はいずれも「上條」と記載した投票としてその効力を判断するを相当とする。この一五票は前段に判示したと同一の理由によつて、原告と「上條愿」とに按分して計算すべきところ、前記甲第二号証の二の記載によれば、坂出市第二開票区における開票の結果按分すべき票は一七票で、按分の基礎となる得票は、原告が二五二票、上條愿が一九票であるから、按分の結果、得票数の合計は原告が二六七・八〇八票、上條愿が二〇・一九一票となつていることが認められるけれども、前記判示に照せば按分すべき票は前記一五票を加えた三二票となり、従つて、按分の基礎となるべき票は原告が二五二票上條愿が四票となるから、按分の結果、得票数合計は原告が二八三・五〇〇票上條愿が四・五〇〇票となり、原告の得票は前記開票録の記載よりも一五・六九二票の増加となることは計数上明白である。

(三)  第一回検証の結果によれば、岩国市における無効投票中には「上」なる投票一票(第一回写真一-二-三)「上修」なる投票一票(第一回写真一-九-二)、「カミリヨウ」なる投票一票(第一回写真一-一四-七)があることが認められる。そして右の各票は既に判示したところと同様の理由によつて、「上条」「上條」「カミジヨウ」の誤記と認めるのを相当とするから、いずれも原告と「上條愿」とに按分すべきものというべきところ、前掲甲第二号証の三の記載によれば、岩国市における開票の結果によれば、按分すべき票は一〇八票で、按分の基礎となる得票は原告が二、八四六票、上條愿が四八票であり、按分の結果は、得票数合計、原告が二九五二・二〇八票、上條愿が四九・七九一票となつていることが認められる。けれども前示判示に照せば、按分すべき票は前記三票を加えた一一一票となり、従つて開票録記載の按分の基礎となる得票に応じて按分した結果、得票数合計は原告が二、九五五・一五八票、上條愿が四九・八四一票となり、原告の得票は前記開票録の記載よりも二・九五〇票増加となることは計数上明かである。

(四)  第一回検証の結果によれば、草津市における無効投票中には「上」なる投票一票(第一回写真五-二-二)があることが明らかである。右は「上條」の誤記と認めるを相当とすることは既に判示したところと同様の理由によつて明かであるから、これを「上條」と記載した投票としてその効力を判断するを相当とする。従つて、また上段判示したところに照し、原告と上條愿とに按分すべきものというべきところ、前記甲第二号証の四の記載によれば、草津市における開票の結果、按分すべき票は二五票で按分の基礎となる得票は原告が三七三票、上條愿が一四票であり、按分の結果、得票数合計は原告が三九七・〇九五票上條愿が一四・九〇四票となつていることが認められるけれども、前記判示に照せば、按分すべき票は前記一票を加えた二六票となるから、開票録記載の按分の基礎となる得票に応じて按分した結果、得票数合計は、原告が三九八・〇五九票、上條愿が一四・九四〇票となり、原告の得票は前記開票録の記載よりも〇、九六四票の増加となることは計数上明かである。

(五)  第一回検証の結果によれば、大阪市都島区における無効投票中には「上條」なる投票一票(第一回写真三五-二-二)のあることが認められる。しかして既に判示したところに照せば、右票はこれを原告と上條愿とに按分すべきものというべきところ、前掲甲第二号証の五の記載によれば大阪市都島区における開票の結果、按分すべき票は五三票で、按分の基礎となる得票は、原告が一一六八票、上條愿が二九票であり按分の結果、得票数合計は原告が一二一九・七一五票、上條愿が三〇・二八四票となつていることが認められる。けれども、前記判示したところに従えば、按分すべき票は前記一票を加えた五四票となるから、右開票録記載の按分の基礎となる得票数に応じて按分した結果、得票数合計は原告が一、二二〇・六九一票、上條愿が三〇・三〇八票となり前記開票録の記載より〇、七九六票の増加となることは計数上明かである。

従つて以上(一)ないし(五)による原告の得票増加は合計四三・七九三票となる。

二、請求原因第二の二に主張する票について。

(一)  「下條愛一」。「下条愛一」。

第一回検証及び差戻後の昭和三十三年八月五日から八月十二日までの各検証(以下第二回検証と略称する)の結果によれば「下條愛一」と記載された投票が原告主張の票中別紙第一目録甲表の(一)記載の各選挙管理委員会(以下委員会名のみで呼ぶ)における無効投票中にそれぞれ該当欄記載(但し(1) のうち二票、(13)のうち一票、(21)のうち一票を除く)の票数(第一回写真一-一-三、一-一-六、一-一-八、一-一-一一、一-六-二、一-六-三、一-六-六、一-六-七、一-六-一〇、一-一四-五、一-一四-八、一-一四-一一、一-一四-一二、一-一四-一四、一-一四-一六、一-一四-一八、一-一四-一九、二-一-五、二-一-六、二-二-三、二-二-四、二-四-三、三-四-四、二-六-二、二-六-四、三-四-四、五-二-三、六-二-二、七-一-二、七-一-八、七-一-九、七-一-一一、八-二-二、九-三-二、一三-一-二、一五-一一-二、一五-一九-二、一五-二三-二、一五-三三-二、一六-一-三、一六-二-二、一七-三-四、一七-三-七、一八-二-三、二一-一-三、二一-二-二、二二-二-二、二六-五-三、二六-五-四、二七-四-二、三〇-四-三、三〇-六-二、三三-二-二、四〇-三-二、四三-八-五、四三-八-七、四三-九-七、四三-一〇-二、四三-一〇-三、新甲3の3同4の4、同8の1、同9の8)が合計六三票あることが認められ、後記各市町村の調査嘱託の結果によれば更に別紙第一目録乙表(一)記載の各市町村(但(15)及び(55)を除く)における無効投票中に該当欄記載の票数(右各市町村回答)計一三五票あることが認められる。更に原告主張の票中別紙第一目録甲表中(1) の二票同(13)中の一票及び(21)中の一票はそれぞれ「下愛一」、「下愛一」及び「下愛一」と記載されているが、右の「」又は「」なる文字はなく、その記載が「下條愛一」と近似しているので「下條愛一」の誤記と認めるのを相当とし、別紙第一目録乙表の(15)及び(55)は「下条愛一」と記載されていることが認められる。

次に「下条愛一」と記載された投票が、原告主張の投票中、別紙第一目録甲表の(二)記載の各市町村の無効投票中に該当欄記載のとおり(第一回写真一-一-四、一-一-七、一-一-一二、一-六-九、一-六-一一、一-一〇-三、一-一四-六、一-一四-三、一-一四-一五、一-一四-一七、一-一四-二〇、一-一四-二一、二-一-二、二-一-三、二-一-四、二-二-二、二-三-二、二-六-三、三-三-二、三-三-三、三-六-二、四-一-三、五-二-四、六-一-二、七-一-三、七-一-四、七-一-六、七-一七、七-一-一二、一五-二-三、一五-七-二、一七-三-五、一八-七-二、一九-二-二、二一-一-二、二一-四-二、二二-一-二、二六-六-二、三〇-一-二、三〇-四-二、三一-二-二、三一-五-二、四三-五-二、新甲9の5同9の6、同9の7)合計四六票あることが認められ、別紙第一目録乙表(二)記載の各市町村における無効投票中にそれぞれ該当欄記載の票数(右市町村回答)合計八三票あることが認められる。

ところで「下條愛一、「下条愛一」と記載された投票の効力の判断については、前判示のとおりの理由によつて「下條」と「下条」とは同一の氏を記載したものということができる。(以下特別の事情のない限り、投票の効力の判断について「條」と「条」を同一の氏としてとり扱うものとする。)

そこで「下條愛一」及び「下条愛一」と記載した(誤記したものを含む)投票合計三三三票の効力について判断する。選挙は国民の重要な権利行使であるから、選挙人が常に正確に候補者の氏名を記載して投票することは望ましいけれども、選挙人は必しも平常から候補者となる者の氏名を記憶しているわけではなく、選挙に際して、その氏名をはじめて知ることも相当あり、その場合に候補者の氏名を誤つて記憶し、或は氏名を正確に記憶していない場合の生ずることも十分に考えられるところである。そして特段の事情のある場合を除いては、選挙人は有効に選挙権を行使するものと考えるべきであつて、第六十七条もまた、投票の効力の決定に当つては、法第六十八条(無効投票)の規定に反しない限りにおいて、投票した選挙人の意思が明白であれば、その投票を有効とするようにしなければならない旨を規定している。本件選挙において、「下条康磨」なる候補者の存在することは原告も認めているところであり、上記各票の上の二字は右候補者の氏に一致するけれども、下の二字「愛一」は右候補者の名「康磨」とは著しく異つているのに反し、右各票の記載の上の一字「下」は原告の氏「上条」の「上」とは異るけれども、その他の字は全く原告の氏名と一致しているのであり、これを、全体としてみれば、「下条康磨」の氏名とは余り近似性がなく、著しく原告の氏名に近似していると認められる。このような場合は特段の事情のない限り、前示説示した点と合せ考え、上記各票の記載は原告と「下条康磨」の氏名とを混記した無効の投票、又は「下條愛一」なる第三者(かかる氏名の候補者の存在しないことは前示甲第一号証によつて明らかである。)の氏名を記載した無効の投票と解するよりも、むしろ、原告「上条愛一」に投票する意思をもつて、氏のうちの一字を記憶を誤つて、或は表示を誤つて記載したものと認めるのが相当である。

被告は右票の記載には「下条康磨」の氏が記載されているので、同候補者の立場からも、同様の理由により、単独有効投票であることを主張し得ると争うけれども、同候補者の名と右各票の下二字の「愛一」との間には類似性の認め難いことは、上記認定のとおりであるから、右の主張は右各票の記載は候補者「下条康磨」と原告の氏名混記であるとの主張とともに理由がない。

よつて右票合計三三三票は原告の有効投票として加算すべきである。

(二)(1)  第一回検証並びに後記各市町村の調査の嘱託の結果によれば

(イ)別紙第一目録甲表の(三)主張の票のうち、

「下條アイ一」なる投票で岩国市における無効投票中に一票(第一回写真一-一-一〇)、

「下条アイ一」なる投票で岐阜県祝坂村及び四日市市における無効投票中に各一票(第一回写真七-一-五、一九-四-二)計二票、

(ロ)右甲表の(四)及び同目録乙表の(三)記載のとおり、

「下条あい一」なる投票が彦根市、草津市及び川口市における無効投票中に各一票(第一回写真四-一-五、五-三-二、川口市よりの嘱託回答 以下単に回答という)計三票

(ハ) 右乙表の(四)、(五)及び(六)記載のとおり、

「下條あいいち」なる投票が泉大津市における無効投票中に一票(同市回答)、

「下条あいいち」なる投票が長野県下条村における無効投票中に一票(同村回答)、

「下條アイイチ」なる投票が新潟県加茂市における無効投票中に一票(同市回答)、

(ニ) 同目録甲表の(五)記載のとおり

「下ジヨウ愛一」なる投票が岩国市における無効投票中に一票(第一回写真一-六-八)、

松本市における無効投票中に一票(第一回写真一五-一二-二)、

(ホ) 右乙表の(七)(八)及び(九)記載のとおり、

「下ジヨウアイ一」なる投票が足利市における無効投票中に一票(同市回答)、

「下じようあい一」なる投票が大分県坂ノ市町及び伊那市における無効投票中に各一票(同町及び同市回答)計二票、

「下ジヨウアイチ」なる投票が岐阜県関市における無効投票中に一票(同市回答)、

(ヘ) 右甲表の(六)(七)及び(八)記載のとおり、

「シモジヨ愛一」なる投票が津市における無効投票中に一票(第一回写真一八-四-二)、

「シモジウアイ一」なる投票が岩国市における無効投票中に一票(第一回写真一-一四-九)、

「しもじうあい一」なる投票が延岡市における無効投票中に一票(第一回写真四三-五-四)、

(ト) 右乙表の(一〇)ないし(一四)記載のとおり、

「しもじよう愛一」なる投票が愛知県弥富町における無効投票中に一票(同町回答)、

「しもじやあい一」なる投票が新潟県小国町における無効投票中に一票(同町回答)、

「しもじやうアイ一」なる投票が新潟県北条町における無効投票中に一票(同町回答)、

「しもじようあい一」なる投票が長野県大町市における無効投票中に一票(同市回答)、

「スモジヨウアイ一」なる投票が秋田県東由利村における無効投票中に一票(同村回答)、

(チ) 右甲表の(九)ないし(一一)記載のとおり、

「しもじよあいいち」なる投票が敦賀市における無効投票中に一票(第一回写真三-四-五)、

「しもじようあいち」なる投票が長野県豊科村における無効投票中に一票(第一回写真一六-一-二)、

「しもじうあいいち」なる投票が岩国市における無効投票中に一票(第一回写真一-一四-一〇)、

(リ)右甲表の(一二)及び乙表の(一五)記載のとおり、

「しもじようあいいち」なる投票が延岡市、大阪府交野町、徳島県堀江町及び飯田市における無効投票中に各一票(第一回写真四三-八-六、及び各同町回答)計四票、

(ヌ) 右乙表の(一六)記載のとおり、

「しもじようあいいち」なる投票が長野県和田村における無効投票中に一票(同村回答)、

(ル) 右甲表の(一三)ないし(一五)記載のとおり、

「シモジヨアイイチ」なる投票が愛媛県今治市における無効投票中に一票(第一回写真二六-五-二)、

「シモジヨウアイイチ」なる投票が広島県三原市における無効投票中に一票(第一回写真一七-三-三)、

「シモジヨウアイチ」なる投票が松本市における無効投票中に一票(第一回写真一五-二五-二)、

以上合計三四票がそれぞれ存在することが認められる。しかしてこれらは記載自体からみて、いずれも「下条愛一」又は「下條愛一」に該当する氏名をかな又は漢字交りをもつて記載し、そのうち一部は誤字、脱字又は「濁点」を忘れたものと解するのが相当である。

よつて右三四票の投票は二の(一)において「下條愛一」「下条愛一」の票について判示したところと同様の理由によつて、原告の有効投票と認めるべきである。

(2)  第一回検証の結果及び後記各市町村の調査嘱託の結果によれば、

(イ) 別紙第一目録甲表の(二七)記載のとおり

「下條愛二」なる投票が香川県豊浜町における無効投票中に一票(第一回写真二五-一-二)、

(ロ) 右目録乙表の(一七)及び(一八)記載の票中、

「下条愛一」なる投票が前橋市における無効投票中に一票(同市回答)、

「下修受一」なる投票が岐阜県岐阜市における無効投票中に一票(同市回答)、

が存在することが認められる。

右認定の三票は、その記載自体から「下条愛一」又は「下條愛一」の誤記と認めるのを相当とするから、前述三の(一)における判示と同様(一八)の理由により、原告の有効投票と認めるを相当とする。

(3)  第一回検証の結果及び調査の嘱託の結果によれば、

(イ) 右目録甲表の(一八)ないし(二一)記載のとおり

「下ジヤウアイキ」なる投票が福井市における無効投票中に一票(第一回写真九-二-二)、

「下條愛助」なる投票が岩国市における無効投票中に一票(第一回写真一-一-九)、

「下条愛知」なる投票が三原市における無効投票中に一票(第一回写真一七-三-六)、

「下愛一」なる投票が松本市における無効投票中に一票(第一回写真一五-一三-二)、

(ロ) 右目録乙表の(二〇)記載のとおり、

「下条愛十」なる投票が大阪府島本町における無効投票中に一票(同町回答)、

以上が存在することが認められる。

右各票のうち「下愛一」の記載は原告の名を正記しているけれども、上二字はその記載自体からは「下條」の記載とは認められず、強いて読めば「下澤」と読む以外なく、全体として原告の氏名に類似していると認めることはできない。その他の各票は、氏と認め得る部位は「しもじよう」と読み得るけれども、下二字又は「アイキ」は原告の名とは異り、従つて全体として原告の氏名「上条愛一」と比較してみても、原告の氏名の誤記又は誤称と認め得る近似性はないと認めるを相当とする。したがつて、右各票記載のような候補者が本件選挙には存在しないけれども、尚原告の為の投票と認めることはできない。

(4)  第一回検証の結果及び後記各市町村の調査嘱託の結果によれば

(イ)右目録甲表の(一六)、(二三)、(二五)、(二六)、(二八)各記載のとおり、

「下城愛一」なる投票が岩国市及び延岡市における無効投票中に各一票(第一回写真一-一四-三、四三-五-三)合計二票、

「下愛一」なる投票が岩岡市における無効投票中に一票(第一回写真一-四-三)、

「下愛一」なる投票が岩岡市における無効投票中に一票(第一回写真一-一-三)、

「下愛一」なる投票が香川県豊浜町における無効投票中に一票(第一回写真二五-二-三)、

「下候愛一」なる投票が市川市における無効投票中に一票(第一回写真二七-二-二)、

(ロ) 右甲表の(二二)、(二四)、及び同乙表の(二一)、(二二)記載のとおり、「下篠愛一」なる投票が岩国市、愛知県弥富町外九市町村における無効投票中に合計一三票(第一回写真一-六-四及び右乙表(二一)記載の各市町村回答)

「下修愛一」なる投票が岩国市防府市、滋賀県稲枝町、富山市、柳津市及び愛知県弥富町における無効投票中に合計六票(第一回写真一-一-一三、二-五-二、右乙表の(二二)記載の各市町回答)

(ハ) 右乙表の(一九)記載のとおり

「下候愛一」なる投票が兵庫県但東町、愛知県弥富町に各一票(右各町回答)合計二票、

(ニ) 右甲表(一七)に主張の票が

「下茶愛一」なる投票で三重県四日市市における無効投票中に一票(第一回写真一九-五-二)、

それぞれ存在することを認めることができる。

右票のうち「下城愛一」は発音上「しもじようあいいち」と読み得るので、「城」は「條」の当字と解するのを相当とし、その余の各票の上二字はいずれも記載全体からみて「下條愛一」又は「下条愛一」の誤記と認めるのを相当とする。

よつて右合計二八票は前述二の(一)における「下條愛一」「下条愛一」の投票についての判示と同様の理由により、原告の有効投票と解すべきである。

(三)(1)  第一、二回検証の結果及び後記各市町村の調査嘱託の結果によれば、

(イ) 別紙第二目録甲表の(一)及び乙表の(一)記載(但し甲表(一)の(8) 中一票を除く)のとおり、

「北條愛一」なる投票が防府市、及び大阪市東淀川区外二七市、町、村、区における無効投票中に合計三七票(第一回写真二-四-二、三-六-三、二〇-一-二、二二-三-二、二九-一-二、三〇-五-二、三一-一-三、四〇-五-四、四三-五-六、四三-九-三、四三-九-四、四三-九-五、四三-九-六、新甲lの5、同1の8、右乙表(一)の各市町村回答)、「北条愛一」なる投票が千葉県市川市、滋賀県大津市外一〇市、町、村、区における無効投票中に合計一二票(第一回写真二七-四-三、四三-五-五、新甲3の2、同3の4、右乙表(二)の各市町村回答)、

(ロ) 右甲表の(一)の(8) に主張する票中一票が

「北愛一」なる投票が倉敷市における無効投票中に一票(第一回写真四〇-五-五)、

が存在することが認められる。

右(ロ)の票は、その記載自体からみて、「北條愛一」の誤記と認めるのを相当するから、右各票は「北條愛一」又は「北条愛一」と記載された票として、その効力を判断するを相当とする。

本件選挙において、「北条雋八」なる候補者の存在することは原告も認めているところである。

そして右各票の記載の上二字が右候補者の氏「北条」に一致することは、前述二の(一)の「下條愛一」なる投票の場合と同様である。

しかし、右各票の記載を原告の氏名と対照してみると、上の一字「北」と「上」が異ること、全体としてみた場合著しく原告の氏名「上条愛一」に類似していること、「北条雋八」との対照においては、その下二字が著しく類似性を欠いて、上二字の一致にかかわらず全体としての近似性が少ないことが認められ、右の諸事実を此彼考慮すれば、前記「下條愛一」の投票の場合と同様の理由によつて右の各票は原告の名を誤称して、上の一字を間違へた原告に対する有効投票と解するのが相当である。

(2)  第一回検証及び後記市、町の調査嘱託の結果によれば、

(イ) 同目録甲表の(三)ないし(六)、同目録乙表の(三)、(四)及び(六)記載のとおり、

「北條アイ一」なる投票が岡崎市における無効投票中に一票(第一回写真二二-三-三)、

「ほうじようあい一」なる投票が延岡市における無効投票中に一票(第一回写真四三-九-八)、

「きたじようあいいち」なる投票が延岡市における無効投票中に一票(第一回写真四三-一〇-四)、

「ほうじようあいいち」なる投票が岡山市、徳島県山城町及び伊那市における無効投票中に合計三票(第一回写真三九-二-二、及び乙表(三)の各市町回答)、

真三九-二-二、及び乙表(三)の各市町回答)、

「北じようあいいち」なる投票が高知市における無効投票中に一票(同市回答)、

「ホウジヨウアイ一」なる投票が福井県今立町における無効投票中に一票(同町回答)、

(ロ) 同目録甲表の(七)ないし(一二)及び同乙表の(五)、(七)、(八)記載のとおり、

「北 愛一」「北条愛一」なる投票が岩国市における無効投票中に各一票(第一回写真一-四-三、一-四-二)

「」なる投票が彦根市における無効投票中に一票(第一回写真四-一-四)、

「北愛一」なる投票が鯖江市における無効投票中に一票(第一回写真一〇-一-二)、

「北條受一」なる投票が倉敷市及び延岡市における無効投票中に各一票合計二票(第一回写真四〇-四-二、四三-九-一〇)、

「北条一」なる投票が延岡市における無効投票中に一票(第一回写真四三-九-九)、

「ほうじよあいち」なる投票が児島市における無効投票中に一票(同市回答)、

「北篠愛一」なる投票が大津市における無効投票中に一票(同市回答)、

「北修愛一」なる投票が福岡県稲波町における無効投票中に一票(同町回答)

がそれぞれ存在することが認められる。右(イ)記載の各票は、いずれも、「北條愛一」をかな又は漢字混りをもつて明記してあり右(ロ)記載の各票は、その記載を全体としてみれば、いずれも、「北條愛一」と記載すべきところを、誤字をもつて記載し、又は字を落したものと認めるを相当とする。

したがつて、右(イ)(ロ)各票は「北條愛一」又は「北条愛一」と記載した票について判示した理由と同様の理由によつて原告に対する投票の意思をもつて記載した票と認めるべきであるから、右合計一八票は原告の有効投票として加算すべきである。

(四)(1)  第一、二回検証の結果及び後記各市、町、村の各調査嘱託の結果によれば、

(イ) 別紙第二目録甲表の(一三)(延岡市の一票を除く)(一四)、(一八)及び同目録乙表の(九)、(一〇)(立川市の一票を除く)(一二)ないし(一六)記載のとおり、

「中条愛一」なる投票が岩国市及び静岡県豊岡村における無効投票中に各一票計二票(第一回写真、一-一-五、豊岡村回答)、

「中條愛一」なる投票が岡山県瀬戸町及び島根県仁多町に各一票合計二票、(右各町回答)、

「西条愛一」なる投票が防府市に、「西條愛一」なる投票が滋賀県米原町及び大津市における各無効投票中に各一票計三票(第一回写真二-五-三、大津市及び米原町回答)、

「川条愛一」なる投票が茨木県守谷町における無効投票中に一票(同町回答)、

「三条愛一」なる投票が大分県大南町、「三條愛一」なる投票が福岡県浮羽町、山形県天童町及び鹿児島県谷山町における各無効投票中に各一票計四票(右各町回答)、

「一条愛一」なる投票が足利市における無効投票中に一票(同市回答)、

「山条愛一」なる投票が京都市下京区における無効投票中に一票(新甲1の1)、

(ロ) 同目録甲表(一三)中延岡市の一票及び同表の(一五)同目録乙表の(一〇)中立川市の一票及び同表の(二)において原告主張の票が、それぞれ「中條愛一」「川條愛一」「中条愛一」「中愛一」と記載され、それぞれ当該市町における無効投票中に各一票計四票(第一回写真四三-七-三、一九-三-一一立川市及び城端町回答)

が、それぞれ存在することが認められる。

右各票の上の一字はいずれも原告の氏の上の一字と異るけれども、全体としてみれば原告の氏名「上条愛一」に近似し、(「中愛一」の「」は「條」の誤記と認めるべきことは前段で判示した)その上、「中条」「西条」「川条」「三条」「一条」、「山条」なる氏の候補者は、本件選挙には、存在しないことが認められるから、右各票合計一八票は原告の有効得票と認めるべきである。

(2)  第一、二回検証の結果によれば、

(イ) 同目録甲表の(一六)、及び(二四)記載のとおり、

「三条アイイチ」「さいじようあいいち」なる投票が延岡市における無効投票中に各一票合計二票、(第一回写真四三-九-一二、四三-八-八)、

(ロ) 同甲表の(一九)、(二〇)記載のとおり、

「さんじよあいいち」「さんじよあい一ち」なる投票が延岡における無効投票中に各一票合計二票(第一回写真四三-三-三、四三-六-二)、

(ハ) 同甲表の(二一)記載のとおり

「さんじようおい一」なる投票が愛媛県小松町における無効投票中に一票(新甲8の4)、

(ニ) 同甲表の(二二)、(二三)記載のとおり

「サイジヨアイソ」、「さんじよえい一」なる投票が、愛媛県小松町、静岡県小山町に各一票計二票(新甲8の3、第一回写真二四-一-二)、

がそれぞれ存在することが認められる。

右票のうち(ロ)及び(ハ)の各票は、いずれも、「さんじようあいいち」の誤記であることはその記載自体から認められるところである。したがつて、右(イ)、(ロ)、(ハ)の各票は、かな又は漢字混りで、「三条愛一」又は「西条愛一」と記載したものであり、前段判示と同様の理由により、原告の有効得票と認めるべきである。

右(ニ)の各票「サイジヨアイソ」「さんじよえい一」は、その記載内容が原告の氏名「上条愛一」とは氏名とも類似性なく、全体としてみても、「上条愛一」の記載又はその誤記、誤称と認めることは困難であり、本件選挙には他に「石川栄一」なる候補者もあることを合せ考えれば、原告の有効得票と認めることはできない。

よつて右各票のうち、(イ)(ロ)(ハ)の合計五票のみを原告の有効得票として加算すべきである。

被告は同目録甲表(一七)において延岡市に「さんじようあいいち」(第一回写真四九-八-八)が存在すると主張するけれども、右票の記載は「さいじようあいいち」であり同目録甲表(二四)において主張した(前示(イ)摘示)票と同一であることが、原告の主張並びに第一回検証の結果明らかであるから右票についての原告の主張は理由がない。

(五)  第一、二回検証の結果並びに後記各市町村の調査嘱託の結果によれば、

(1)  別紙第三目録甲表の(六)、(八)、(九)、(一〇)同目録乙表の(五)記載のとおり、

(イ)「川上愛一」なる投票が岩国市、福岡県浮羽町外二三市町における無効投票中に合計四九票(第一回写真一-一二-三、一-一四-二、三-一-二、三-一-三、四-一-二、四-二-二、七-一-一三、八-一-二、八-一-三、九-一-二、一七-一-二、一八-一-二、一八-二-二、一八-六-二、一九-三-三、一九-三-四、一九-三-五、一九-三-六、一九-三-七、一九-三-八、一九-三-九、一九-三-一四、一九-三-一五、一九-七-二、一九-七-三、一九-七-四、二四-三-二、二六-四-二、二七-一-二、二七-一-三、三〇-一-四、三〇-三-二、三一-八-二、三二-一-二、三三-三-二、三五-一-二、三九-一-二、四一-一-二、四一-四-三、四三、一〇-七、新甲9の3同9の4、同9の12、同9の13同9の16、及び右乙表(五)各記載市町回答)、

(ロ)「川上あい一」、「川上あい一ち」なる各投票が、松阪市及び三重県楠町における無効投票中各一票計二票(第一回写真三〇-一-三、三二-一-三)、

(ハ)「川上あいち」なる投票が四日市市における無効投票中に二票(第一回写真一九-三-一〇、一九-三-一二)、

(2)  右甲表の(七)記載の原告主張の票が、「河上受一」なる投票で岩国市における無効投票中に一票(第一回写真一-八-二)、

がそれぞれ存在することが認められる。

右(1) の(イ)、(ロ)の各票の記載は上二字を除けば原告の名「愛一」と一致するけれども、上二字が原告の氏「上条」とは全く異り、しかも全体として比照してみると類似性が稀薄で、名が一致するとしても、直ちに原告の氏名を誤記又は誤称したと認め難いのみならず、本件選挙に際しては、「川上嘉」なる候補者が存在していること(原告もこの事実を認めている)を合せ考えるときは、右各票の上二字の「川上」が同候補の氏を記載したものでないともいえず、原告と右候補者のいずれの氏名を記載したものか判然としない場合に該当し、二名の候補者の氏名を混記したか又は候補者以外の者の氏名を記載した無効の投票と認めるのが相当である。

右(1) の(ハ)の票は、記載自体及び前示認定のとおり、「川上あいいち」なる投票の存在することを考えれば、「川上あいいち」の誤記であると認め得るけれども、既に「川上愛一」なる投票が、原告の有効投票と認め難いこと右判示のとおりである以上、これまた原告の有効投票とは認め難いものである。

更に右(2) 記載の票は、その記載からしても「河上愛一」の誤記であると認めにくいばかりではなく、仮りに「河上愛一」の記載と認め得るとしても、前段判示と同様の理由によつて、原告の有効投票であるとはなし難いものである。

(3)  右甲表の(一)ないし(五)及(十一)同乙表の(一)ないし(四)記載のとおり、

(イ) 「下上愛一」なる投票が市川市、観音寺市及び徳島県北島町における無効投票中に各一票(第一回写真二七-二、四一-二-三、及び北島町回答)計三票、

「上愛一」なる投票が宇治市及び岡山県勝山町における無効投票中に各一票計二票(第一回写真三四-一-二及び右勝山町回答)、

(ロ) 「上下愛一」なる投票が、岩国市及び今治市における無効投票中に各一票(第一回写真一-一三-二、二六-四-三)計二票、

「山下愛一」なる投票が岩国市及び尼崎市、「平上愛一」なる投票が愛知県弥富町、「雨宮愛一」なる投票が京都市左京区、「小野愛一」なる投票が京都市右京区、にそれぞれにおける無効投票中に各一票計五票(第一回写真一-五-二、新甲1の6同2の6、及び弥富町尼崎市回答)、

がそれぞれ存在することが認められる。

右(イ)の「下上愛一」は読み方によつては「しもじようあいいち」と読み得るし、「上愛一」は、記載自体から「上條愛一」の「條」を遺脱したものと認め得るので、前者は前述二の(一)における「下條愛一」、「下条愛一」の票に対する判示と同様の理由により、後者は「上条愛一」の投票として、いずれも、原告の有効得票と認めるのが相当である。右(ロ)の各票は、下二字においては、原告の名に一致するけれども、上二字は原告の氏「上条」と著しく異り、氏名全体としても類似性を欠くばかりではなく、殊に、「小野愛一」については、本件選挙につき「小野義夫」「小野市太郎」なる候補者の存在することが認められることを合せ考えれば、原告に対する投票の意思をもつて記載した投票とは認め難く、結局原告に対する有効投票として加算し難いものである。

(六)  第一、二回検証の結果及び後記市、町の各調査嘱託の結果によれば別紙第四目録乙表の(十三)ないし(十六)同甲表の(二六)ないし(三一)記載のとおり、

(イ)「愛一」なる投票が長野県大町市における無効投票中に一票(同市回答)、

「あいいち」なる投票が大分県坂ノ市町における無効投票中に一票(同町回答)、

「あいち」なる投票が徳島市、福井県清水町、山梨県秋山町、静岡県浜北町における無効投票中に各一票(右各市町回答)合計四票、

「アイチ」なる投票が愛媛県津島町における無効投票中に二票(同町回答)、

「あ一」なる投票が倉敷市における無効投票中に一票(第一回写真四〇-一-二)、

「ア一」なる投票が京都市左京区における無効投票中に一票(新甲lの2)、

(ロ)「一」なる投票が静岡県小山町における無効投票中に一票(第一回写真二四-五-二)、

「受一」なる投票が岩国市における無効投票中に一票(第一回写真一-七-二)、

「マヘ」なる投票が福岡市における無効投票中に一票(新甲4の6)、

「愛一郎」なる投票が松山市における無効投票中に一票、西条市における無効投票中に二票(新用7の10、同9の9、同9の10)合計三票、

が存在することが認められる。

右(イ)摘示の各票の内には「い」の字を落しているものもあつて、その記載は明確を欠くきらいがないとはいえないけれども、「愛一」の読みについて「い」の字を一字記載すれば、次の「い」の字を重ねる必要がないと思うものもないとは、いえないから、右各票の記載は記載自体から「愛一」「あいいち」に対する投票を意としていると解するを相当とする。右の事実と、本件選挙において、「愛一」又は「あいいち」なる氏又は名を有する候補者及び「あいち」に類似した名を有する候補者は原告以外には存在しないことを認めることができることを合せ考えれば右一〇票は原告に投票した票と認めるのを相当とするから、原告の有効投票といわなければならない。

右(ロ)摘示の「一」「マヘ」なる票は、いずれも票の記載からは「愛一」「ア一」と記載しようとしたものとは認め難く、又「受一」、「愛一郎」の各票は全く、原告の名「愛一」とは異る名を構成してしまつており、原告提出の全証拠をもつてしても右が原告の名「愛一」の誤記又は誤称であると認めることはできない。殊に選挙においては、本来氏名を記載すべきもので、氏名の誤記その他も後記「大西」の票についての説示と同様に、氏名を標準として定めることが原則であることを考えれば右(ロ)の各票は、その記載に一致又は類似の氏名を有する候補者の存在しないことが認められるから候補者以外の氏名を記載した無効の投票と認めるのを相当とする。

(七)  第一、二回検証の結果及び後記市町村の各調査嘱託の結果によれば、

(1)  別紙第四目録甲表の(一)ないし(九)同目録乙表の(一)ないし(五)記載のとおり、

(イ) 「上條重一」「上条重一」なる投票が岩国市及び福井県武生市における無効投票中に各一票(第一回写真一-二-二、武生市回答)合計二票、

(ロ)「上條友一」なる投票が岩国市における無効投票中に一票(第一回写真一-一二-二)、

(ハ)「上條一」、「上条一」なる投票が、松本市、敦賀市、滋賀県虎姫町及び長野県鼎町における無効投票中に各一票(第一回写真一五-二九-二、三-四-三、虎姫町及び鼎町回答)計四票、

(ニ)「上條信一」なる投票が草津市及び松本市の無効投票中に各一票(第一回写真五-一-三、一五-一四-二)合計二票、

(ホ)「上條要一」なる投票が松本市における無効投票中に一票(第一回写真一五-二〇-三)、

(ヘ)「上條安一」なる投票が松本市における無効投票中に二票(第一回写真一五-二〇-二、一五-二二-五)、

(ト)「上條真一」なる投票が松本市における無効投票中に一票(第一回写真一五-二四-二)、

(チ)「上條正一」なる投票が松本市における無効投票中に一票(第一回写真一五-二六-二)、

(リ)「上条敬一」なる投票が倉敷市における無効投票中に一票(第一回写真四〇-六-三)、

(ヌ)「上條愛市」なる投票が香川県山本町における無効投票中に一票(同町回答)、

(ル)「上條アい一」なる投票が大分市における無効投票中に一票(同市回答)、

(2)  右甲表の(一〇)ないし(二五)、同乙表の(六)ないし(一二)記載のとおり、

(イ)「カミジヨウイイケ」なる投票として原告主張の票は「カミジヨウアイチ」と読み得る票で松本市における無効投票中に一票(第一回写真一五-四-二)、

(ロ)「カミジオアイチ」なる投票が新居浜市における無効投票中に一票(新甲6の7)、

(ハ)「アイジヨウアイイチ」なる投票が宮崎県西都町における無効投票中に一票(同町回答)、

(ニ)「紙上愛一郎」なる投票が栃木県二宮町における無効投票中に一票(同町回答)、

(ホ)「かみしうあい」なる投票が長崎県美津島町における無効投票中に一票(同町回答)、

(ヘ)「ウエジヨウ受一」なる投票が福井県高浜町における無効投票中に一票(同町回答)、

(ト)「上条一郎」なる投票が市川市における無効投票中に一票(第一回写真二七-三-三)、

(チ)「かみじよとおいいう」なる投票が松本市における無効投票中に一票(第一回写真一五-三〇-二)、

(リ)「上修かん一」なる投票が松本市における無効投票中に一票(第一回写真一五-一〇-二)、

(ヌ)「かみじようかんいち」なる投票が松本市における無効投票中に一票(第一回写真一五-二三-四)

(ル)「かみ上けん一ち」なる投票が延岡市における無効投票中に一票(第一回写真四三-七-二)、

(オ)「「カミジヨーマサ一」なる投票が延岡市における無効投票中に一票(第一回写真四三-八-三)、

(ワ)「かみじう栄一」なる投票が松本市における無効投票中に一票(第一回写真一五-一五-二)、

(カ)「かみじよう いいち」なる投票が伊勢市における無効投票中に一票(第一回写真二九-一-三)、

(ヨ)「カミジユエイ一」なる投票が観音寺市における無効投票中に一票(第一回写真四一-二-二)、

(タ)「カミヂヨイチ」なる投票が長野県城村における無効投票中に一票(同村回答)、

(レ)「上じようふいいち」なる投票が松山市における無効投票中に一票(新甲7の4)、

(ソ)「かみじよーよいち」なる投票が江津市の無効投票中に一票(同市回答)、

(ツ)「かみじようしゆん一」なる投票が大牟田市における無効投票中に一票(同市回答)、

(ネ)「上條しゆんいち」なる投票が岩国市における無効投票中に一票(第一回写真一-二-二)、

(ナ)「上じようしういち」なる投票が三原市における無効投票中に一票(第一回写真一七-三-二)、

(ラ)「あいじよう いいち」なる投票が愛媛県小松町における無効投票中に一票(新甲8の2)、

(ム)「上下綾一」なる投票が松阪市における無効投票中に一票(第一回写真三〇-三-三)、

がそれぞれ存在することが認められる。右(1) の票中(ヌ)及び(ル)はいずれも「上条あいいち」と読み得るので(右(ヌ)票は投票箱を間違えているが、この点は後記(十)における説示のとおり投票の効力に関係ないものと認められる)原告の有効得票となすべきことは明らかであり、右(2) の(イ)ないし(ト)の記載はいずれも発音上全体的に原告の氏名「かみじようあいいち」に近似し、特に反対の事情の認められない本件では、原告に対する投票を意思した票であると認めるのが相当である。

右(2) の(チ)の票の記載について、原告は「かみしようあいいち」と読み得るものと主張するけれども、右票の記載は字体が不明確で原告主張のとおりに読み得るとなすのは困難である。

(1) 及び(2) のその他の各票は、原告の氏「上条」を正記し、又は類似の発音の記載はあるけれども、いずれもその名は原告の名と近似性に乏しく、全体として原告の氏名の誤記又は誤称とは認め難いのみならず、本件選挙においては「田中一」、「問庭信一」「近藤昌一」「北条雋八」「岡田修一」「石川栄一」等の候補者があることが認められるからその事実を合せ考えれば、いずれも原告に対する投票の意思が判然としている投票とは認めることはできない。

よつて前示九票は原告の有効得票に加算すべきものとし、その他の投票についての原告の有効投票との原告の主張は採用できない。

(八)  第一回検証の結果によれば、別紙第四目録甲表の(三二)ないし(四一)記載のとおり、

(イ)「上愛」なる投票が敦賀市における無効投票中に一票(第一回写真三-五-二)、

(ロ)「條上」なる投票が松本市における無効投票中に一票(第一回写真一五-五-三)、

(ハ)「愛修」なる投票が鯖江市における無効投票中に一票(第一回写真一〇-二-二)、

(ニ)「愛條」なる投票が、鈴鹿市、延岡市における無効投票中に各一票(第一回写真三一-四-二、四三-一〇-五)合計二票、

(ホ)「愛上」なる投票が彦根市、津市における無効投票中に各一票(第一回写真四-二-四、一八-三-二)合計二票、

(ヘ)「アイ上」なる投票が香川県豊浜町における無効投票中に一票(第一回写真二五-二-四)、

(ト)「あいじよう」なる投票が貝塚市、倉敷市、延岡市における無効投票中に各一票(第一回写真三七-一-二、四〇-五-三、四三-八-二)合計三票、

(チ)「あいしよー」なる投票が今治市における無効投票中に一票(第一回写真二六-一-二)、

(リ)「アイジヨー」なる投票が倉敷市における無効投票中に一票(第一回写真四〇-五-二)、

(ヌ)「アイジヨー一」なる投票が延岡市における無効投票中に一票(第一回写真四三-一〇-六)、

が存在することが認められる。

右(イ)の「上愛」なる票には「上愛」の文字の下に「」なるものが記載されていて、なんという文字を書いたものか判読できず、結局記号又は符号を記載したものという外はないが、候補者の職業、身分住所又は敬称の類を記入したものではないことが明らかであるから、法第六十八条第五号にいう他事記載と認めるべきであり、右票は無効とすべきである。

右(ロ)は原告の氏名「上条愛一」の一部分を表示したものとは認め難く、したがつて、原告主張のように、原告の氏名の略記であると認め難い。仮りに右が「上條」を逆に記載したものと解してその効力の判断につき「上條」なる投票と同様に認め得るとしても、同票は第二の一において既述した「上條」なる投票と同様、原告と候補者上條愿とで按分すべき票となるのであるが原告は松本市(第一開票所)における右按分の基礎となるべき得票数を示して、按分の基礎を主張しないから、右票は結局原告のため一票として加算することはできない。

右(ハ)の「愛修」なる記載の投票は、その記載自体から考えても、原告の氏名に何等近似性がなく、その略記とも認め難い。仮に右「修」が「條」の誤記であり、「愛條」なる投票と認め得るとしても、右(ニ)の票の記載と同一である。原告は右各票は原告の氏名の略記であると主張するけれども、「愛」又は「あい」は原告の名の一字に一致し、「條」「上」「ジよう」「しよう」「ジヨー」等は原告の氏の一字又はその読みに一致するのであつて、もし右が原告の氏名の一字づつを取つたものとすれば、いずれも氏名を転倒して使用しているものである。しかし、氏名を転倒して、人を呼称することは通常無礼とされていることは明らかであるから、氏名の略称の場合も又、特段の事情のない限り氏名が順次略されて、その順に略称されるものと解すべきである。しかして原告が通常「愛條」 「愛上」又は「あいじよう」等の略称で呼ばれ、又は自らこれを使用していたと認めるべき証拠はなく、その他、原告の氏名が転倒されて使用される特段の事情も認め難い。したがつて、右各票の記載をもつて、直ちに原告の氏名の略称と認めることはできず、原告に対する投票と解するのは相当でない。

よつて右各票についての原告の主張は理由がない。

(九)  第二回検証の結果によれば、

「かみじようあいいち」なる投票が別紙第四目録甲表(四二)のとおり京都市左京区の無効投票中に一票(新甲2の1)あることが認められ、且つ右の投票用紙の下部の一部が破損していることが認められる。しかし右投票は原告の氏名を仮名で明記しており、又右の破損部分は投票用紙の下辺の中央を横約七糎、縦約一糎の広さで切損されているに過ぎず、用紙の記載事項の部分は明瞭に残つているので、制規の投票用紙であることを認める支障とならず、又右切損が投票者において、記号又は符合の意味において破棄したものと認めるにたる証拠はないから、原告の有効投票と認めるべきである。

(十)  後記市町村の各調査嘱託の結果によれば、右目録乙表(一七)及び(一八)のとおり

(イ)「上条愛一」なる投票で、全国区の投票用紙を用いながら地方区の投票箱に投入した票が、大分市における無効投票中に一票(同市回答)、愛知県美浜町における無効投票中に一票(同町回答)、愛知県十四山村における無効投票中に一票(同村回答)合計四票、

(ロ)「かみじようあいち」なる投票で前同様地方区の投票箱に投入した票が、静岡県豊岡村における無効投票中に一票(同村回答)、

合計五票が存在することが認められる。

そして本件全国選出参議院議員選出選挙が地方区選出参議院議員選出選挙と同時に行われたことは公知の事実であり右調査嘱託の結果によれば、右各投票の行われた投票所においては、各選挙毎に異つた投票箱のあつたことが推認できる。しかし選挙人は投票所において自ら当該選挙の公職の候補者一人の氏名を記載してこれを投票箱に投入しなければならない(公職選挙法第四十六条第一項)し、右投票箱は当該選挙について個々の投票所において定められた投票箱でなければならないことは明らかであるけれども、参議院議員選挙において地方区選出議員の選挙が全国区選出議員の選挙と同時に行われる場合は、市町村選挙管理委員会は、地方区選出議員についての投票、又は開票管理者を同時に全国区選出議員選挙についての、投票、又は開票管理者となることができ(公職選挙法第三十七条第三項、第六十一条第三項)、かかる場合に各選挙について同一の投票箱を使用して、各選挙の投票箱と定めることは違法とは認め難く、第二回検証の結果によれば京都市、各区福岡市、鹿児島市、新居浜市、松山市、西条市における各投票所における投票箱は一であることが認められる。したがつて、投票者が自己の投票を識別させるために故意に全国選出議員の投票を地方区の投票箱に投入する如き、投票の秘密を犯すような特別の場合の外は、投票箱を誤つて投入された一事で、その投票を無効となすべき理由はない。選挙人の投票はなるべく有効なものと解すべきことは上来説示のとおりであるから、特段の立証のない本件においては、前示投票五票は誤つて、投票箱を取り違えたものと認めて有効票と解すべきである。

第三、本件選挙の選挙会において、決定された原告の得票二四〇、六一七・八九五票が有効であることについて被告は争わない。ところで原告は上来認定のように更に按分票の得票四三票七九三単独有効得票が五一九票あるので結局原告の有効得票は二四一、一八〇・六八八票となる。

第四、被告主張の投票の効力について判断する。

一、(一) 後記市町村の各調査嘱託の結果によれば別紙第五目録乙表(一)記載のうち、

「小西英雄」なる投票が、無効投票中、滝川市、箕面市、中津市、愛知県十四山村、福島県木高町、山梨市、兵庫県朝来町に各一票、岡山県奥津村に二票、広島県甲山町に三五票、(右各市、町回答)が存在することが認められる。

ところが右結果によれば更に次のことが認められる。すなわち、右各票のうち滝川市における一票は、「小西英雄」記載の下に「,」、候補者氏名欄の外右下に「e」たる記号があり、箕面市十四山村及び小高町における一票は全国区の投票用紙を用いて、地方区の投票箱に投入したもの、更に中津市における一票は「」と記載したもの、(4) 、(5) の奥津市及び甲山町の合計三七票は他事の記載があるもの、(但しその位置態容は不明)、(7) の山梨市の一票は「,」なる他事記載があるもの(但しその位置不明)、(8) の朝来町の一票は「」なる記載が候補者氏名欄中に存在するものであることを認められる。

(二)右のうち、(2) 及び(7) (8) の票の投入箱を誤つた三票については、特段の事情を認めるべき証左はないから、前述第二の二の(一〇)において説示したところと同様の理由によつて被告の有効得票と認めるべきである。

(3) の中津市における投票は被告の氏名の外「後藤」なる記載があり、本件選挙の候補者中には、同名のものが存在することは認められないので、二名以上の候補者の併記とはいい得ないけれども、職業、身分、住所、敬称の類でない他事を記載したものと解すべきであるから法第六十八条第五号に該当して無効なものといわなければならない。

(4) (5) の奥津村、甲山町の各票の他事記載は、その態容、紙面上の位置が、(7) の山梨市の他事記載の票は、記載の位置につき、更に(8) の朝来町の他事記載の票は、その位置態容について、いづれも被告提出の全証拠を、もつてしても(被告の昭和三十三年九月二十五日付証拠申請による取寄申請は、時機に遅れたものとして同年十月七日に却下された)これを認めることを得ないから、右各票を有効と主張する被告の主張を認容することはできない。

よつて右各票中(2) の箕面市及び(7) の十四山村及び(8) の小高町における各一票はこれを被告の有効投票として加算すべく、その余の票についての被告の主張は理由がない。

被告は福井県春江町の無効投票中に「小西英雄」なる投票があると主張するけれども、被告提出の全資料をもつてしてもこれを認め得る証拠はない。

二、(一) 第二回検証の結果及び後記市町村の各調査嘱託の結果によれば、

(イ)  別紙第五目録甲表の(二)、同乙表の(二)ないし(六)記載のとおり

「小西英男」なる投票が、広島県甲山町における無効投票中に一票(同町回答)、(但し位置態容不明の他事記載のあるもの)

「小西英夫」なる投票が右甲山町及び福岡県広川町における無効投票中に各一票合計二票(右各町回答)(但し甲山町の票は前同様の他事記載のあるもの)、

「小西秀雄」なる投票が愛媛県砥部町、高宮市、美濃加茂市、岐阜県美並村、伊那市及び広島県甲山町における無効投票中に合計八票(右各市、町、村回答)(但し右市を除く票は前同様の他事記載のあるもの)、

「小西秀男」なる投票が新居浜市、福岡市、宮城県南郷町、熊本県葦北町、中野市、笠岡市、山形市、行橋市における無効投票中に合計五〇票(新乙6の21、同6の23ないし26、同6の27ないし39、同6の41ないし46、同6の50ないし58、同6の67、同6の68、同6の71、同6の72、同6の73、同6の81、及び同4の27、同4の29及び南郷町以下乙表右記載の各市町回答)、

「小西秀夫」なる投票が笠岡市における無効投票中に一票(同市回答)、

が存在することが認められる。(被告は「小西英男」なる投票が新居浜市に一票あると主張するけれども、「小西笑男」なる記載の投票(新乙6の64)一票の存在は認め得るが、これは、「小西英男」の記載とは到底認め難くその他被告の右主張を認め得る証拠はない。)

(ロ)  更に右目録甲表の(三)、(四)、同乙表の(七)ないし(一〇)記載のとおり、

「小西ヒデ男」なる投票が新居浜市における無効投票中に一票(新乙6-77)、

「小西ひでお」「小西ひでを」なる投票が京都市南区、及び島根県桜江町に各一票(新乙2の17、桜江町回答)計二票、但し桜江町の一票は全国区の投票用紙で地方区の投票箱に投入したもの、

「こにしひでお」「コニシヒデオ」「こにしヒテを」なる投票が広島県甲山町における無効投票中に各一票(同町回答)計三票、(いずれも前同様の他事記載のあるもの)が存在することが認められる。

右(イ)の各票の下二字はいずれも被告「小西英雄」の名と字を異にしているけれども、その発音は「こにしひでお」であつて、被告の氏名の発音に一致する。右(ロ)の各票は、かな又は漢字混りであるけれども、いずれも、右と同様被告の氏名とその発音が一致する。右「小西ひでお」の票の右肩に「全をく」の記載があるけれども、右は「全国区」の誤記と認めるのを相当とし、それは候補者の一種の身分を示すものと解されるから、無効となすべき他事記載とは解し難いものである。又投票箱を誤つた桜江町の一票も、この点については既述のものと同様の理由によつて投票の効力を害さぬものと認めるのが相当である。

本件選挙においては他に「占部秀男」なる候補者のあることを認められるけれども、右各票記載の上二字の漢字(又はこれに相当するかな)は、「小西」「こにし」であつて右「占部秀男」の氏とは甚しく異つており、氏名全部を一体としてみるときは、既述と同様の理由によつて無効と認めるべき他事記載のある甲山町、美並村及び砥部町の票一〇票を除いて前述第二の二の(一)において説示したところと同様の理由によつて、右差引合計五八票は被告の有効投票と認めるべきである。

(二) 第二回検証の結果及び、後記市町村の各調査嘱託の結果によれば

(イ)  右甲表の(五)ないし(七)記載のとおり

「小西秀」「小西秀一」なる投票が新居浜市における無効投票中に各一票(新乙6の78、同6の62)合計二票、

「コニビテオ」、なる投票が松山市における無効投票中に一票(新乙7の45)、

(ロ)  右乙表の(二)記載のとおり

「こにしひで」なる投票が北海道概法華村における無効投票中に一票(同村回答)

が存在することが認められる。

右(イ)(ロ)の各票は、いづれもその記載は被告の氏名を完全に記してはいないけれども、その記載自体からすればよういに被告の氏名「小西英雄」が想起でき、他に、その記載又はその記載に類似するような候補者は本件選挙に存在することは認め難いから、被告に対して投票する意思で、誤字、脱字又は誤称をなした投票と認めるのが相当であり、被告に対する有効票と解さなければならない。

(三) 第二回検証の結果及び、後記市の調査嘱託の結果によれば、同目録甲表の(八)ないし(一〇)、同目録乙表の(三)記載のとおり、

(イ)「小西春雄」なる投票が福岡市における無効投票中に一〇票(新乙4の10ないし13、同4の16、同4の17、同4の19、同4の32、同4の33、同4の35)、大牟田市における無効投票中に一票、

(ロ)「小西はるを」なる投票が福岡市における無効投票中に二票(新乙4の15、同4の27)、

「小西ハルヲ」なる投票が同市に同様一票(新乙4の8)、

が、それぞれ存在することが認められる。

右各票の記載は被告「小西英雄」の氏名と類似性があるけれども、成立に争のない甲第九号証によれば、本件選挙施行当時、福岡市においては、福岡市長として「小西春雄」なる実在人があつたことが認められる。

そして、右各票中大牟田市における一票を除いた、その余はすべて福岡市における投票であり、しかも、正確に右市長「小西春雄」の漢字書き又はかな書きに一致する。したがつて、大牟田市における一票を除いたその余の票は、福岡市長「小西春雄」に対する投票と認めるを相当とするから、候補者以外の者に対する投票として無効のものと解するのを相当とする。

しかしながら、大牟田市における右一票は、特段の事由の認め難い本件においては、その選挙人が大牟田市に住居するものであるから福岡市長「小西春雄」の存在を知つていたものとは認め難いから、記載全体の近似性から、これを被告に対する投票が誤称されたものと解するのを相当とする。よつて右一票は被告の有効投票として加算すべきである。

(四) 第二回検証の結果並びに後記市、町、村の各調査嘱託の結果によれば、同目録甲表の(二)ないし(四〇)、及び同乙表の(一三)ないし(二二)記載のとおり

(イ)「小西正雄」「小西正男」「こにしまさを」なる投票が福岡市における無効投票中に各一票(新乙4の28、同4の30、同4の6)、

(ロ)「小西正夫」なる投票が新居浜市における無効投票中に一票(新乙6の15)、

(ハ)「小西幸男」なる投票が新居浜市における無効投票中に一票(新乙6の15)、

(ニ)「小西タカヲ」なる投票が福岡市における無効投票中に一票(新乙4の42)、

(ホ)「小西秀次郎」なる投票が京都市北区、同上京区における無効投票中に各一票(新乙3の25、同3の27)、

(ヘ)「小西恭」、「小西恭一」なる投票が京都市中京区における無効投票中に各一票(新乙2の11、同2の9)、

(ト)「小西恭次郎」なる投票が京都市中京区、同北区における無効投票中に各一票(新乙2の13、同3の24)、

(チ)「小西健一」なる投票が松山市における無効投票中に七票(新乙7の1、同7の12、同7の24、同7の25、同7の46、同7の47、同7の33)、「小西ケン一」なる投票が同市における無効投票中に三票(新乙7の39、同7の55、同7の40(但し7の40は「小西けん一」と記載があるが右は主張の誤記と認める)、「小西健三」なる投票が同市における無効投票中に二票(新乙7の11、同7の28)、「こにしケンジ」なる投票が同市における無効投票中に一票(新乙7の35)、「小西健市」なる投票が同市における無効投票中に一票(新乙7の32)、

(リ)「小西よしを」なる投票が新居浜市における無効投票中に一票(新乙6の74)、

(ヌ)「小西うキを」なる投票が京都市左京区における無効投票中に一票(新乙2の1)、

(ル)「小西秀逸」なる投票が松山市における無効投票中に一票(新乙7の20)、

(オ)「小西房吉」なる投票が新居浜市における無効投票中に一票(新乙6の14)、

(ワ)「小西俊興」なる投票が京都市下京区における無効投票中に一票(新乙1の5)、

(カ)「小西えいじ」なる投票が京都市北区における無効投票中に一票(新乙3の22)、

(ヨ)「こにしひろみ」なる投票が福岡市における無効投票中に一票(新乙4の23)、

(タ)「小西てい」なる投票が京都市東山区における無効投票中に一票(新乙3の7)、

(レ)「小西きう次郎」なる投票が京都市中京区における無効投票中に一票(新乙3の13)、

(ソ)「小西イチ子」なる投票が京都市上京区における無効投票中に一票(新乙3の29)、

(ツ)「小西実」なる投票が愛媛県小松町における無効投票中に四票(新乙8の1、同8の4、同8の5、同8の3)、西条市における無効投票中に一票(新乙9の5)、「コニシミノル」なる投票が右小松町における無効投票中に一票(新乙8の6)、

(ネ)「小西茂」なる投票が右小松町における無効投票中に一票(新乙8の2)、

(ナ)「小西寛」、「コニシヒロシ」なる投票が松山市における無効投票中に各一票(新乙7の51、同7の6)、

(ラ)「小西伊八」なる投票が滋賀県甲南町における無効投票中に一票(同町回答)、

(ム)「小西生衛」なる投票が新潟県中条市における無効投票中に一票(同町回答)、

(ウ)「小西あそ」なる投票が茨城県東海村における無効投票中に一票(同村回答) 、

(ノ)「小西「て」なる投票が岐阜県奥明方村における無効投票中一票(同村回答)(但し全国区の投票用紙によつて地方区の投票箱に投入したもの)、

(ヲ)「小西セイ」なる投票が福島県小高町における無効投票中に一票(同町回答)、

(ク)「コニシユキヒラ」なる投票が鹿児島県高城村における無効投票中に一票(同町回答)、

(ヤ)「こにしやすを」なる投票が佐賀県千代田村における無効投票中に一票(同村回答)、

(マ)「小西エイチ」なる投票が敦賀市における無効投票中に一票(同市回答)、

(ケ)「小西英一」なる投票が金沢市における無効投票中に一票(同市回答)、

(フ)「小西勉」なる投票が茨城県新利根村における無効投票中に一票(同村回答)、

が、それぞれ存在することが認められる。

右の各票は、いずれも被告の氏「小西」と一致する記載をもつけれども、その名の部分は、いずれも被告の名「英雄」とは著しく異り、したがつて、全体として被告の氏名と対比してもその間には類似性が認め難いところであり、被告に対す意思をもつてなした投票と認めるのは相当ではない。殊に本件選挙においては、(イ)の各票記載の下二字に一致又は類似した名を有する「高木正夫」「岩間正男」「小林政夫」なる候補者が、右(リ)の票記載の下三字に一致する名を有する「粟山良夫」なる候補者が、(ル)の票の下二字に一致する名を有する「村松秀逸」なる候補者が、右(ワ)の票記載の下二字に一致する名を有する「小田俊与」なる候補者が、右(ツ)の票記載の下一字に一致する音の名を有する「勝俣稔」なる候補者が、右(ネ)の票記載の下一字に一致する名を有する「斉藤茂」なる候補者が、右(ナ)の票の下一字(かな表示のものは下二字)の発音に一致する名を有する「中道宏」なる候補者が、右(ラ)の票記載の下二字に一致する名を有する「山田伊八」なる候補者が、右(ヲ)の票の下二字に一致する名を有する「吉田セイ」なる候補者が、更に右(ケ)の票の下二字の発音に一致する「石川栄一」なる侯補者が、それぞれ存在することが認められる。したがつて右各票は被告の氏名に類似性を有するとしても、他方右判示の各候補にも近似しているのであるから、一票中に二人以上の候補者の名を記載したもの、又は候補者の何人を記載したか不明のものとして無効の投票といわなければならない。

よつて右各票についての被告の主張は理由がない。

(五) 第二回検証の結果によれば同目録甲表の(四)記載のとおり、松山市における無効投票中「小西田」なる投票一票(新乙7の53)、同甲表の(四二)記載のとおり、京都市東山区における無効投票中に「雄英西小」なる投票一票(新乙7の53)がそれぞれ存在することが認められる。

右「小西田」なる投票は、その記載上からは、「小西田」なる氏のものとして記載したものであるか、「小西」を氏「田」を名として記載したものか、或は又、「小西」なる氏と、「西田」なる氏を重複して、記載したものか判断し難いところである。

しかし右、票の記載が仮に「小西」を氏とし、「田」を名として記載したものと解したとしても、これを被告の氏名に対比すると、「田」なる名は被告の名「英雄」との近似性が乏しく、全体として比照しても、被告の氏名に近似したものと認めることは困難である。したがつて右票は、候補者の何人を記載したか確認し難いものと認めるのが相当で、無効の投票といわなければならない。右「雄英西小」なる記載の投票は、これを下から読めば被告の氏名に一致するけれども、右票の記載は字の配列、及び筆跡からみれば無学無筆の者の投票とは解せられず、真に被告に投票する意思があるならば、被告の氏名を正記し得るものであると認められる。したがつて、右票は投票者の意識的な投票であり、被告に対する投票に故意に特異な方法をもつて、記載したものと認めるを相当とする。このようなものは、何人の記載であるのか容易にこれを判定し得るものであるから、投票者の自由なる意思による投票を尊重するために、投票の秘密を保持すべき無記名投票の原則に反するものであつて、結局無効の投票といわなければならない。

(六) 第二回検証の結果及び後記市、町の各調査嘱託の結果によれば同目録甲表の(四三)(四四)同乙表の(二三)ないし(二六)記載のとおり

(イ)「小西」なる投票が香川県山本町における無効投票中に二票、大州市における無効投票中一票、広島県甲山町における無効投票中に五票、合計八票(右市町回答)(うち山本町の二票は投票箱を違えたもの、大州市及び甲山町の票は前同様の他事記載のあるもの)、

(ロ)「コニシ」なる投票が香川県山本町における無効投票中に一票(同町回答)(但し地方区の投票箱に投入されたもの)、「こにし」なる投票が前橋市における無効投票中に一票(同市回答)、

(ハ)「クニシ」なる投票が福岡市における無効投票中に一票(新乙4の1)、「小ニシ」と読み得る投票が被告主張の京都市下京区における無効投票中に一票(新乙1の2)合計二票、

「コニヒ」なる投票が新居浜市における無効投票中に一票(新乙6の49)、

「にしひで」なる投票が大牟田市における無効投票中に一票(同市回答)、

が存在することが認められる。

右票中(イ)(ロ)記載の一〇票及び(ロ)の票中「小ニシ」と読み得る京都市下京区の投票一票は、いづれも被告の氏「小西」に一致し、他に同名の候補者のいないことが認められる(投票箱を違えたものは既述と同様の理由により投票の効力を害しないものと認められる)から、既述の票と同様の理由によつて無効の票と認めるべき他事記載のある六票を除いた合計五票は被告人の有効投票として加算すべきである。その余の(ロ)記載の各票は、その記載自体から、いづれも「コニシ」の誤記又は「こにしひでお」の略記と認め得るから、右三票もまた、被告の有効投票となすべきである。

三、(一) 第二回検証の結果及び後記市町村の各調査嘱託の結果によれば、別紙第六目録甲表の(一)ないし(四)、同乙表の(一)ないし(八)の(二)記載のとおり、

(イ)「大西英雄」なる投票が、京都市中京区、同東山区、福岡市における無効投票中各一票、同様松山市に二票、及び秋田県横手町外右乙表(一)各記載の四〇市町村における無効投票中に合計四七票以上合計五二票(新乙3の1、同3の15、同7の43、同7の44及び右横手町以下乙表(一)各市町村回答)、

(ロ)「大西秀雄」なる投票が京都市上京区、愛媛県小松町、新居浜市における無効投票中各一票、高知県野市町外乙表(二)記載の九市町村区における無効投票中に合計一〇票以上合計一三票(新乙1の21、同8の10同6の70及び右野市町以下乙表(二)各記載の市、町村、区、回答)、

(ハ)「大西秀男」なる投票が福岡市及び高知市における無効投票中に各一票合計二票(新乙4の36、及び高知市回答)

(ニ)「大西英夫」なる投票が愛媛県重信町、香川県直島町、埼玉県騎西町における無効投票中に各一票、合計三票(右各町回答)、

(ホ)「大西英男」なる投票が香川県三野村、児島市、長野県塩田町における無効投票中各一票合計三票(右市、町、村、回答)、

(ヘ)「大西秀夫」なる投票が愛媛県宮窪町、同県生川町、同県津島町、香川県志慶町及び小樽市における無効投票中に各一票合計五票(右市町、回答)、

(ト)「大西ひでを」なる投票が新潟県笠神村における無効投票中に一票(同村回答)、

(チ)「大西ヒデオ」なる投票が善通寺市における無効投票中に一票(同市回答)、

(リ)「おおにしひでを」なる投票が熊本県砥用町における無効投票中に一票(同町回答)、

(ヌ)「大西秀」なる投票が西条市における無効投票中に一票(新乙9の10)、

が、それぞれ存在することが認められる。

右(イ)の票の記載は被告の氏名と対照すると冒頭の一字が「大」と「小」と異つているが、全体として著しく近似していると認めるのを相当とする。原告は昭和三十年二月施行の衆議院議員選挙において、兵庫県において「大西正道」なる当選者がおり、香川県に「大西禎夫」、高知県に「大西正男」なる候補者があつた旨を主張し、右事実は成立に争のない甲第十三号証の一ないし四により認めることができるけれども、右の各氏名は、右各票の記載「大西英雄」とは異つているから、右投票が本件選挙の候補者でない右各人に対する投票とは認め難く、且つ、また本件選挙においても、右記載に類似した候補者は存在しないことが認められる。したがつて、「大西英雄」と記載された右各票は、既述の第二の二の(一)における判示と同様の理由により被告に対する投票の意思で、誤記又は誤称した票と認めるのを相当とする。ところで右票中の乙表の(一)中高知県甲浦町における投票は、地方区選出議員の投票用紙を使用したことが、同町からの嘱託回答によつて明らかであるから、右票は後記八における各投票の効力についての判示と同様の理由によつて無効となすべきものであるが、その他の合計五一票はすべて被告の有効得票として加算すべきである。

右(ロ)ないし(リ)摘示の各投票の記載はいずれも、「おおにしひでを」と読み得るものであるから、前段「大西英雄」の記載ある投票の効力についての判示と同様の理由によつて右合計二九票もまた被告の有効得票と認めるべきである。

更に右(ヌ)記載の票は、「大西秀」と記載されその筆跡の拙劣なことが認められるし、全体としてみれば、被告の氏名に類似し、且つ同氏名の候補者が他に存在しないことを合せ考えれば「大西秀雄」の「雄」の一字を遺脱したものと認め得るものである。「大西秀雄」と記載された票である以上、前記各票と同様被告の有効投票と認めて加算すべきである。

(二) 第二回検証の結果、及び後記市、町、村の各調査嘱託の結果によれば、同目録甲表の(五)ないし(一〇)、同乙表の(九)、(一〇)記載のとおり被告の主張した票中、

(イ)「大西秀次郎」なる投票が京都市中京区における無効投票中一票(新乙2の12)、

(ロ)「大西義夫」なる投票が新居浜市における無効投票中に一票(新乙6の10)

(ハ)「大西貞夫」「大西正一」なる投票が松山市における無効投票中に各一票(新乙7の22、同7の29)計二票、

(ニ)「大西エイチ」、「大西 」なる投票が京都市伏見区及び中京区における無効投票中に各一票(新乙3の18、同1-13)計二票、

(ホ)「大西秀樹」「大西一信」なる投票が鹿児島県高城村及び長崎県鹿町における無効投票中に各一票(同村町回答)計二票、

存在することが認められる。

右の各票の記載は、被告の氏、名に対比して考えるに、いづれも、被告の氏名とは異り、氏名全体を一体して比照しても、双互に類似性があるとは認め難いところである。したがつて右票はその記載からは被告に対する投票として、誤記又は誤称されたものとは認めるに由なく、結局被告の主張は理由のないものといわなければならない。

(三) 第二回検証の結果及び後記市、町、村の各調査嘱託の結果によれば、

(イ)  右目録甲表の(二)ないし(一七)、同乙表の(二)、(一一)記載のとおり「中西英雄」なる投票が京都市左京区における無効投票中に二票(新乙1の10、同1の11)、同市伏見区における無効投票中に一票(新乙1の18)、松山市における無効投票中に一票(新乙7の48)、及び栃木県二宮町、岡山県神郷町、山口県都濃町及び長崎県鹿町町における無効投票中に各一票(右各町回答)合計八票、

「仲西英雄」なる投票が松山市における無効投票中に一票(新乙7の14)、

「中西秀雄」なる投票が京都市伏見区、及び上京区における無効投票中に各一票(新乙1の14、同2の18)計二票、「中西英男」「中西秀夫」、「中西ひで夫」、「中西 デオ」なる投票が、福岡市における無効投票中に各一票(新乙4の43、同4の44、同4の25、及び砥用町回答)合計四票、「中西ビデオ」なる投票が京都市中京区における無効投票中に一票(新乙2の10)、

(ロ)  右目録甲表の(一八)同乙表の(一三)ないし(一五)記載のとおり、

「今西英雄」なる投票が京都市中京区における無効投票中に一票(新乙2-6)、

(ハ)「川西英雄」なる投票が熊本県葦北町における無効投票中に一票(同町回答)、

(ニ)「山西英雄」なる投票が、横浜市鶴見区、茨城県真壁町、及び富山県宇奈月町における無効投票中に各一票(右区及び町回答)計三票、

(ホ)「小英雄」なる投票が長野県辰野市における無効投票中に一票(同市回答)、

存在することが認められる。

右(イ)の票中「中西 デオ」、「中西ビデオ」の票の記載は、その記載筆跡から「中西ヒデオ」の誤記と認めることができる。しかして右の二票及び「中西英雄」「仲西英雄」「今西英雄」「川西英雄」「山西英雄」の各票の記載は、被告の氏名と対照すればいづれも最初の一字を異にする外は、すべて一致し、且つ全体として比較すれば、いづれも被告の氏名に近似し、他に同氏名の候補者の存在が認められないから、右の各票は前述「大西英雄」なる票の効力の判断に当つて判示したところと同様の理由により、被告の有効得票と認めるべきである。

右(ホ)の票の記載は、被告の氏名と対比すると被告の氏名中の「西」の一字を脱落させたものに一致し、他に「小英雄」なる候補者の存在は認められず、且つ、「英雄」なる名を持つ候補者も被告以外に存在しない。そして被告の氏は「小西」であるから、右票は右の事情とその記載の字の配列から考えて、「小西英雄」の西を遺脱した被告に対する投票と認め得られるから、これまた被告の有効投票と認めるべきである。

(四) 第二回検証の結果及び後記市、町、村の各調査嘱託の結果によれば、右目録甲表の(一九)、(二〇)及び同乙表の(一七)ないし(二一)記載のとおり

(イ)「西田英雄」なる投票が福岡市、北海道士別市外十二市、町における無効投票中に合計一六票(新乙4の8、同4の9、同4の24、及び士別市以下乙表(一六)各記載の市、町、村回答)

(ロ)「西田秀雄」なる投票が福岡県赤池町、大牟田市、大洲市、北海道門別町、及び甘木市における無効投票中に合計七票(右各市、町回答)、

(ハ)「西田秀夫」なる投票が愛媛県長浜町、福岡県勝山町、及び北海道門別町における無効投票中に各一票、合計三票(右各町回答)、

(ニ)「西田英男」なる投票が宮城県豊里町、津山市、福岡県二丈村、及び八幡市における無効投票中に各一票、合計四票(右市、村回答)、

(ホ)「西田ヒデオ」、「西田ヒデヲ」なる投票が兵庫県洲本市、及び大牟田市における無効投票中に各一票(右各市回答)計二票、

(ヘ)「西野英夫」なる投票が、京都市伏見区における無効投票中に一票(新乙1の20)、

(ト)「にしをひでを」なる投票が長野県茅野市における無効投票中に一票(同市回答)、

が存在することが認められる。

しかして右各票の記載は、その下二字((ト)については下三字)が被告の名又はその発音に一致し上二字中には、被告の氏の一字「西」が記載されているけれども、いづれも、その「西」の字が冒頭にあつて、全体として、これを被告の氏名に対比すると、一致する字数が多いに拘らず重点となる「西」の字の位置が転倒され、著しく、近似性を欠くに至つている。したがつて、本件選挙の候補者中には、「西田」「西野」「にしを」なる氏の候補者が存在しないことが認められるけれども、尚右各票の記載が被告の氏名の誤記、誤称と認めることは困難である。

よつて右各票は被告に対する投票を意としたものとは認め難く、被告の有効投票とは断じ難い。

(五) 後記調査嘱託の結果によれば、同目録乙表の(一六)記載のとおり、長崎県美津島町における無効投票中には「こにしひでをなかたおくにを」なる投票一票の存在が認められるけれども、右票は被告の氏名の外「なかたおくにを」なる記載があり、同記載は、本件選挙における候補者氏名でないことを認められるけれども、候補者の職業、身分等の記載ではないから、他事記載としての無効の投票であるといわなければならない。

四、第二回検証の結果並びに後記市、町、村からの調査嘱託の結果によれば、

(一)

(イ)  別紙第七目録甲表の(一)(但し松山市の一四票中の一票を除く)、及び同乙表の(一)記載のとおり、「大西」なる投票が無効投票中京都市下京区に二票、同右京区に一票、同中京区に一票、松山市に一三票、愛媛県小松町に三票、西条市に八票、新居浜市に三票、福岡市に二票及び北海道阿寒町外右乙表(一)各記載の一四七町村に合計二四三票、以上合計二七六票(新乙1の6、同1の8、同2の3、同3の17、同6の8、同6の9、同6の20、同7の4、同7の5、同7の12、同7の13、同7の21、同7の23、同7の26、同7の31、同7の37、同7の49、同7の52、同7の54、同7の42、同7の36、同8の7、同8の8、同8の9、同9の2、同9の6、同9の7、同9の8、同9の12、同9の22、同9の23、同9の27、同4の14、同4の22、及び右阿寒町以下の各市町村回答)、

がそれぞれあることが認められ右票中綾南町の一票に位置態容不明の他事記載があり、更に別に松山市に存在する一票(新乙7の36)は「大西」なる記載の下に「」なる記載のあることが認められる。

わが国では同一の氏をもつ者が相当あるから、氏のみを以て人を呼称する場合は、それが同一の氏のものが二人以上存在しない場合が原則であつて、同一氏のものが二人以上存在している社会では氏名を呼称してその人を特定するのが普通である。従つて、法でも選挙人に対し何人に投票するかを明確にするために候補者の氏名を記載して投票することを定めている(法第四十六条)。右の事実から考えれば、氏のみを記載した投票が何人に投票したかを定めるについては、氏名全部を記載した場合に比べれば、その類似性はたやすく肯認すべきでないことはもちろんであるといわなければならない。従つて、その氏の中の一字が同じであるからといつて、他にもその氏の中の一字が同じである候補者がいる場合は、特別の事情が認められない限り、その投票をもつて、その氏の中の一字が同じであるという一事で、特定の一候補者に対する有効投票とは解することはできない。右認定の各票は、いずれも氏のみを記載したものと認めるを相当とし、その氏の中には被告の氏「小西」の「西」の一字を含んではいる。しかしながら本件選挙において、「大谷」「大竹」なる氏を有する各候補者がいることが認められ、右認定の各票の記載の氏と、被告の氏も、格別特異性を有する氏ではないこと当裁判所に明らかである。現に前掲甲第十三号証の一ないし四によれば昭和三十年二月施行された衆議院議員選挙において、その当選者又は候補者として、兵庫県第四区に「大西正道」香川県第一区に「大西禎夫」高知県に「大西正男」のいることが認められる。そうであるから、(松山市の一票(新乙7の36)及び綾南町の一票の他事記載の点は暫く措いて)右認定の氏のみを記載した各票は、その点から被告に投票した有効投票とは、とうてい認めることができない。(この趣旨から氏名全部を記載した「大西英雄」なる投票を被告の投票として有効としたことは上段認定のとおりである。)被告は被告の氏「小西」は「こにし」と読むのが普通であるが、「おにし」とも読めないではないし、次に発音する「にし」との発音関連の上で、「おー」と引いて発音し、それで「小西」を示すのに「大西」を用いるのであると主張する。被告の氏「小西」の字を「おにし」と読む場合のあり得ること絶無ではないが、「大西」なる氏を有する者が存在することは前述のとおりである以上、本件において、既に「大西」と記載されている右投票の記載を「小西」の誤記であると認め難いことは既述のとおりであり、右各票は候補者以外のものの氏名を記載した無効の票と認めるのを相当とし、被告の主張は理由がない。

(ロ)  同目録甲表の(二)、及び同乙表の(二)、(三)記載のとおり、

「オオニシ」なる投票が神奈川県横須賀市における無効投票中に一票(同市回答)、

「オニシ」なる投票が香川県善通寺市における無効投票中に一票(同市回答)、

「おおにし」なる投票が福岡市における無効投票中に一票(新乙4の4)、

がそれぞれ存在することが認められる。

右のうち「オオニシ」及び「おおにし」の二票の記載は、「大西」なる氏の存在すること、及び「大西」なる記載の投票が多数存在することが、前段認定のとおりであることを合せ考えれば、特段の事情の認め難い本件では右二票の記載は「大西」のかな書きと認めるのが相当である。したがつて前段判示と同様の理由によつて被告の有効投票と認め難い投票である。

右票のうち「オニシ」なる一票の記載は、上段認定のように、被告の氏「小西」の字を「オニシ」と読み得る場合があり、「オニシ」と記載された氏を漢字で書き現わす場合は「小西」の字を当てはめることが多いと解せられるから、右票は「オオニシ」又は「おおにし」と記載された票と異り、被告の氏「小西」を表示した投票と解し得られる。したがつて上段認定の「コニシ」の票と同様の理由によつて被告の有効投票として加算すべきである。

(二)  同目録甲表の(三)ないし(五)、同乙表の(四)、(五)記載のうち、

(イ)「中西」なる投票が無効投票中京都市左京区、同南区、同上京区、新居浜市、西条市、福岡市、鹿児島市に各一票、松山市に九票、並びに山口県都濃町に一票、合計一七票(新乙1の12、同2の15、同3の28、同6の5、同9のl、同7の3、同7の16、同7の17、同7の18、同7の19、同7の27、同7の41、同7の56、同7の57、同4の41、同5の1及び都濃町回答)、

(ロ)「ナカニシ」なる投票が松山市右都濃町及び熊本県砥用町に各一票合計三票(新乙7の9及び都濃町、砥用町回答)、

(ハ)「なかにし」なる投票が松山市における無効投票中に二票(新乙7の7、同7の8)、

が存在することが認められる。被告は松山市に「中西」なる投票が一〇票存在すると主張するけれども前示九票の外は、その存在を認め得る証拠はない。そして、「中西」なる氏が格別特異性のある氏でないこと、及び「中村」、「中峠」の氏をもつ候補者が本件選挙に存在することが認められるので、右各票は「大西」なる投票について上段判断したところと同様の理由によつて、いずれも被告の有効投票とは認めることはできない。

(三)  同目録甲表の(六)、(七)、同乙表の(六)、(七)記載のとおり、

(イ)「山西」なる投票が新居浜市における無効投票中に一票(新乙6の17)、

(ロ)「川西」なる投票が鹿児島市及び島根県江府町外右乙表(六)記載の三市における無効投票中に各一票合計五票(うち八尾市の一票に位置態容不明の他事記載がある)(新乙5の4、及び江府町以下右乙表記載の各市回答)、

(ハ)「西山」なる投票が熊本県砥用町における無効投票中の一票(同町回答)、

がそれぞれ存在することが認められる。

右各票の記載は被告の氏「小西」との近似性が稀薄である外本件選挙における候補者中に「山本」「山岡」「山田」或は「川上」「川澄」「杉山」「泉山」等の上記認定の氏名中の一字を共通する氏を有する各候補者の存在することが認められるので、結局この点において上段説示と同様の理由によつて、被告の有効投票と認めることができない。

(四)  同目録甲表の(八)ないし(一三)、同乙表の(八)記載のとおり、

(イ)「小し」なる投票が京都市下京区における無効投票中に一票(新乙1の1)、

(ロ)「こはし」なる投票が新居浜市における無効投票中に一票(新乙6の18)、

(ハ)「小間」なる投票が京都市伏見区における無効投票中に一票(新乙1の15)、

(ニ)「小平」なる投票が京都市伏見区における無効投票中に一票(新乙1の16)、

(ホ)「小山」なる投票が京都市下京区及び東山区における無効投票中各一票合計二票(新乙1の3、同3の10)、

(ヘ)「小田」なる投票が京都市下京区、同伏見区及び松山市並びに茨城県江戸崎町、熊本県須恵村に各一票合計五票(新乙1の7、同1の17、同7の50及び江戸崎町、須恵村回答)、

が存在していることが認められる。

右各票の冒頭の一字は「小」又は「こ」で被告の氏の冒頭の一字に一致しているけれども、全体としてこれをみるときは、被告の氏「小西」との近似性はたやすく認め難く、その上、本件選挙には「小平」「小田」の氏を有するものばかりではなく、「小野」「小原」「小杉」「小林」等の氏を有する候補者の存在も認められ、上段説示と同様の理由(「小平」「小田」については寧ろ、同候補者等の有効得票と解すべき余地が強い)によつて原告の有効得票と認めることはできない。

五、第二回検証の結果及び後記市、町、村の各調査嘱託の結果によれば、

(一)  別紙第八目録甲表の(二)ないし(一三)、同乙表の(三七)、(三九)ないし(四一)及び(四四)記載のとおり、

(イ)「小国英雄」なる投票が京都市中京区における無効投票中に一票(新乙2の7)、

(ロ)「小畑秀雄」なる投票が京都市東山区における無効投票中に一票(新乙3の3)、

(ハ)「小畠秀男」なる投票が新居浜市における無効投票中に一票(新乙6の76)、

(ニ)「小出英雄」なる投票が佐賀県千代田村、岐阜県坂下町における無効投票中に各一票合計二票(右各町回答)、

(ホ)「小島英雄」なる投票が熊本県湯前町における無効投票中に一票(右町回答)、

(ヘ)「小谷英夫」なる投票が兵庫県青垣町における無効投票中に一票(同町回答)、

(ト)「小沢英雄」なる投票が防府市における無効投票中に一票(同市回答)、

(チ)「小橋英雄」なる投票が福島県本宮町における無効投票中に一票(右町回答)、

が、それぞれ存在することが認められる。

右の各票の記載は下二字が、いずれも被告「小西英雄」の名「英雄」、或はこれと同音の文字が記載せられ、冒頭は、いずれも、被告の氏「小西」の書初の字「小」に一致し、二字目の相違にかかわらず全体としてこれをみれば、被告の氏名に近似している。そして本件選挙においては、右各票記載の上二字に一致する候補者は、ないことを合せ考えれば、右各票の記載は、被告「小西英雄」の誤称又は誤記であると認めるのを相当とする。

よつて右合計九票は被告の有効得票として加算すべきである。

六  第二回検証の結果及び後記各市、町、村の調査嘱託の結果によれば

(一)  同目録甲表の(一)ないし(三)、同乙表の(一)ないし(七)記載のうち、

(イ)「小林英雄」なる投票が福岡市及び岡山県福渡町外右乙表(五)記載のとおり二六市町村における無効投票中に合計三〇票(新乙4の7、及び福渡町以下、右乙表記載の各市町村回答)、

(右甲表の(一)中の西条市に存在すると被告の主張する票は後記のとおり「小林英雄」の表示(新乙9の18)である)

(ロ)「小林秀雄」なる投票が福岡市及び富山県高岡市外右乙表の(六)記載のとおり一一市町村及び区における無効投票中に各一票合計一三票(新乙4の3及び高岡市以下右乙表記載の各市、町、村、区回答)並びに前段摘示の西条市における無効投票中に一票(新乙9の18)、

(ハ)「小林英夫」なる投票が富岡市、岡山県熊山町、同県舟穂町、山口県世羅町、群馬県北橘村、静岡県裾野町、埼玉県荒川村、愛媛県壬生川町における無効投票中各一票、高梁市に同様二票合計一〇票(右各市町村回答)、

(ニ)「小林英男」なる投票が大村市、高知市、長野県本原村、広島県三良坂町における無効投票中に各一票合計四票(右市、町村回答)、

(ホ)「小林秀男」なる投票が唐津市及び福島県猪苗代町における無効投票中に各一票合計二票(右市、町回答)、

(ヘ)「小林秀夫」なる投票が長崎県小棚町外右乙表の(四)記載のとおり一二市町村における無効投票中に合計一六票(右各市町、村、回答)、

(ト)「コバヤシヒデヲ」なる投票が松山市における無効投票中に一票(新乙7の30)、

(チ)「小林秀次」なる投票が佐賀県千代田村、東京都板橋区における無効投票中に各一票合計二票(右村、区、回答)、

が、それぞれ存在することが認められる。

右各票中、(イ)の票の記載は下二字が被告の名「英雄」と一致し、(ロ)ないし(ト)の各票の記載は、その音において右「英雄」の音と一致している。そして冒頭の一字は、これまた被告の氏の冒頭の字に一致し、全体的にみれば、相当近似性があるものと認め得るけれども、本件選挙の候補者中には、「小林政夫」なるものが存在することが認められ、右各記載を同候補者の氏名と全体的に比較すれば同候補者の氏名にも被告の氏名と同様近似性をもち、結局一票中に二人以上の公職の候補者の氏名を記載したものか、または、公職の候補者の何人を記載したかを確認し難いものと認めるべきであるから、被告の有効得票と認めることはできない。

右(チ)の投票「小林秀次」の記載は全体として被告の氏名「小西英雄」との類似性が薄く、他に「小林政夫」なる候補者のいることは前段認定のとおりであるから、前段と同様の理由によつて、これまた、被告の有効投票と認めることは相当でない。

(二)  同目録甲表の(四)ないし(七)、同乙表の(八)ないし(一三)記載のとおり、

(イ)「小野英雄」なる投票が松山市及び平市外右乙表(八)記載のとおり一六市町村における無効投票中に各一票合計一八票(新乙7の2及び平市以下右乙表記載の各市、町、村回答)、

(ロ)「小野秀夫」なる投票が新居浜市、北海道積舟町、名古屋市千種区、宮城県鹿島台町における無効投票中に各一票合計四票(新乙6の83、及び積舟町、千種区、鹿島台町回答)

(ハ)「小野秀雄」なる投票が新居浜市及び釜石市、平市における無効投票中に各一票合計三票(新乙6の13、及び釜石市、平市回答)、

(ニ)「小野秀男」なる投票が西条市における無効投票中に一票(新乙9の4)、

(ホ)「小野英男」なる投票が和歌山県湯浅町、八王子市、岡山県里庄町における無効投票中に各一票(右各市、町回答)

(ヘ)「小野英一」なる投票が平市、長崎県富江市、三重県白山町における無効投票中に各一票合計三票(右市、町回答)

(ト)「小野義一」なる投票が茨城県潮来町における無効投票中に一票(右町回答)、

が、それぞれ存在することが認められる。

本件選挙の候補者中には「小野義男」なるものが存在することが認められ、右各票の記載と、被告の氏名、並びに右候補者の氏名との近似性、類似性の関係は前段認定の「小林英雄」外の各票の記載と同様の関係にあるものと認められるので、前段判断と同様の理由によつて、いずれも被告の有効得票と認めることはできない。

(三)  同目録乙表の(一六)、(一八)、(一九)、(二二)、(二三)記載のとおり、

(イ)「小川英一」なる投票が群馬県小島町、宝塚市における無効投票中に各一票合計二票(右町及び市回答)、

(ロ)「小田俊一」なる投票が茨城県潮来町における無効投票中に一票(同町回答)、

(ハ)「小田英治」なる投票が前橋市における無効投票中に一票(右市回答)、

(ニ)「小田ひで人」なる投票が島根県六日市町における無効投票中に一票(同町回答)、

(ホ)「小田英一」なる投票が羽生市における無効投票中に一票(同市回答)

が、それぞれ存在することが認められる。

右の各票中には、いずれも、被告の氏名「小西英雄」中の「小」又は「英」「ひで」の一字又は二字に一致する字の記載はあるけれども、全体として被告の氏名と比較すれば、到底近似性は認め難いところであり、且つ本件選挙においては「小川友三」、「小田俊与」、「小田天界」なる候補者の存在することが認められるので、被告の氏名の誤記又は誤称とは認められない。被告の右各票についての主張は理由がない。

(四)  同目録甲表の(一〇)、(一四)ないし(二一)及び同乙表の(三八)記載のうち、

(イ)「小山雄」なる投票が京都市中京区における無効投票中に一票(新乙2の8)、

(ロ)「山本英雄」なる投票が新居浜市における無効投票中に一票(新乙6の19)、

(ハ)「山田英雄」なる投票が京都市上京区における無効投票中に一票(新乙2の19)、

(ニ)「石川英雄」なる投票が京都市左京区における無効投票中に一票(新乙lの9)、

(ホ)「田村英雄」なる投票が京都市伏見区における無効投票中に一票(新乙1の19)、

(ヘ)「田中 男」なる投票が京都市下京区における無効投票中に一票(新乙1の4)、

(ト)「中野英雄」なる投票が京都市南区における無効投票中に一票(新乙2の16)、

(チ)「大野秀雄」なる投票が京都市右京区における無効投票中に一票(新乙2の4)、

(リ)「中村英雄」なる投票が京都市中京区における無効投票中に一票(新乙2の5)、

(ヌ)「山口英雄」なる投票が大牟田市における無効投票中に一票(同市回答)、

が、それぞれ存在することが認められる。

右(イ)の票「小山岩雄」なる投票は、下二字の記載が、いかなる字であるか、判読不可能であり、氏名全体としてみて、被告の氏名「小西英雄」とは近似性も認めることは困難であり、右氏名に該当する候補者の存在が認め難いので、候補者以外の氏名を記載した投票で無効の投票と解するのが相当である。

右(ロ)ないし(リ)の各票の下二字の記載は、いずれも被告の名、「英雄」又はその音「ひでお」を表わす二字に一致するけれども、上二字の「山本」、「山田」、「石川」、「田村」、「田中」、「中野」、「大野」「中村」は被告の氏「小西」と対比しては何の近似性も認め難く、したがつて、氏名全体としてみても、その近似性は極めて薄いものといわなければならない。殊に本件選挙においては、「山本杉」「山本平保」「山田伊八」、「石川栄一」、「田中一」、「小野義夫」「中村正雄」なる候補者の存在することが認められ、下二字が、文字又は音において被告の名に一致するとの一事をもつて、右各票の上二字が被告の氏「小西」の誤記又は誤称と認めることはできず、前同様候補者でない者の氏名を記載したものか又は二人以上の候補者の氏名を記載したものとして無効と解するのを相当とする。

七、第二回検証の結果及び後記各市、町、村の調査嘱託の結果によれば

(一)  別紙第八目録甲表の(八)及び(九)、同乙表の(三二)ないし(三六)記載のうち、

(イ)「小山英雄」なる投票で、被告が「小山秀雄」なる記載と主張するものが福岡市に一票存在する外宮城県岩島町外右乙表(三二)記載の一六市町村における無効投票中に一八票合計一九票(新乙4の20、及び右岩島町以下右乙表記載の市、町、村回答)、

(ロ)「小山秀雄」なる投票が大村市及び玉名市における無効投票中に各一票合計二票(右各市回答)、

(ハ)「小山英男」なる投票が福島県二本松町における無効投票中に一票(右町回答)、

(ニ)「小山秀男」なる投票が諏訪市における無効投票中に一票(同市回答)、

(ホ)「小山秀夫」なる投票が倉敷市における無効投票中に一票(同市回答)、

(ヘ)「小山ひで」なる投票が松山市における無効投票中に一票(新乙7の28)、

が、それぞれ存在することが認められ、

(二)  同目録甲表の(二二)、同乙表の(一四)、(一五)及び(一七)記載のとおり、

(イ)「小川英雄」なる投票が福岡市及び岩見沢市、兵庫県三原町、宮城県角田町、愛媛県三間町及び香川県香川町における無効投票中に各一票、合計六票(新乙4の5及び岩見沢以下右各町回答)、

(ロ)「小川秀男」なる投票が島根県出雲市における無効投票中に一票(右町回答)、

(ハ)「小川秀雄」なる投票が立川市における無効投票中に一票(同市回答)、

がそれぞれ存在することが認められ、

(三)  同目録甲表の(二四)ないし(二五)、同乙表の(二〇)、(二一)、(二四)ないし(二七)記載のとおり、

(イ)「小田英雄」なる投票が福岡市及び中津市外右乙表(二六)記載のとおり一七市町村における無効投票中に各一票、合計一九票(新乙4の5及び中津市以下右乙表各記載市、町、村回答)、

(ロ)「小田秀雄」なる投票が八女市、東京都板橋区、亀岡市、宮城県鳴子町における無効投票中に各一票合計四票(右各市、町回答)

(ハ)「小田英男」なる投票が岩手県江刺町、埼玉県小川町、宮崎県北方村及び飯塚市における無効投票中に各一票合計四票(右各市、町回答)

(ニ)「小田英夫」なる投票が松本市における無効投票中に一票(右市回答)、

(ホ)「小田ひでお」なる投票が臼杵市における無効投票中に一票(右市回答)、

(ヘ)「をだひでを」なる投票が岡山県東児町における無効投票中に一票(右町回答)、

(ト)「小田ヒデオ」なる投票が福岡市における無効投票中に一票(新乙4の26)、

が、それぞれ存在することが認められ、(被告主張の右甲表の(二三)記載の「小田秀男」なる投票の存在は被告の全立証をもつてしてもこれを認め難い)、

(四)  同目録乙表の(二八)ないし(三一)記載のとおり、

(イ)「小平英夫」なる投票が諏訪市における無効投票中に一票(右市回答)、

(ロ)「小平秀雄」なる投票が山梨県上野原町における無効投票中に一票(同町回答)、

(ハ)「小平秀夫」なる投票が宇都宮市及び川崎市における無効投票中に各一票合計二票(右各市回答)、

(ニ)「小平英雄」なる投票が大牟田市、青森県十和田町、長野県野沢町及び同県辰野町における無効投票中に各一票合計四票(右各市、町回答)、

が、それぞれ存在することが認められ、

(五)  同目録乙表の(四二)及び(四三)記載のとおり、

(イ)「小杉英雄」なる投票が宮崎県西都町における無効投票中に一票(同町回答)、

(ロ)「小杉秀雄」なる投票が長崎県披杵町における無効投票中に一票(同町回答)、

が存在することが認められ、

(六)  同目録甲表の(二六)及び同乙表の(四五)ないし(四八)記載のとおり、

(イ)「小原秀雄」なる投票が山口県秋穂町における無効投票中に一票(右町回答)、

(ロ)「小原英夫」なる投票が青森市における無効投票中に一票(右市回答)、

(ハ)「小原英男」なる投票が田川市における無効投票中に一票(右、市回答)、

(ニ)「小原秀夫」なる投票が長野県篠井町における無効投票中に一票(右町回答)、

(ホ)「小原秀男」なる投票が鹿児島市における無効投票中に一番(新乙5の11)、

が、それぞれ存在することが認められる。

ところで右(一)ないし(五)において認定した各票合計七九票の投票については、その効力の判断は後記認定のように、主文になんの影響がないから、これを措くこととする。

八、ところで本件選挙における地方区の投票用紙であつて、別紙第九目録記載のとおりの記載内容をもつ投票が被告の主張のとおり、愛媛県小松町における無効投票中合計二〇票存在することが認められる。(なお、この点については被告の昭和三十三年九月二十五日付の証拠申出を上段説明のとおりに民事訴訟法第百三十九条によつて却下している)。本件選挙と同時に行われた地方区選出の参議院選挙の用紙が本件選挙(全国区)の投票用紙と異る用紙であることは顕著なところである。そうであるから地方区の投票用紙に全国区の候補者の氏名を記載した投票(この逆も、もちろん同様である)は、成規の用紙を用いた投票でないから無効なものといわなければならない(法第六十八条第一号)。また、もし、投票者が全国区の候補者の氏名を地方区の候補者の氏名なりと誤認して投票したとすれば、それは地方区の投票としてみれば、候補者以外の者の氏名を記載した投票として無効とすべく(法第六八条二号)もし、投票者が意識的に全国区の候補者の氏名を地方区の投票用紙を用いて投票する意思でなしたとすれば、これもまた、左記のような不合理な結果を招くことになる。公職候補者の投票は各選挙について、一人一票であり、参議院議員の選挙については、地方選出議員及び全国選出議員ごとに一人一票である(法第三十六条)。したがつて被告主張のように地方選出議員選挙の用紙をもつて、全国区選出議員に投じた票を有効と解すれば、全国選出議員に対する選挙について、二票の投票を行使できることとなり、右法条の趣旨に背馳し、国民の意思を平等に反映させる選挙制度を破壊することともなる。従つて右の投票は全部無効なものといわなければならないからこの点に関する被告の主張は理由がない。

第五、そうすると前示七の(一)ないし(五)においてその存在を認定した投票合計七九票が全部仮に有効であるとしても、被告の有効投票数は、本件選挙会において、有効得票と決定され、原告もこれを争わない二四〇、七一一・五一八票と既に被告の有効得票として認定された一八九票と右七九票であるから、結局合計二四〇、九七九・五一八票となるに過ぎず、原告の有効得票数二四一、一八〇・六八八票に比して二〇一・一七〇票少ないものとなる。

しからば被告は本件選挙において、上記の判断を省略した右七九票の効力についてすべて有効と判断を受けても、原告の有効得票数に及ばず、得票順位は原告に次いで第五十三位となり、当選人たり得ないものである。

よつて、右七九票の投票の有効、無効を判断するまでもなく、被告の当選の無効の確定を求める原告の請求は理由がある。

そこで原告の請求を認容し、訴訟費用の負担について民事訴訟法第九十五条、第九十六条、第八十九条に則り、当審(差戻前及び差戻後とも)及び上告審での訴訟の総費用を被告をして負担せしめるものとして、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 村松俊夫 裁判官 伊藤顕信 裁判官 小河八十次)

(別紙目録省略)

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