大判例

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東京高等裁判所 昭和33年(ネ)1088号 判決

控訴人は右時価の算定については建物の価格の外これと不可分的に有形無形の財産価値を構成すべき敷地の借地権の価額をも含めた合計額を以て基準とすべきであると主張するのでこの点について審按する。

一、元来借地法第十条の買取請求権に関する規定は第三者が土地賃借人から賃借地上の建物を譲受けた場合において賃貸人が賃借権の譲渡または転貸を承諾しないとき即ち敷地使用権を有しない建物譲受人をして直ちに土地の不法占有者として該建物を収去して土地の明渡を為さしめるのは酷に失するから、これが損害を軽減せしめると共に建物その他地上附属物の経済上の効用を全うせしめて地上建物取毀による国家の経済上の損失を防止せんがため設けられた規定であつて、もとより建物譲受人をして右承諾のあつた場合即ち敷地使用権を有する場合と同一の経済上の利益を享有せしめる法意であると解することはできない。従つて叙上の法意よりすれば同条にいわゆる時価は右建物が土地に附着したままの状態において建物自体が有する価額を標準として算定すべく、これに取得者の有しない敷地土地の賃借権の価額を加算すべきものでないことは勿論右建物を取毀つた動産として評価すべきものでないことも自明の理であつて、これを実際上の見地からみても、若し建物譲受人が借地権の価格をも含めた対価を以て地上建物を譲受けたとすれば、これによる損害は右借地権の価額に関する限り賃借人の建物譲受人に対する債務不履行による損害額として右両者の間で調整せらるべきものであり、買取請求権の行使によつてこれを地主に転嫁させる合理的理由もまたその必要も存しないといわねばならない。

この見地に立て本件建物の前示買収請求権行使当時における時価を考えるとき当裁判所は原審鑑定人藤宮惟一の鑑定の結果に鑑みその時価は金三十六万九千円を以て相当であると認定する。右と異なる爾余の鑑定の結果は採用し難い。

以上確定の事実によれば控訴人は本件建物の所有権取得以後である昭和二十九年七月一日以降前示建物買取請求権行使の日である昭和三十一年二月二十八日までは本件地上に右建物を所有することにより該土地を不法に占有し被控訴人の該土地に対する使用収益を妨げたものというべきであるから、右期間における本件土地の相当賃料額にあたる一ケ月金二百七十円の割合による損害金(右相当賃料額については当事者間に争がない)を被控訴人に対して支払う義務がある。

そして控訴人は前示日時に本件建物につき買取請求権を行使すると共に右時価による代金の支払あるまで本件建物の明渡を拒む旨同時履行の抗弁を援用し、右建物の時価は金三十六万九千円であること前示認定のとおりであるから、控訴人は被控訴人から右金三十六万九千円の支払を受けるのと引換に被控訴人に対し前示建物から退去して右建物及び敷地を明渡す義務あること勿論である。

二、次に前示買取請求権の行使によつて本件建物の所有権が被控訴人に移転した昭和三十一年二月二十八日以後も控訴人が本件建物を自己のために利用しその敷地たる本件土地を占有使用していることは当事者間に争がないところ、控訴人は同日以後は前示同時履行の抗弁の反射作用として本件土地を占有し得るに止り、その使用収益をなし得べき基本権を有するものでないに拘らず、建物の引渡をなすに至るまでこれを自己のために利用しその敷地たる本件土地を占有使用するものであるから、その間土地所有者の損害において敷地の賃料に相当する利益を得るものというべく、この範囲で不当利得をなすものと解するを相当とする。従つて控訴人は前示買取請求権行使の翌日以降も右明渡まで前示認定の相当賃料額たる一ケ月金二百七十円の割合による金員を不当利得として被控訴人に返還すべき義務がある。

(柳川 坂本 中村)

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